第5話 堰代莉理は本能に忠実である

 私の彼はカッコいいです。


 かっこいいというのはもちろん顔面的な意味もあるが、それ以外の男気という部分も含まれている。


 サッカー部で1年生でありながら、エース級の活躍をしており、私と同様取材を受けることもしばしば...。

お互いに注目される存在として、苦労なども分かち合うことができたため、仲良くなるまでにはそう時間はかからなかった。


 更に同じクラスということも相まって、学校内でも頻繁に話すことになり、二人で遊ぶようになって、そして告白をされた。


 好きだったか?と、今問われたとしたら、答えは何とも難しい限りである。

その理由は私は恋をしたことがなかったからだ。


 男子と仲良くなってもそれは友達という感覚であり、好きというものではなかった。

そして、それは圭人けいとくんも例外ではなかった。


 なので、一度は断ったものの、何度もアタックされるうちに、その気持ちと情熱に押されて付き合うことにした。


 けど、その際、私は自分の気持ちを伝えた。

それでもいいと彼は言ってくれたので、付き合うこととなった。


 しかし、付き合うと言っても、何か劇的な変化があったわけではなかった。

二人で遊んだり、デートしたり...たまに手を繋いだり、なんとなくこういう家族的な心地よさが恋なのかな?と思うになり、多分好きなんだと思っていた。


 そんなある日のことだった。


 圭人くんの家に行き、いつも通り二人で遊んでいるときのこと。


 トイレに行きたくなった私は部屋を出て、トイレに向かった。


 そして、何気なく扉を開けると...そこには...一人の男の人が座っていた。


「「...え?」」と、二人とも固まる。


「す、すみませんでした!!//」と、勢いよく扉を閉める。


 すると、「ご、ごめんなさい!鍵をかけ忘れてたみたいで!本当にごめんなさい!」と、そんな声が扉越しに聞こえた。


 座っていたから別に大事な部分が見えたわけではなかったし、扉を閉めたのはそれだけが原因ではなかった。


 目があった瞬間...私の全身がまるで雷が落ちたような感覚に襲われたのだ。


 たった一瞬のことだったのに、顔、目、髪、口、耳、雰囲気...そんなものが完全に記憶されたのだ。


 まさに運命の人にあったとは、雷に落ちたようなとはこういう感覚だったのかと思った。

そうして、トイレがしたい気持ちともう一度話したいという気持ちで、ソワソワしながらトイレの前で待っていると...出てくる。


「...あっ、ご、ごめんね...?えっと...圭人の彼女さん...だよね?初めまして...。兄の大志です。さっきはそのごめんね」と、頭を掻きながら謝ってくる。


 もしかして、この人が言っていた4つ上の大学生でイケメンのお兄さん?

てことは彼女いるよね...。

確かにこんなにかっこよかったら...そりゃモテるか。などと、自分にも彼氏がいるくせにそんなことを思ってしまう。


「は、初めまして...//せ、堰代...莉理です//」と、何とか顔を真っ赤にしながら挨拶を済ませて、逃げるようにトイレに入っていく。


 私のバカ!何してんの!あんな風にしたら絶対嫌われるじゃん!!


 そんなことを思いながらトイレを済ませると、そのままチラッとお兄さんの部屋らしきところを通り過ぎる。


 部屋の扉には【大志の部屋】という、ネームプレートがぶら下がっていた。


「...ねぇ、大志さんって、4つ上のお兄さん?さっきあったんだけど」と、圭人に伝える。


「ん?いーや、違うよー。2つ上の兄ちゃんだよ。優しくて、いい兄ちゃんだよー」


「...そう...なんだ」


 それからというもの、圭人の家に行く度、今日は大志さんいるかなーと覗くのだった。


 実際、結構な割合で家にいることが多く、適当に話の種を見つけては大志さんとも話すようになっていた。


 確かに圭人の言った通り優しくて...すごくいいお兄さんという感じだった。


 でも、何となく私のことはあくまで弟の彼女という感じで一線引かれている気がして、その度に傷つく私がいた。


 いや、彼氏がいるのにこんなことを思っていること自体間違っているのだが...。


 それでも、圭人との関係は続けていたのだが、それも限界が来て、私は別れを告げるのだった。


 もちろん、そんなこと納得できるわけなくて、圭人には色々問い詰められたのだけれど、最終的に納得してくれたのに...。



 ◇


「...よりにもよってあんな美人さんがライバルなんて」



【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093084868876172

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