繰り返す

S

第1話


俺は人とは違う力を持っている。タイムスリップだ。身体だけ戻り、記憶はそのまま。皆が理想とする形の能力だ。でもそれだけ。この能力は小学四年生の時、友達のたかし君が車に轢かれそうになった時、助けようと道路に飛び出した時に初めて使えるようになった。最初は、好きな事を沢山した。でも、何度もやる内に飽きてきた。結局、無いものねだりというもので、妄想の上だから下剋上だとか野望とかが出てくるんだ。今は、必要な時以外は使っていない、普通の高校2年生だ。

「それでは本日のニュースです。本日17時頃、道岡市立道岡中学校で女子中学生が校舎の屋上から飛び降り、死亡が確認されました。警察は自殺の可能性が高いと見て、女子中学生の身元の調査を進めています。」

「ちょっとあんたの学校じゃない!この子も友達だったんじゃないの?!」家で見ていたテレビに映っていたのは、かつて自分が通っていた中学校で起きた自殺のニュースだった。自分は仲の良い後輩なんていなかったから、真剣にテレビを見ていた母さんには「違うと思う。」とだけ言って部屋に行った。

部屋に1人で居てもあの事件の事が頭から離れなかった。あの中学生は誰なのか。何で死んだのか。どういう気持ちだったのか。当たり前だ。今は21時、事件が起きてからまだ4時間しか経っていないし、多分警察も急いで捜査している。全国ではありふれたニュースだし、地域でちょっとした話題になる程度だろう。でも、僕は気になってしまった。理由は単純な興味だ。

自分にはタイムスリップ出来る能力があるのを思い出した。普段使わなさ過ぎて忘れていた。これなら何日も待たず真実が知れる。そう思ったら早速過去に戻ることにした。戻った時間は16時。事件が起きたのは平日だ。学校の校舎から飛び降りたならすぐに発見されるだろう。屋上に出て直ぐに飛び降りるなんていうスピーディな自殺はなかなか無いだろうという俺の考察から16時にした。自分の家から中学校は徒歩で5分程で、中学校に入るのも全く難しい事では無かった。不法侵入だが卒業生だし、堂々としてれば何も言われない。何か聞かれても、地域の交流で中学生と高校生の会議を行うためとでも言えば良い。そんな事で難なく屋上まで到着した。普段、屋上の鍵は閉まっているが、この時は開いていた。2年ほどで規則は中々変わらないと思うから多分、外に自殺者がいる。俺は久しぶりに胸がドキドキとして手汗を握りながらドアノブを捻った。彼女は居た。空を見上げてただ立ち尽くしている彼女を見て、俺はドラマみたいだと思った。

彼女は2分ほどして俺がいる事に気がついた。凄く慌てていた。最初は何故こんなに取り乱しているのだと思ったが、普段閉まっている屋上に堂々と入ってくる高校生がいたら納得した。俺は最初に彼女の名前を聞いた。そうしたら、彼女は自分の名前を「田口永奈」と教えてくれた。全く身に覚えが無かったので本当に他人だったことを今知った。俺は永奈さんに何をしているのかと聞いた。彼女は「死のうとしてる。」と答えた。俺は驚いた。雲を観察しているとか言って誤魔化されると思っていたから、余りにもストレートに答えられたからだ。俺は何故と聞いた。「生きる意味が分からないから。」と答えた。意味が曖昧すぎる。こんな理由でこの人は本当に30分後に死んでしまうのかと思った。その後は10分程他愛の無い会話をして俺は帰宅した。帰る前に彼女に「貴方みたいな人が居れば死ななかったのかな。」と言われた。

その後、21時頃全く同じニュースが放送された。部屋に戻った俺はもう一度タイムスリップする事にした。今度は彼女を救ってみようと思った。今回も16時。同じ時間に着いて同じ時間に扉を開けた。今回は話の中で死なないで欲しいと言ってみた。勿論拒絶されたし、「初対面の人に言われる筋合いは無いよ。私は私の人生がもう意味が無いって事をもう理解してる。」とまで言われてしまった。落ち込んで帰ろうとすると

「でも、貴方と友達だったら面白かったかもね。」と言われた。21時に同じニュースが流れた。凄く悔しかった。現実はドラマとは違う。正直あの時、彼女が自殺を辞めて2人で帰宅すると思っていたから、彼女の意思が強くて悔しかった。救う為なら2回目のタイムスリップをする事にした。

2回目、失敗した。強い気持ちで訴えたら彼女は泣いてしまった。

3回目、失敗した。彼女に近づいたら目を合わせてくれなかった。

4回目、失敗した。彼女は3回目の時、3年生と言っていたから、同じ学年の女子を連れていったら固まって一度も話してくれなかった。その後、彼女が死んだ場所に行ったら、俺が会わせた女子がおかしくなってしまった。今回で自分以外の人間を巻き込むのは良くないと思った。

俺は、この時にはもう「彼女を救う」という事に執着していた。まるで、何度やってもクリア出来ないステージのようにやるべき事を放棄してでもどうしても救いたくなっていった。

