第6話 夜・仕込まれたグラタンの謎

 青木家のテーブル。

 中央には大きな器に盛られたサラダが置かれ、四つの席には焼けたチーズがグツグツと音を立てる丸い器があった。

 本日の晩ご飯は、グラタンである。

 あと麦茶。


「無念……っ!!」


 夫、青木天志は、ガクッと床に突っ伏した。

 一方喜び舞っているのは今年小学二年生になる娘、青木空である。

 飛び跳ねるたびに、ツインテールも上下に揺れる。


「やったー! ママ大すき!」

「スパゲティー……たべたかった」


 ちょっと涙目になっているのは、空の一歳年下になる弟、青木陸だ。


「ふふん。二人とも、嘆くのはまだ早いわよ」


 娘を喜ばせ、男衆二人を泣かせた妻、青木未海はチッチッと指を振っていた。


「とにかく、席に座って食べてみれば……って、パパはもう匂いで分かるでしょ?」


 一足先に未海が席に座り、グラタンにフォークを刺した。

 そこから漏れる、香ばしい香辛料の匂い。

 それを感じ取り、崩れ落ちていた天志が勢いよく立ち上がった。


「これは、紛うことなきカレーの味! ママ、やってくれたな!?」


 陸も、グラタンの中身に気付いた。

 そう、カレーを混ぜたベシャメルソースに絡んでいるのは、マカロニではない。

 パスタである。


「わあぁ……スパゲティーだ!」

「三人のリクエスト、全部叶えてあげたわよ!」


 未海達も席に着き、食卓を囲んだ。


「ママ、すごいな!」

「すごい!」

「うん、すごい!」


 夫達の賞賛を一身に浴びながら、未海はサラダを取り分けていく。

 この三人、野菜はあまり好きではないのだ。

 ちゃんとそれぞれに食べさせないと、大量に残ってしまう。

 空はアスパラガスが嫌いなので、最低でも二本は入れておく。

 陸はゆで卵を多めに入れておけば、それと一緒に食べるし、あとマヨネーズを忘れずに。

 天志? ノルマを用意しておけば、文句を言わず食べるから普通に盛ればいい。

 作業を終えてから、未海もカレーグラタンパスタを口にしてみる。

 うん、麺の茹で加減もバッチリだ。

 ベシャメルソースやチーズもよく絡んで、熱々だが手が止まらない。

 そうだ、三人には言っておかなければならないことがあった。


「三人リクエストバラバラだったけど、こんなの毎回できるとは思わないでね。あと、明日の晩ご飯はわたしの好きな、ハンバーグになります」


 明日は近所のスーパーでミンチ肉が安いのだ。

 未空に宣言に、天志達が歓声を上げた。


「それは、僕達の大好物でもある! 当然、デミグラスソースだよな!」

「アタシ、和風おろしがいい」

「え……ぼく、テリヤキがいい……」


 未空は、フォークを持つ手を止めた。


「……それはさすがに、ジャンケンで決めてね?」


 未空はどの味付けも好きだが、次の揉め事の解決は自分達でやって欲しいと思うのだった。




※基本、作者は細麺のパスタをスパゲッティーと呼びますが、今回の陸君はスパゲティーと呼び出したのでここはスパゲティーで統一させて頂きます(誤字とかではないということで)。

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