第6話 決意の夕方

 疲れた...非常に疲れた。

一体、何が起こったんだよ...。


 あれから1日経って、兄貴とも弟とも微妙な空気になりながら、いつもより早く家を出る。


 夢のような話だが、夢であって欲しいと思ったのは初めてだった。


 100歩譲ってどっちかから言われたならまだしも、二人に言い寄られるとか...。


 いや、でもやっぱり、二人の気持ちを考えたら俺に選択肢などなかった。


 ちゃんと断ろう。

断って...無かったことにしよう。


 それが一番いいはず...。


 そう思いながらトボトボと学校に向かうのであった。



 ◇放課後


 いつも通り、一人で帰ろうと校門の近くに行くと...少し人だかりができていた。


 何だ?と思っていると、中心には二人の女子...


「今日は私じゃないんですか?交互って言いましたよね!?」

「細かい話し合いはしてないから。別にいいでしょ?」


 嫌な予感は的中するものだ。

そこに居たのはやはり、あの二人であった。


「あっ、大志さん!」と、天使のような笑顔で手を振っている堰代ちゃん。

ちなみに堰代ちゃんは別の高校に通っているので後輩とかではない。


「...」と、真似して無言で手を振る鈴野さん。


 そして、待っている人たちの視線も集まる。


「え?誰?」「あれだよ、あれ。サッカー部すごい1年生の兄」「釣り合ってなくね?」「お金目的とかw」「パパ活?w」と、そんな言葉が飛んでくる。


 まぁ、生まれた時から兄や弟とはいつも比べられていて、そして馬鹿にされてきたわけなので、今さらそんなことでいちいち腹を立てることはない。


「...あの...二人は何しに?」


「あなたに会いにきたのよ」

「大志さんに会いに来たんです!」


 気持ちは嬉しいのだが...。

注目を集めたりとかは苦手なんだよなぁ。


「...あっ...そうなんですね」


 そのまま二人は両サイドに分かれて俺の腕を組み始める。


 何とも第三者目線で見れば羨ましい限りではあるが...。


 そうして、雑談をしながら帰っていたのだが、公園まで来たところでベンチに座ることを提案する。


「...えっと...色々考えたんだけど...そのやっぱり二人とは付き合えないっていうか...。どうしても、兄弟の気持ちを考えると...ね」


 そんな言葉を聞いた二人は全く動じることなく、こう反論した。


「私たちは一方的に別れを告げたわけじゃないわ。ちゃんと理解してもらった上で別れたの。確かに大志くんとしては気まずいだろうし、後ろめたさというか、何かしていたわけではないけど、そういう気持ちはあると思う。けど、二人とも最終的には納得してくれたのよ。それでもあの二人のせいにするなら...それは逃げよ」


「...私も同感です。私自身、すごく考えて別れました。悪いとは思ったけど、それでも好きだっていう気持ちに嘘はつけなかったから。だから、断るなら二人に悪いからなんかじゃなくて、ちゃんと私たちと向き合ってその上で断って欲しいです」


 ...とんでもない正論が返ってきた。


 確かに、二人はそれだけの覚悟を持って別れて、兄弟もそれを理解した上で別れたのに...。

勝手に二人の気持ちだと決めつけて、無理ですというのは二人の本意ではない気がする。


「...分かりました。でも、二人で来られるのは...その...。なので、前に言ってもらったように...曜日ごとに会う日を決めませんか?」


「えぇ、私はそれでいいわ」


「私もいいです!」


「...それじゃあ、決めますか」


 鈴野さんは大学生であり、時間に余裕もあるのに対し、堰代ちゃんは部活で忙しいこともあるので、なかなか会う時間が設けられないということで、堰代ちゃん優先で会う日にちが決定した。


 その日はそのまま堰代ちゃんの日ということで、名残惜しそうに帰っていく鈴野さん。


 そうして、家で遊ぶのは出来れば避けたいという俺の気持ちを汲んでもらい、堰代ちゃんと公園で話をすることになった。


「...大志さんは誰かとお付き合いしたことありますか?」


「いや...ないね。初恋の子にはこっぴどく拒絶されちゃったし。あんまり恋愛にいい思い出がないんだよね」


「そうなんですか...。私、大志さんに一目惚れしましたけど、好きになったのは見た目だけじゃないですからね!話す雰囲気とか、優しい性格とかそういうのも込みでちゃんと好きになってますからね!」


「...あ、ありがとう...//」


「...でも、何となくわかっちゃってるんですよね。鈴野さんは私から見てもすごく綺麗な人で...頭も良くて、頼り甲斐があって、誰もが憧れる女の子であることは。多分、私が選ばれないことも...」と、俯きながらそんなことを言う。


「...いや、そんなこと...」


「ありますよ、そんなこと。分かりますから。私には...」


「本当にそんなことないよ。俺には二人とももったいくらい可愛くて、優しいこともわかってる。だから、現段階では本当に...50:50なんだよ」


「...本当にですか?」と、目をうるうるさせながらそんなことを聞いてくる。


 可愛い、、、。


「...うん」


「じゃあ、その天秤を傾かせるためには何が必要ですか?」


「何って言われると...難しい...かも。フィーリング...とか?」


「フィーリング...。体の相性とかですか?」


「いや、全然違うから!//むしろ心の相性だから!//」


「...でも、体の相性はすごく大事だと思いますよ。性行為の相性や頻度は別れる原因になったりしますし」


 真顔で何言ってるのこの子!?


「そ、そうかもね...。けど、俺はしたことないから...分からないっていうか...」


「そうですよね...。男性は処女のほうが好きだって聞きますし...」


「...」


「...私、実は圭人くんとはあまり相性が良くなかったみたいで...「すとーぷ!それ以上はちょっと聞きたくないかな!」


 弟の性事情とか流石に聞きたくない。


「わ、わかってほしいのは...私がエッチな子だってことです...」と、上目遣いでそう言われた。



【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093084991361151


 そんな感じで、よく分からない話をして、堰代ちゃんを送ってその日は帰るのだった。

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