5回目、6回目、7回目と繰り返す内に今日の内に救うのは不可能だという事が分かった。そこで、彼女が最初と2回目に言った、「出会っていたら」「友達だったら」という言葉を思い出した。彼女は3年生だから2年前に戻れば、俺が3年生で彼女が1年生になって同じ学校になる。思い立ったら直ぐ2年前に戻った。

2年も時を戻すなんて経験は初めてだったから、身長伸びてたんだなとか、制服懐かしいなとか思っていた。学校へ向かった。休み時間彼女の事を探した。彼女は休み時間になっても俯いて何もしていなかった。流石に初日に話しかける勇気はなかったから、1週間彼女を見て分かったのは、彼女は友達が居ないという事だった。休み時間には必ず外を眺めたり、トイレに行ったりしていた。4回目に同級生を連れて行った時、固まったのは普段同級生と全く会話していなかったからだろうという事が分かった。俺は彼女に話しかける事にした。

突然、3年の先輩が初対面で話しかけてくるなんて、常識外れだと思ったし、こんなに同級生とも話さないなら会話は難しいとも思ったが、初対面のあの時は意外と普通に話してくれたから、大丈夫だと思った。結果から言うと問題なかった。初対面はかなり緊張していたが、5回目で好きな本を聞いていたので、1年に片っ端からその本が好きか聞いて、その流れで彼女にも聞いた。最初は無視されそうになったが、俺の真剣な眼差しと廊下の壁に追い詰めるという技術で「はい。」と言わせる事に成功した。

そこから1年、彼女とは好きな本やテレビなどを他愛なく会話する仲になった。俺の力は時間を進める事は出来ないから1年、正直長いと思った。卒業式の時、彼女は来てくれて私の友達になってくれてありがとうと言われた。これでゲームクリアした。と思ったが、その1年後のあの日、またあのニュースが流れた。

納得出来なかったから、また2年時を戻して、1年、偶に遊んでまた1年。今回は当日に屋上に行ってみた。彼女はまた立ち尽くしていて「先輩。来てくれたんだね。なんで分かったの?」と言われた。俺は理由を言えずにいると、

「初めて会った時も、私の大好きな本。ピタリと当ててきてさ、先輩、私があの本好きなの前から知ってたみたいに聞いてきたよね?」俺は黙って彼女の話を聞いていた。「先輩、今から私が死のうとしてる事もきっと知ってて来たんだよね。先輩、私は先輩以外に友達が居ないんだよ。もう生きる意味なんて無いの。きっと先輩は私以外に友達が沢山いて人生が楽しい。でも、私は先輩以外の人と居ても楽しく無いの。でもね!先輩にずっと居て欲しい訳じゃ無いんだよ?私の為に先輩がずっと近くにいるなんて凄く迷惑だもん。じゃあね。先輩といるのは凄く楽しかった。」

彼女は目の前で飛び降りた。

ドスっという鈍い音がして直ぐ後に悲鳴が聞こえた。俺はその場でまた、2年、時を戻した。今度は彼女の近くにずっと居た。毎日教室に遊びに行って、放課後も休日も彼女と居た。周りからは付き合っていると言われたが、面倒臭いので特に何も言わなかった。ずっと近くに居て分かった事は、彼女の家庭環境にあまり問題が無かった事位だった。彼女の親は放任主義だったが、彼女に必要な物は買い与えていた。1年一緒に居て、高校で1年。その日彼女は自殺した。1年間一緒に居るだけじゃ駄目だったらしい。俺はまた戻した。そして、救う為に繰り返して11回目。彼女と2年間一緒に居た。今回は自他ともに認めるカップルになった。しかし、彼女は前と同じように迷惑をかけたく無いと自殺した。ここまで駄目だとムカついてくる。俺は12回、13回、14回と繰り返した。そして15回目、正解を導きだした。

2年間カップルとして過ごし、毎日寝る前には通話、部活には入らず一緒に帰宅。彼女と週に一度スポーツをする。デートは月に3回。会う度に彼女を褒める。彼女には、「一生一緒に居たい。この先もずっと近くに居て欲しい。」と月に一度は言う。彼女は当日になっても死ななかった。次の日にデートをすると、「昨日は明日のデートの為に早く寝た」と言っていた。それから1年、彼女過ごして俺は高校3年生になった。彼女は死ななかった。

最悪だった。この3年間、俺は彼女に付きっきりで過ごした。学力は落ちた。友達も出来なかった。彼女の好きな娯楽に合わせていたから、自分の好きな事は出来なかった。俺は、彼女に一生一緒に居て欲しいと言った。だから死ぬまでこれが続くだろう。俺は3年前に時を戻した。

最初と同じ人生を歩んだ。たかし君と良く遊んで、クラスの奴とゲームをした。女子には次にバズるショート動画のネタを教えてチヤホヤされた。

そして当日、俺はコンビニで1番好きなアイスを買って家まで帰った。夜ご飯を食べて、風呂に入り、20時30分に入眠した。

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