暖かいアキ
愛生が転校してきて早くも3週間が経った。もうすっかり皆に馴染んで初めから教室にいたかのようだった。
「おはよう!ナツ!」
校門の前で首の後ろから優しい元気な声が聞こえてきた。
「お、おはよう!愛生。」
いまだに愛生と会うたびにドギマギしている自分が恥ずかしくなってくる。
「今日からやっとバスケやね〜!前までは座学ばっかりやったけん楽しみ!」
体操服袋を振り回しながら話す愛生の姿は小学生と重なってしまうほど可愛らしかった。愛生はわざわざ僕と目を合わせて話しかけてくる愛生はいたずらな顔をしていた。
「そうやね!座学は愛生超つまんなさそうだったね。動く体育は好きと?」
全く意識なんてしていませんよと言わんばかりに僕も愛生と目を合わせてみた。
「動く運動は好き。人の暖かいところ見られるけんね。」
その答えを聞いた時変わった答えだと思った。普通体を動かすことが好きだとか、座学に比べてましだとかそんな答えが大半だからだ。
「へー」
少し戸惑ってしまいそっけない返事をして1日が始まった。
ガッコン バスケットゴールが大きな音と共に揺れた。 ダンクシュート、、、
まさかの愛生はスポーツがとても上手だった。全力で動いているから汗ばんでいるのにその様子さえの美しい。爽やかで軽やかでまたもや僕の目を釘付けにする。
「危ない!!!」
危険を予知する声と共にものすごいスピードのバスケットボールが僕の顔面を直撃した。痛いというよりも熱い。鼻の奥から温かいナニかが垂れてくるのがわかった。それと同時に景色がぐわんぐわんしていて意識が遠のいていくのも感じた。あーこれ倒れるわ。
「大丈夫?ナツ」
暖かい声で目が覚めると、僕の背中を包み込むような硬い感触があった。この感触を僕は知っている保健室のベッドだ。どうやらボールが当たって倒れて保健室にまで運ばれたようだ。恥ずかしくてどうにかなりそうだ。
「僕の投げたボール変なとこ飛んでちゃった。ごめんね。」
愛生があまりにも申し訳なさそうに僕の顔をのぞいていたから思わず笑ってしまった。
「なんで笑うと!?」
愛生は不思議そうに問いかけてきた。
「いやごめんごめん。愛生があんまり申し訳なさそうな顔してるからおかしくって笑全然大丈夫やけん気にせんで。愛生のかっこいいところ見れたからプラマイプラス!!それに愛生が言ってた動く体育は人の暖かいところが見れるって本当やね。愛生の暖かいところ見れたけん!」
それを聞いた愛生は安堵の表情と共に少し照れ臭い顔を浮かべた。すぐに微笑んで僕の頭を犬でも撫でるかのように優しく撫でた。
本当に優しいな愛生は。
その日の夜家でお風呂に入りながら気がついてしまった。僕は愛生が好きだ。でもこの気持ちは伝えない。あの日のことも聞いてないし。愛生はいつも長袖を着ているからその理由も聞きたいな。聞きたいと思うのなら聞けばいいと思うかもしれないが聞こうとすると身体が強張ってしまう。まるで触れてはいけないものに触れる気がしてあの日のことも長袖のことも何にも聞けずじまいだ。色々聞くのはまだ先かな。
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