第4話 鈴野シーラは一目惚れする

 私の彼は完璧な人だった。


 頭が良くて、コミュニケーション能力が高く、リーダーシップがあり、イケメンである。

さらに性格的にも何の問題もなく、優しく、いつも私のことを優先してくれていた。


 彼との出会いは友達に誘われて無理やり入ったサークルだった。


 ちなみに旅行サークル的な感じであり、全国いろんなところに出かけていた。

更にサークル負担や、コネや繋がりもあって、かなり安く旅行することができるため、歴史好き、旅好き、名物料理好きなどなど...、様々な人が様々な目的を持って入っており、大学でも人気のサークルだった。


 そこで2年生ながら中心となって、色々サークルをまとめていたのが彼だった。


 最初こそ、あくまでサークルの中での活動で関わる程度だったが、サークルメンバー達と一緒に遊んだり、旅行を繰り返すうちに、二人で遊ぶようになり、いつの間にか好きになっていた。


 そうして、彼との時間は私にとってかけがいないものになっていき、静かに着々と愛を育むようになっていた。


 彼と付き合い始めて2ヶ月ほど経った頃。


 彼の家に行った時のことだった。


 弟が二人いるとは聞いていたものの、二人とも高校生であり、バイトや部活の関係であまり会う機会がなかったのだが...。


『着いたよ』

『ごめん、もう少し時間がかかる。家に弟がいるはずだから、先に行って入ってていいよ』


 そう言われたので、インターホンを押す。


 すると、バタバタと家の中から少し慌てるような音が聞こえる。


 そして、扉が開くとそこには弟さんが立っていた。


 けど、その弟さんは...私の人生で今まで出会った中で、一番タイプの顔をしていた。

まさに全身に雷が落ちるが如く、私は恋に落ちてしまったのだ。

理性ではなく、本能で。


「あっ、えっと...兄から連絡来てて...は、初めまして...。弟の大志です」と、少し恥ずかしそうにそう言った。


「...」


「あ、あの...。ど、どうぞ?」


「え?あっ、あぁ...//あ、ありがとう...//」


 多分、顔は真っ赤になっていたと思う。


 それから、お客さんである私に紅茶を淹れてくれたり、お菓子を出してくれたり、話を振ってくれたりと、気を遣ってくれていたものの、私はひたすら心臓がバクバクしまくってあまり上手く話せなかった。


 そんな経験は人生で一度もなく、自分でも自分がわからなくなってしまった。


 それから少しして、漣が帰ってくるとすごく安心した。

いや、本音で言えばもっと弟くんと話したかったものの、あまりの恥ずかしさとうまく話せない自分というのを見せたくなくて、早く帰ってきて欲しかったのだ。


 適当に誤魔化しながら、私が手を小さく振りながら、「ありがとうね」というと、照れた笑顔で「いえいえ」というのだった。


 それからというもの、私はよく彼の家に行くようになった。

目的は...弟くんであった。


 最低だということは分かっていた。

それでも、自分の気持ちには嘘をつけなかった。

でも、別に漣くんへの気持ちが冷めたとかではないし、ましてや嫌いになることなんてなかった。


 漣くんは漣くんでやっぱり好きで...でも、その好きというのは、人間的に好きなのか、友達的に好きなのか、その延長なのかがわからなかった。


 反対に弟君への気持ちは次第に大きくなっていくだけだったのだ。


 とある日は漣くんがいないことを分かっていて、家を訪れて、弟くんと話すなんていうこともあった。


 私にとってその時間はすごく心地よくて...弟くんも私と話すのが楽しいと言ってくれた。


 でも、何度あっても弟くんはあくまで私を【兄の彼女】としか見ていないことは分かっていた。


 それが...すごく辛かった。


 きっと、このまま自分を騙し続けて、付き合い続けることもできたと思う。


 それでも私は自分に嘘をつきたくなくて、正直にそのことを話した。


 すると、彼は少し悲しそうに...でも、応援してくれたのだった。


 だから、私は絶対にこの恋を成就される。


 そのつもりだったのに...まさか...もう一人の弟さんの彼女まで彼を好きになるなんて...!



 ◇


「...さて、どうしたものかしら」と、一人になった部屋で呟くのだった。



【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093084866405051

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る