草原に、彼女は.4
——爆撃機の音が止むまで、私はメイラーを縛り続けた。その後私は別れの挨拶もせず、ミネアに向かって……祖国を歩いた。
「元々、ネフレア人だったのか。しかし何故レクーヴァに?」
「………。イベラ戦争のイベラって、何か知ってる?」
「レクーヴァとネフレアの間にある海域。当時は運河、制海権を巡り争った主戦場だろ?」
「私はその海に流されて、レクーヴァに生きる事になった。ネフレアに根付いた、吸血人と白技人を忌み嫌う社会の風潮は深刻でね。国境は越えれなかったの」
「そうか。とは言えそれで戦争は起き、こうして語り継がれる。ほら、早く話の続きをよこしてくれ」
ミネアに行くまでの間、道中には色々な事があった。全部が全部、覚えてる訳じゃないけど、それでも出会いはあった。メドウはその一人で——ん——あれ。
「どうしたシルバ?」
——いや違う。ごめん、やり直すから。
メイラーと別れて何日か経った。永い草原の先、爪ある吸血人の私は、ネフレア兵士の骸からレーションの梱包を破って、好きなモノを取った。コーヒーにキャンディー、中でも好みはチョコレート。
とりあえずレーションの中で必ず甘い。エネルギー補給なんて関係無く、味が目当てだった。ネフレアの言葉で小さく、ネグマールと会社の名前が書かれた外装を剥ぎ取って、長方形状のチョコレートをかじった。
骸を離れて菓子を三口目に、私は耳にまとわりつく虫を手で払う。
「うっとうしい……」
また口に甘味を運んで、また羽の音が近づいて、次第に音は大きくなる。掻き鳴らす様な——そして、耳の後ろを鉄で叩かれる様な音に、振り返る。
地面を滑る羽の取れた
「あ……ぁ。死んで……ないや」
どのホラーや、スリリング映画よりも。実感の無い死に掛けた経験は、これ以上には無い。本当にただ死にそうになった、そう淡白な思考。だからか私は平常心を保って、操縦席に身を乗り出した。
機銃に撃たれてボロボロの機内には、誰かが機器に頭を付けて、血を流す。操縦士の胸ポケットに何かが膨れているのを見て、中に手を入れると、ざらざらとした感覚に包みの表質が指を触る。取ろうとした瞬間、操縦士の黒い髪が揺れ、ぴくりと口を動かした。私は鳴りもしない音を叫んで、地面に転がった。すると——
「あー……くそぉ。終わった」
悔しくも、喜びの様な声を呟く。彼女は身を上げて、灰色の目が私を珍妙な視線で見つめる。
「あんた……、ここで何してんだ?」
「歩いてる……。あっちに。死体を漁ってたら、その飛行機が落ちてきて。そこで転がってるのと同じ目に会う直前だったの」
咄嗟に濁した言葉を聞いて、彼女は瞼を見開いて、表情を喜ばせる。
「そりゃあ良い、つまりツイてる訳だ。一緒でも構わないだろ? とりあえずここを去らなきゃ敵がやってきそうだしな」
「……いいよ。自分はシルバ。君は?」
「ガードラさ。よろしく」
差し出された爪の無い手に、不安を感じながら……その手を握った。
「さっき言い掛けてたよな。メドウがどうのと、そいつは誰だ?」
「後で話すつもり。でも一つだけ教えるとしたら、私の青春だった人かな」
「お前の? 随分と戦争らしくないな、つまらん反戦思想で出来た話よりよっぽど好印象でもあるが」
「……そういうのが嫌い?」
「いいや。根拠も信念も無いくせして、大層な事を抜かす奴、特に自分自身だけ信じてやまない奴が嫌いだ。そういう奴ほど地べた這いずらせて蹴っ飛ばしてやりたい」
「私も同じ。でも結局、心で嘲笑う方が賢い在り方だからね」
「賢いなりの、悩みって奴か。それじゃ——」
「待って」
「なんだ」
「眠い。夜も遅いし、それに……明日の用事を思い出したから、その為にも早く寝て、後で話すから」
「………。……ああ、そうか。寝る子は育つと良く言うし、そろそろ区切りを付けるべきだな」
「なら、おやすみ。寝る」
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