第2話 公園キャンプ
寝起きドッキリ
「ツバサ君。
朝だよ」
ヒカルさんの声が聞こえるのだがまぶたが重い。
「起きて」
耳元から聞こえて、頬に柔らかいものを感じた。
これは起きない方が良いんじゃ無いかな。
「もう。
叔父さんが隣に寝てるけどいいかな」
目が覚めた。
横を見るとヒカルさんの顔が目の前に。
「起きた?」
俺は激しくうなずいた。
「もう少し寝ていても良かったんだけど」
そう言ってヒカルさんは脚を絡めて抱きついてくる。
「もうちょっとだけ良いでしょ」
ヒカルさんの息づかいが聞こえる。
鼓動が早くなる。
朝から心臓に悪い。
「はあ。
もう我慢出来なくなっちゃう」
ヒカルさんの色っぽい声に俺は飛び起きた。
「びっくりした。
目、覚めちゃった?
もう少し寝てても良かったんだけどな」
ヒカルさんヤバいな。
冷や汗をかいた。
「じゃあ、着替えてきてね。
外で待っているから」
朝のサイクリング
着替えて庭へ出るとスポーツウェアのヒカルさんとスポーツ自転車があった。
「パパの自転車借りちゃった。
ツバサ君おじいちゃんの電動自転車あるから」
どこに行くつもりだろう。
「やまびこ公園」
距離はまだしも山の方・・・
「ツバサ君の電動自転車だから大丈夫だよ。
私のと替わる?
行くよ」
ヒカルさんを追いかける。
長野の朝、Tシャツ一枚だと少し肌寒く感じるくらいだ。
昨夜の虫の声は静まり、代わりに様々な鳥の声が聞こえる。
特にカッコーなんか自宅じゃ聞くことはまず無い。
爽やかな朝の目覚めだ。
先行するヒカルさんがたまに俺との距離を測るようにこちらを見る。
綺麗でかわいらしいところもあるヒカリさんだが、高校の頃は陸上の短距離で地区大会優勝したこともある。
走っているヒカリさんは見たことないけどきっとカッコいいんだろうなと。
スポーツウェアが似合っている。
坂に入り徐々に傾斜が強くなる。
といっても、モーターの力でそれほど力を入れなくとも上っていく。
「行くよー」
そう言って、ヒカルさんは立ちこぎでどんどん上がっていく。
付いていかなくて良いよな。
というより無理だし。
ヒカルさんは運動だけでなくて勉強の方もできる。
見た目も綺麗だし間違えなくモテると思う。
何で俺なんだろう。
公園入り口近くの駐輪所でヒカルさんが待ち構えていた。
「お疲れ様って、そんなに疲れてないか、電動だし」
自分としてはまあまあの運動なのだが
「私も朝、運動するのは久しぶり。
気持ちいいね。
やっぱり長野だからかな。
東京だと凄い汗かいたと思うし」
ヒカルさんはうっすら汗ばんでいて色っぽさを感じた。
昨日の浴衣姿も良いけど、薄着なスポーツウェアは綺麗な身体のラインが見えてつい見とれてしまう。
「んっ、なんだか視線を感じるなあ」
意地悪そうに言うヒカルさんから目をそらす。
するとヒカルさんが目の前に来て
「もう。
エッチなんだから。
女の子をそんなに見たらダメだよ。
わかるんだから。
だけど私のことはずっと見ていてほしいな」
自転車を漕いでいるときより動悸が速くなる。
「私もツバサ君のこと見ていて良いかな。
本当は見るよりも近くに居たい」
ああ。
俺はなす術もなくまた抱かれる。
昨日から何回目だろう。
もう俺は・・・
「行こう」
差し出された手を取った。
公園にて
この公園に小さい頃来たことはあるが久々に来た。
しかし何で朝っぱらから公園散歩なんだろう。
昼間は賑やかな公園だがこの時間は人もまばらだ。
より鳥の鳴き声が聞こえる。
涼しい。
「気持ちいいね。
朝の公園好きなんだ」
確かにいい。
そしてベンチに腰を掛ける。
