第3話 夜中はいまから 


汗だくなTシャツと短パン姿を一瞥し鼻でフンっと笑うと「ついてきぃ」と歩き出す

細い路地を再び歩くが一人ではない安心感から顔が上がる。

「今日満月か!」と月明かりを感じホッとする。











「恋人のフリして一緒に祭りに参加してくれんか?僕からの条件は

”恋人のふりとバレないこと”それだけや」振り返りもせず淡々と話しを進めてゆく


”恋人のふりって事は女性なのか??”言葉遣いと風貌で、男性だと決めつけていた。



月明かりを頼りに再度見上げると薄暗さの中でもわかるストレートな長髪に180㎝はゆうに超えているだろうシュッとした、モデルの様な後ろ姿が妖艶で口がポカンと開いてしまった。街中で芸能人を見かけた時の心境に似ている。


「あー。あと、目立ちすぎてるから僕ン家で風呂入りぃ詳しい話はそれからや」


「え?匂います?そんな汗臭いですか?」

「せぇやなぁ…ンー匂うわ」

「…そすか」

「そやねぇ」

「…」


「ここや」と示された手の先には歴史の資料に出てきそうな立派なお屋敷で騙されてないよな?と立ち止まってしまった。厳格な雰囲気が漂っている。


「はよ入りぃ厄介な近所さんに見られたら面倒やから早よして」と促されついて行く

あまりにも広ずぎる。一人で暮らしているのかと尋ねると「そうや」と足早にお風呂へ案内された。


”俺、そんな臭いの…?”恥ずかしくて泣きそうだ

「ここでお湯に入って匂い消しッ」

「ハ…ィ…」

黙って沸いたばかりであろうお風呂へ入る。

湯船というより寝湯に近く、丸く可愛い菊が浮いている。汗をかいた体には気持ちよく体の疲れや不安が溶けて出る様な不思議な感覚。とても居心地が良い。


「ふー…」体の底から息が漏れる。


”恋人のふりをしてほしい”ってどうしたらいいんだ?”

「フリだから手を繋ぐとか呼び捨てと…かだよな」

「湯加減はどうだ?」

「!?」ドアの向こうから声がする。気配も足音もなかったので驚いてしまった。

「気持ちいいです。すいません、お世話になっちゃって。あの、本当に帰してくれるんですよね?」と思わず確認してしまった。

”ここまで世話になったのに不躾だったか”と思ったが、その時には時おそしだ。


「…もちろんだ約束を守ってくれるなら…な」と静かに冷静な声で返事をされる。

「でもそれって貴女が約束守るって保証あります?僕は貴女の名前もまだ知らないのに信用をする方がバカですよ」


「ほぅ。無知蒙昧というわけではなかったようやな。えぇよ教えたげよ問われたからな僕の名前は太三郎(タサブロウ)でー…「!?ッお…オっトコぉ」話を遮って叫んでしまった。

「男?え?恋人って、僕は確かに小柄だけど男です。恋人って友人…ッー言い終わらないうちに太三郎が入ってきた。「っお、ぉれ僕出ます」とっと立ち上がる。


「迷子はんの名前聞いてないけど?恋人で間違いないよ。泣き迷子でえぇ?」


”イラッ…”


「神余 朔…」(カナマル サク)「俺の名前は神余 朔‼︎」

”煽られてまま答えたけど。ここは引きたくない”と真っ直ぐ太三郎を見上げる。

太三郎は楽しそうに微笑み、手が朔の頬に触れる。手が動いた時には唇が重なっていた。

”避けることもできたはずなのにッ!思わず見惚れた。




本当に綺麗だったから…”











 

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