第5話 昼・披露宴後のコースメニュー
ここはホテルの控え室。
クロスの掛けられたテーブルには、様々な料理が並んでいた。
鴨のローストと季節の野菜サラダ。
海老のビスクスープ。
舌平目のムニエル、バターとレモンソース。
牛フィレ肉のグリル、赤ワインソース。
抹茶のムースと金箔のあしらい。
籠にはフランスパンが盛られ、バターとジャムは別の小皿に。
食後のコーヒー、または紅茶は別に持ってくることになっていた。
「あああああ、終わったぁ……」
本日の主役の一人、九条綾瀬は椅子にもたれ掛かり、大きく息を吐いた。
スタイルのいい肢体、彼女の本業はモデルである。
朝の挙式から始まり、昼の披露宴。
今は午後の三時だ。
「終わったねぇ。お疲れ様。でもまあ、明日もなかなかハードだよ」
そういうもう一人の主役は、朝比奈悠真。
今日、二人は夫婦となった。
ちなみに明日から、新婚旅行だ。
旅行先はイタリアで、ナポリ、ポンペイ遺跡、ローマなどを巡る予定だ。
ワインも、控えめにしたいところである……が、飲むことは飲むのだが。
「飛行機の中で寝るからいい。そしてイタリアに着いたら、また食べる。……それよりも今はご飯に集中することにします」
身体を起こした綾瀬は、前菜に取りかかった。
それを見て、悠真もフォークに手を伸ばした。
「披露宴の最中は、食べられなかったもんなぁ」
来賓への挨拶はもちろん、スピーチやら写真撮影やら、食事の時間などなかった。
サラダを口にする。
シャキシャキとした食感の葉物野菜や甘味のあるトマト。
さっぱりとしたドレッシングが、鴨のジューシーな旨味を軽く引き締めてくれていた。
加えて、空腹は最大の調味料とはよく言ったものだ。
サラダを食べ終え、スープに取りかかる。
「ホント、辛かった……あー、顔が笑顔のまま強張ってる」
綾瀬は、空いている左手で自分の頬をグニグニと揉んだ。
「正直、ちょっと恐い」
本当に強張っているらしく、顔は笑みのままだ。
そして目だけ笑っていない。
「貴方のお嫁さんなんですけどー……はあぁぁ……スープ癒されるぅ……」
綾瀬の言う通り、口にした瞬間、広大な海と海面を跳ねる海老が悠真の頭に浮かんだ。
潮と同時に、クリーミーなバターの風味が口に広がっていく。
「こういう形で料理を出さざるを得なかったんだけど、帰国したらちゃんとしたコースで出したいねえ」
そこはちょっと、悠真の不満点であった。
「食材も厳選してよ、シェフ」
「了解しました」
料理の構成も、味付けも考えたのは新進気鋭の料理人、朝比奈悠真である。
さすがに主賓が調理に携わる訳にはいかなかったが、リベンジは自身でやろうと決意する悠真であった。
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