鳥の声と小川の音。
それだけだが、心地よくてずっとそこにいられる感じ。
「久しぶりに来たね。
小さい頃はたびたび来ていたけど」
何歳の頃の話だろう。
ヒカルさんと来た記憶はあるが、そんなに来ていたのか。
「あのブランコ。
どっちが高く上がれるかでツバサ負けず嫌いだから結局落ちて大泣き。
怪我しなくて良かった」
なんかそんなことあった気がする。
「ツバサとまた来れて良かった。
あの頃はかわいかったけど、今は頼りがいもあるかな」
ヒカルさんがこちらにもたれてきて、俺は肩に手をまわした。
ヴゥー
スマホがなった。
ヒカルさんは睨んできた。
「しばらく会わない間にツバサはスマホ依存症になっちゃたんだね。
よし、今日はツバサの矯正する」
ヤバい気がする。
ヒカルさんこんな人だったか。
墓参り
家に戻って朝食を食べて、一休みしたらみんなそろって墓参りへ向かう。
今日はお盆だ。
小さい頃は面倒くさいと思っていたが、母が亡くなってからは自分の中でも大切な行事だ。
母に近づける。
そんな感じがする日。
パチパチ
おじいちゃんが家の前で白樺の皮を燃やす。
ご先祖様が迷わないようにとの事。
なんだかじっと見てしまう。
お盆を感じる。
近所のお墓までみんなで向かう。
ちょうど親戚も来ていてご挨拶をして、線香をや花を供えて水を掛ける。
母の名が刻まれた石を見る。
なんとも寂しい気持ちになる。
すぐになれるのだろうと思ったが、未だに悲しい思いを感じる。
お父さんが手を合わせているのを見ていると泣きそうになってしまった。
ヒカルさんが手を握ってくれた。
涙が出た。
買い物
近所のスーパーに来た。
「何食べたい」
何でも良いけど
「へー。
じゃあ、激辛担々麺にするね」
普通のにしてください。
成り行きでキャンプの買い出しだ。
「しょうがないわね。
だけどツバサと二人で買い物って言うのも久しぶりね」
記憶にないけど
「ツバサみんな忘れちゃうんだから」
そんな会話をしながら買っているのはカレーの材料だった。
「これ買わなくて良いの」
俺は固まった。
子どもの頃好きだった菓子。
「大人になったのね~」
久しく食べてない。
嫌いになったわけではないのだが、食べ過ぎるせいか母に良くからかわれたのを思い出す。
ヒカルさんよく覚えているな。
「お姉さん、ツバサ君の事はみんな覚えているんだから。
それこそ生まれた頃から」
山キャン
細い林道の途中でヒカルさんと車を降りて荷物を降ろすと、連れてきてくれたおじいちゃんは少し先の広いとこで車を切り替えして降りていった。
山の中にヒカルさんと取り残されたわけだが、ヒカルさんはなんだかご機嫌だ。
「さて、少し入るとテント張るのに良いところあるから」
そう言って林に分け入るヒカルさん。
おじいちゃんの山だ。
キャンプブームとは言え、こんなところでキャンプして大丈夫なのだろうか。
「大丈夫だよ。
昔、パパ達もやったって言っていたじゃん」
そりゃまあ、死ぬ事はないと思うけど多分。
熊とか大丈夫かな。
「熊ぐらい居るとは思うけど、テント襲うようなヤバいのは居ないんじゃないかな」
・・・帰りましょうか。
「あきらめて。
明日おじいちゃんが迎えに来てくれるから。
ここ5キロは降りないと携帯通じないし。
凄い良いから」
ヒカルさんここでキャンプした事あるのか。
「昔ね」
さて、行くよ。
夜山
林道から3分くらい入ったところに平らいテントなど張るのにちょうど良いところがあった。
俺が荷物を運んでいる間にヒカルさんはテントやたき火や食事の準備をする。
手際が良い。
