希望の兆し

2人は電車に揺られながら当てのない先を進んでいた。電車のガタンゴトンと言う音と振動は先ほどの僕の心臓を音を思い出させてきた。

電車に乗って3駅ほど過ぎた時に愛生が話し出した。

「僕は12年前のクリスマスの日に大里と言う男に誘拐された。クリスマスはね毎年イルミネーションを見るために駅に行ってたんだけどあの日は特に人が多くてお母さんと手が離れてしまってね。1人で心細かったけど前も話した通りアキは幸せって口にすれば楽になるってお母さんに言われてて辛い時はそうしててクリスマスの日もそうしながらお母さんを探してた。お母さんと逸れちゃったあと神社に偶然入ってね。そこで男の子と出会ってその時持っていた飴ちゃんを3つとお水をあげたんだ。あの子がとても辛そうだったからね。その子とさよならしてすぐに僕の目の前に黒い車が停まって大雪の中僕を乗せて行ったんだ。」

「それから2年ほど僕は誘拐されていて大里の息子のように扱われてた。特に変なことはされなかったけどずっと手は縛られてて今でもその跡は残ってる。2年後に僕に飽きた大里は僕をゴミ捨て場に捨てた。そこで偶然発見されたんだ。まあしばらくは恐怖で家から出られなくてね。4年前にやっと家から出られて学校に通い始めたんだ。元々家で勉強していたから勉強面ではそんなに困らなかったんだよ。僕が発見された翌年に大里は逮捕されて僕の他にも数人誘拐していたから7年の懲役という判決を受けて去年刑期を終えて出所したんだ。それで僕が少しでも安心して暮らせるように駅から遠く離れたここへ転校したんだ。だけど恐怖は消えなくてずっと怯えてしまったいた。そんな僕を見て恐怖の根源である大里をお母さんが殺したんだ。こんなこと言っちゃいけないんだろうけど僕は大里をお母さんが殺してくれて安心した。今は大里はいないから怖くないからね。」

僕は壮絶な愛生の過去の話を聞き同情なんてできなかった。愛生の気持ちがわかるわけもない僕はただ話を聞くことしかできなかった。

「話してくれてありがとう。僕は愛生の気持ちをわかってあげることはできないけど寄り添うことならできる。愛生の一番近くで愛生にとって安心できる存在になりたい。」

本気でそう思った。愛生に寄り添える存在になりたいそのためには僕も話すしかないと思った。

「愛生の話にも出てきた12年前に神社で出会った子は僕だと思う。あの駅から10分ぐらいのところにある大きい神社でしょ。僕はあの雪の日に出会ってからずっと愛生を探していたんだ。」

「僕は母親が育児放棄で家を何日も開けていたからあの日は食べるものがなくて何かを求めて外に出たんだ。そしたら飢餓のせいで倒れちゃって大雪で体温奪われるし服も薄着で寒くてさおまけに乾燥で声が出なかったから死ぬかと思った。そんな時に愛生がやってきて優しい言葉と優しいあめちゃんをくれたんだ。僕はあの日からずっと人に対して希望を抱くようになった。あめちゃんと水のおかげで僕は少し動けるようになって通行人に助けてもらえた。そのまま母親は育児放棄で逮捕されて僕は施設にお世話になったんだ。11歳の時に母親が出所してまた一緒に暮らすようになった。今が一人暮らしだから分かると思うけど母親とはうまくいかなくてね。今は離れて暮らしてる。でも愛生のおかげで今があるんだ。愛生が僕に希望をくれたんだ。」

ありのままの事実を話したがその僕にとっての幸せ物語が愛生にどう届くか分からなくて怖かった。

「あの日の男の子はナツだったんだね。ナツは僕と出会うことで希望を得られた。もし僕と出会えていなかったらナツは今いないかもしれないんだよね。12年前の僕はいいことをしたね。ナツが今いなかったら僕はとっくに死んでいたよ。12年前は僕がナツにそして今はナツが僕に希望と光を与えているんだね。」

僕が思っていたよりずっと優しい言葉で愛生が無理しているのは十分わかった。もし僕を助けなかったら僕が連れて行かれていて愛生は連れて行かれなかったかもしれないんだから。


僕はそんなことを思ってしまったが笑顔で愛生に笑いかけて見せた。

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