行方

中路

行方


今日も病室の窓をカラカラとした陽の光が照らす。少女は上半身だけを起こし、目を細めながら窓の外に目を向けた。秋風に揺さぶられながらのらりくらりと地に落ちる木の葉。木々は静かにその髪を失い、裸の枝が寂しさを歌っている。

ベッドを囲うカーテンが開けられるのに気づいた少女は窓の外から目を離さずに言葉を浮かせた。

「ドナーが決まったの、知ってる?」

青年はカーテンを閉め、丸椅子に腰掛ける。はにかんだ口元を浮かべたまま青年は俯いた。

「知ってる」

「そう。良かった」

無頓智に少女は言葉を並べた。そして一呼吸置くと、少女は不思議そうにした。

「なんで知らない人の為に命を捨てれるんだろう」

青年はその無情さに少し呆れながらも、顔をあげた。

「愛じゃないかな」

言葉にした途端、自分でもよく分からない、と言った表情で青年は笑った。

「言葉にするのは、少し難しいけどね」

少女は窓から目を離し、花瓶を見つめた。

「…私にはよく分からないや。ずっとここにいるから」

再び窓の外に視線を追いやると、いつものように落ち続ける木の葉を眺めた。青年は、今日もいつものように花瓶に花を刺し、少しの問答を交わした。その後、名残惜しそうにカーテンを締め去っていった。

何日ものあくる日、少女は同じ病室で同じように窓の外を眺めていた。

─あの日から、青年が来ることはなかった。

いつも彼が座っていた丸椅子に置かれたドナーカードに青年の影が落ちた。

「誰かの為に死ぬのが、愛なの?」

行き場を失った言葉が漂う。髪を失った木々が俯く。夕日が地平線へと隠れていく。薄い赤霧の夕残光が窓から病室へと流れこむ。花瓶の横に置かれたラジオが今日の天気を伝えている。嘘みたいに赤い夕日から、にわか雨が落ち始め、地面を叩いた。愛が、恋が、分からない、と言った風に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

行方 中路 @taro9067

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る