「ありがとう。
キャンプなんて久しぶりだけど。
パパとかがやっているのは見ていたから」
しかし、キャンプ場ならまだしもこんな山の中でキャンプをする事になるとは、ヒカルさん凄いな。
「ご飯作るよ。
準備してきたから」
焚き火台に着火して、メスティンでご飯を隣の鍋で肉と野菜を炒める。
何かやった方が良いかなと思いつつも何もできない。
「いいよ今日は私が誘ったんだし。
だけど貸しだからちゃんと返してあげてね」
はいはい。
野菜や肉を煮てルーを入れると甘い香りからスパイスの香りに変わった。
「できたよ」
美味しい。
家のカレーだ。
「うん。
家のカレー」
なつかし。
お母さんのカレーだ。
「そうなんだね」
俺はヒカルさんに抱きついた。
「どうしたの」
涙が止まらない。
久しぶりに会ったヒカルさんはお母さんそっくりだった。
「もう。
頼りがいあるかなと思ったけど、あの頃とあまり変わらないかな。
だけど、嬉しいかな。
頼ってくれて」
ヒカルさんも抱きしめてくれた。
夜空
パチパチ
焚火を見つめる。
隣にはヒカルさん。
いや。
お母さんかな。
何も考えれないけど心地よい。
ずっとこのままで。
永遠に
「そろそろ寝ようか。
火、消すね」
ジュウゥー
火が消えて灯りは月明かりとなる。
空を見上げると星空も見えた。
「星、綺麗だね」
俺はヒカルさんの目を見つめる。
お母さん。
「ツバサったら。
今日はお盆だからね。
そういうことにしてあげるよ」
俺はヒカルさんに抱きついた。
離れたくない。
「もう。
何年経っていると思っているの。
いい加減にしないと叔母さんも成仏出来ないんじゃない」
今日で最後にするから。
「仕方ないな。
寝ましょうか」
テントにて
テントに入って並んで寝る。
「ツバサと一緒に寝るのは何年ぶりだろう。
小学校以来だよね」
俺は徐々にヒカルさんの方へよっていく。
「しょうが無いわね。
こっちにおいで」
ぴったりとヒカルさんに添い寝する。
「もう、赤ちゃん返りじゃないんだから」
といいながら撫でられると本当に赤ちゃんになった気がする。
親に挟まれて寝ていた頃を思い出した。
守まれている。
安心感。
ずっとこのままで居たいなそう思って目を閉じていると眠りに落ちていた。
朝コーヒー
鳥の声が聞こえる。
夜は終わり、少し空が明るくなってきたかな。
ツバサは相変わらず朝に弱い。
といっても私も普段からこの時間に起きる事はないが。
テントから出て、小型のバーナーとコッヘルで湯をわかす。
シュー カチッ ボッ ボッー
周囲を見渡すと完全なる林の中。
キャンプ場でのキャンプ経験はあるが、今回はなかなかワイルドな提案をしてしまった。
ツバサ君キャンプ嫌いにならなければ良いけど。
まあ、これだけ寝れているんだから大丈夫かな。
シュー コトコトコト
お湯が沸いたようだ。
おじいちゃんが分けてくれたコーヒーを入れる。
袋を開けると香ばしい良い香りがした。
趣味で焙煎していると言ったけど、こんなに良い香りがするんだなと。
湯を注ぐとまた香りが広がった。
森の香りと混ざってなんだかコーヒーに包まれている気分。
コーヒー嫌いな人は大変だけど、良い香りに包まれている、人工的なものじゃなくて自然の、部屋では再現出来ない自然の落ち着く優しい香りだ。
おじいちゃんの事だからそこまで考えているのかも知れない。
大好きなおじいちゃんに包まれている感じもして心が落ち着く。
安心。
私は恵まれているんだ。
そう思えた。
最近、上手くいかないと思う事がたびたびあったけど今はそんなことがどうでも良いと思える。
