間で揺蕩う恋心?とあい心?



月明かりを頼りに歩くと様々な鳥居が立っている。

物珍しくキョロキョロと見回して五色の鳥居が規律的に並んでいることに気が付く。異様な、二人だけのはずなのに異様な雰囲気だ。怖いという単純な一言で表せない。一歩進んでるはずなのに進んだ感覚がない。暗闇に全てを飲み込まれ、暗闇の体内にいるかのような気さえする。生ぬるい風が吐息のようだ。太三郎がいなければ歩く事さえ出来ただろうか?太三郎の服の裾を掴んでしまう。





「青(緑)は木、赤は火、黄は土、白は金、黒(紫)は水や!これを今すぐ頭に叩き込んどいて!それとな、あんまりキョロキョロせんと真っ直ぐ見ぃ。困ったら俺をみとき」

「ぁ、はい。ここって?山の中に見えるけど」

「やまの中やな、さッここから気合い入れて恋人せんと今度はンまに食われるど」

優しく微笑んだようないたずらっぽく笑う。気を使わせているんだと思うので精一杯の苦笑いで答えた。


一転、真剣で睨みを効かせたようなドスのある声になる。

「鳥居をもうすぐ抜ける、その前に渡してた布で顔隠すんよ、後は俺に何もかも任せ朔は首だけ動かして反応すればぇぇから。えぇか?帰りたくば何をみても聞いても俺の事だけ信じろ必ず家に帰したるからええな?」


”僕から俺に一人称も変わってるし頭じゃ理解はできないけど言う通りにするしかない多分ここは俺が知ってる世界じゃない”と朔は悟り顔を隠し頷く。


太三郎はふと笑い「朔はやっぱ朔やなぁ…次は助けたるから俺だけ見ろ」と頭をぐしゃっと撫でられながら「とほかみ ゑみため」と言っていたような気がしたがもう鳥居を抜けるので黙って着いて歩く。

鳥居の向こうに誰ががいる…。

「太三郎様?それ…なんです?熊方の小包にもならんです」

「これは儂の輿じゃ。熊方やと??」

「こ…し?ッツ‼︎玉ぁ”!?」

”狸!?!?”狸の声が頭に響く”

「御玉の輿なんてまた冗談ですよね?笑えまへんて」

太三郎は真顔を返す。

…ゴクン。焦りを体現するようにオーバーに狸は空気を飲み込む

「笑えません…て太三郎様ぁ今日はそんな冗談言ったらダメな日ですって」

「そう言う……。さよか。もおえぇよ幕丸」


一瞬だが「ギャぅ」と何か飛んでいった様に見えた。



「ハッ‼︎申し訳ありません御輿様‼︎無事に到着されて何より」

「よー言うわぁ幕丸よ。ずっと見てたやろ?邪魔しおってからに」

「何を仰せかと思えば…私は眷属として御宗も御興も守る義務がございます」

「謝らんってか?」

「はい、謝りません」

「…フンッ!それでぇぇ。けど邪魔したんは許したくない」

「小童じゃないんですよ御宗。そんなだから二参りになるんですよ。まだ説明してもないのに何してんだか」


”説明?二参り?さっきも次って言ってたよな?”聞きたい事が増えてゆくが言われた通り緘黙を貫く。


「御興様も口を聞いて構いませんよ?」優しく今度はしっかりと口が動いている。

「…」

「聞こえてますか?」


「コクン」と首を縦に振る。


「………ホホッ良い心がけですね」

「あまり試さんどいてやって」

「甘ぁいですね御宗。我々にもその情をかけてほしいものです。さて、”蓮”姶”」

幕丸の呼びかけに2匹の狸が現れる。

「あい!」

「押忍」

「二人とも御輿様のことは菊玉月(キクタマツキ)様と呼ぶように。御輿様もよろしいですね?貴方様は菊玉月様です」

「コクン…」黙って頷く。


”どう見極めたらいい?狸で同じにしか見えない”2匹を目の前に固まる”


2匹は顔を見合わせるとバク転するように一回転し一瞬で人型へ化けて見せた。


”おおぉぉぉ初めて見た!!狸って本当に変化するんだ”


「菊玉月様!あきちは蓮(れん)いいます」

容姿端麗な愛嬌がある。ぱっちり丸目にもふもふんの長髪と丸い尻尾に思わず”可愛ぃ”と声に出そうになる。


「菊玉月様、おらは姶(あい)といいます」眉目秀麗な少年。目つきは鋭いが微笑に色香を感じる。蓮と同様な風貌だが違うのは蓮よりも尻尾が長い。

蓮は赤毛で姶は青毛だ。変化すると毛色がはっきりと個性を出している。


”尻尾にもふもふしたいぃ。緊張してた分もふもふして一息つきたい”と手が震える。

「菊玉月様?何かありましたら姶に申し付けください」

「菊玉月様‼︎心の中で念ずるだけで蓮達には伝わります」


”心の中で念ずる??強く思う?こうかな?”『ありがとう…姶さんお願いが…』

「おいらに??なんですか菊玉月様?」

『尻尾触らせてもらえませんか?』

「へ?尻尾?……いいですよ!他ならない菊玉月様の仰せなら」

姶は尻尾を差し出してくれた。

触ってみるとベタつかない綿飴の様だ。『抱き枕にしたら即寝確定だな』

「もっと触っていいですよ!おいらの尻尾で良ければ」

フリフリと動く尻尾が顔にフワッと触れる。

ぎゅうぅぅぅぅ。尻尾に抱きつきスリスリしてみる。お日様の匂いでホッとする猫吸いならぬ狸吸いだ。『はぁー好きぃ」つい思いながら口から音が出ていた。


「ンなッ‼︎儂の輿やど‼︎‼︎尻尾か?尻尾がえぇのか?」

「御宗!御身が」


太三郎は…大狸になった。いやだった。


『でかいそこら辺の熊よりでかい…こ…怖イィ。』

「朔、儂の尻尾!」

『怖い無理』更にぎゅっと姶の尻尾へ抱きしめてしまう

「!?」

「御宗様、幕丸は御宗様を一番お慕いしておりますよ」

「幕丸ぅ…ありがと」

「オイラも「アキチも一番御宗が好きです」

「みんなありがと…」

”家族ドラマか見てるみたい”といつの間にか緊張は解けて笑みが溢れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る