第2話 昼・お父さん特製のタクアン炒飯

 弱い冷房の風に揺られ、チリリンと風鈴が鳴った。

 藤伊玲菜の前には、角皿に丸く盛られた炒飯があった。

 付け合わせは野菜スープ。

 氷と麦茶の入ったグラスは、結露を浮かべている。


「いただきまーす!」


 両手を合わせて、玲菜は声を上げた。

 そして、炒飯を崩しては口に運んでいく。

 程よく熱い米と脂、それにネギやハムも香ばしい。


「レナはホンマ、美味そうに食うなあ」


 対面に座る父、藤伊智明も同じように炒飯を食べながら笑う。

 普段は夜帰ってくる智明だが、極稀に昼間に帰ってくることがある。

 玲菜は夏休み中だ。

 そして、昼間に帰ってきた智明が作る炒飯が、玲菜は大好物で、毎回それをリクエストしていた。


「だって、美味しいんだもん」

「言うても、普通の炒飯やぞ? 少しちゃうんはオイスターソース使ってるぐらいやけど、別に珍しい言うほどやないし」


 冷房を使っているとはいえ、キッチンで炒飯を作った智明のTシャツは汗だくだ。

 母の作るご飯も美味しいが、智明の作る炒飯は玲菜にとって特別なのだ。


「卵ふわふわ!」

「二人分で三つ使っとるしな」

「あと、何かシャクシャクするの!」

「それは、タクアンやな」


 特に、このタクアンが美味しい。

 食べるとちょっと酸っぱい。

 玲菜は酸っぱいのはあまり好きではないが、この炒飯に入るタクアンは、噛んだ時の食感も味も大好きだった。

 野菜スープもいい。

 いつもは大好物のハンバーグの付け合わせでも、渋々我慢しながら野菜を食べている玲菜だったが、この野菜スープは全然そんなことなく、炒飯と交互に美味しく頂ける。

 あっという間に皿もスープの器も空になった。


「おかわり!」

「……はないんよ。余っとったご飯使てたから」


 ゆっくり食べている智明は、苦笑いを浮かべながら自分の炒飯を崩していた。


「えぇ~」

「という訳で、俺のを半分分けたろ」


 玲菜の皿を取ると、智明は自分の分の炒飯の半分を、そちらに移した。


「やった!」

「俺は……餅でも焼くか」


 智明は大人だ。

 玲菜に炒飯を分けた、その量ではとても足りない。

 餅は、野菜スープにでも入れるのだろう。

 ちなみに野菜スープは確かまだ、鍋に残っていたはずだ。


「私も食べる!」


 玲菜は勢いよく手を挙げた。


「育ち盛りとはいえ、女の子がそんな食うて大丈夫か?」

「ちゃんと運動するもん!」


 玲菜はフットサルのチームに所属している。

 まだ少し時間はあるが、今日もこれからフットサルコートに向かう予定があった。


「水分補給は忘れんなよ。屋根付きコート言うても油断大敵や」

「うん!」


 元気よく頷き、玲菜は炒飯を完食したのだった。




※後に亡くなった父の炒飯を再現しようとした玲菜だったが、どうしても記憶の味にはできず、探偵ナ○トスクープに依頼することになるのであった。

 鍵となるのはタクアンである。

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