私は幸せなんだと。
コーヒーは優しい味だった。
目覚ましには刺激が弱いかも知れないけど、甘み、うまみ、スープのよう。
幸せを取り込んでいるそんな感じがした。
コーヒーでこんなにいろいろな事を思うなんて。
おじいちゃんに弟子入りしようか。
ちょっと離れただけだけど、携帯が通じないということだけで少し隔絶された感じがする。
常にすぐに連絡を取れるのができなくなってしまう。
最初は少し不安を感じたが問題は無い。
普段なら携帯を寝る前に触って、起きたら触って。約7時間以上に携帯を触らないと言う事がない。
今は昨日ここに着いてからは携帯に触っていない。
いろいろと便利で大事なツールだけど私も依存しすぎかなと思った。
ジイイイイ
テントが開いた。
「おはよう。
おじいちゃんのコーヒー飲む?」
キャンプの朝
起きるとヒカルさんの姿がない。
置いてかれたような感じがして慌ててテントを開ける。
ジイイイイ
ヒカルさんはゆったり何かを飲んでた。
「おはよう。
おじいちゃんのコーヒー飲む?」
ヒカルさんの姿を見て安心した。
流石に僕を置いて先に帰るのはないだろう。
寝ぼけていたな。
テントを閉めて二度寝を始める。
慣れないキャンプで昨日は何度か目が覚めたけど、なんだか今は気持ちよく寝れる。
ちょうど良い気温。
気持ちいい。
ジイイイイ
「おはよう。
ツバサ起きて
おじいちゃんのコーヒー入れたから」
コーヒーの美味しそうな香りがした。
仕方ないから身体を起こして一口飲む。
「おいしい」
目も覚めた。
こんなに美味しいコーヒーは初めてだった。
「でしょう。
私おじいちゃんに弟子入りしようかなと思って」
ヒュッゲ
従姉妹同士テントの前に椅子を並べてコーヒーを嗜む。
森の匂いとコーヒーの匂いヒカルさんの匂い。
落ち着く。
幸せな事だ。
「寝られた?」
いまいちだけれど良かった。
「私も良くは寝られなかったかけどなんか良いよねキャンプって」
その通りだ。
時間を忘れてのんびりできる。
家に居るとなんだかんだでいろいろな事をしてしまうけど、ここに来るとできる事が制限されるから、のんびりと自分に向き合う事ができる。
最近キャンプブームだけれどそういうことかな。
キャンプというとアウトドアでアクティブなイメージもあるけど、以外とのんびり過ごす人が多いのかな。
悪くないな。
「コーヒー美味しいね」
コーヒーも苦みやカフェインで目を覚ますものだと思っていたが、こんなに優しくて、落ち着く飲み物だったんだなと。
思い込み。
捉え方次第なのかも知れないけど、違う世界になった。
そんな感じだ。
「それにしても昨日のツバサ君かわいかったなあ」
ちょっと甘えすぎてしまったか。
「私も叔母さんの事思い出しちゃった。
最後に話したとき、ツバサ君をお願いって言っていたの。
その時はよく意味がわからなくて、叔父さんもそう言っていたし、病気のせいかなと思ったけどツバサ君のことが一番大事だからなんだなって思った。
ツバサ君のお母さんの叔母さんがうらまやしくなっちゃった。
だからせめてこれからは、私がツバサ君の一番近くに居ても良いかな」
涙が出てきた。
止まらない。
ヒカルさんに抱きついて泣いた。
「もう、泣き虫なんだから。
これだから叔母さん心配になるよね」
ヒカルさんの声が震えていた。
ヒカルさんを強く抱きしめた。
夏休み祖父母の田舎へ行ったら従姉妹のお姉さんが恋人のように絡んできて・・・ 最時 @ryggdrasil
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