プロローグ 2
時間にして十五時間前放課後のタイミングまで時間遡行を行った俺は、ひとまず状況把握に努めることにした。
ホームルームが終わった直後、ぞろぞろと教室を出ていく生徒たちを見送りながらあたりを見回して、ようやく見つけた。
的場君と三人の少女たち。
高校の入学式から一か月も経っていないのにハーレム状態のぶっとんだグループだ。
彼女らは的場君の座席の近くに集まってひそひそと声量をおさえて話し合っていた。
「それじゃ、ドラゴン退治といきますか」
黒髪の快活な少年が声を上げる。
「前衛はアタシに任せて!」
赤髪の勝気な少女が笑う。
「魔法は私が」
青髪のクールな少女がつぶやく。
「わ、わたしも頑張って回復するね」
亜麻色髪の控えめな少女が声を振り絞る。
……でもこいつらこの後全滅したんだよな。
心の中に浮かんだ言葉がそのまま口から出てしまわないように気を付けながら俺は彼女らの作戦会議を眺めていた。
「よし、そろそろいくか!」
少年の声を合図にそれぞれが動き出す。
気まず……
というのが正直な俺の心の内だった。
今まで一度も話したことのないこいつらに話しかけて、そのうえでドラゴン退治をしろというのだから笑えない。
とりあえず話しやすそうな同性の的場君に話しかけようと決めて歩き出す。
八メートル
ハーレムメンバーの彼女たちが、こちらを見る。
七メートル
「彼……誰だったかしら」
「たしか伊藤君、だったっけ?」
六メートル
「なんかこっちきてない?」
「そんなまさか」
五メートル
「だってあの伊藤君だよ?クラスのRINEグループにも入ってない伊藤君だよ?」
四メートル
「まじでこっちきてるじゃん」
三メートル
「だってクラスの誰も伊藤君と話したことないんだよ?」
「何のようじなんだろ?」
二メートル
ここで立ち止まることにした。
……なんで女子のこそこそ話ってこんなに聞こえてくるんだろうね。
クラスのRINEグループが存在することすら知らなかったコミュ障の俺ではあるが一様、人に話しかけることぐらいはできるのだ。
「すーはー」
大きく深呼吸をして調子を整える。
大丈夫。いける。話しかけろ。世界のピンチだぞ。いけ。
「こ、こんにちは」
「あ、ああこんにちは?」
気を遣うようにこちらを見やる的場君の目には動揺と心配の念が宿っていた。
どうやら間違えたらしいと一人で反省会をしながら的場君に告げる。
「お、俺もドリャゴン退治に連れて行ってほしい!!」
噛んだ……最悪だ……人と話す機会がなさすぎた。
ずん、と暗くなる気持ちを抑えて彼、的場君のほうを見やる。
どこか困ったような雰囲気を漂わせて彼は告げた。
「……でも伊藤君、基礎異能使えなかったと思うんだけど……?」
少年の気を遣うような視線が痛い。
基礎異能、それは異能を使える人間が最初から身に着けている異能だ。
身体強化や基礎的な魔法技術などを内包したそれは多くの異能使いにとって使えるのが当たり前の代物だった。
だからこそ俺は遠巻きに見られていても話しかけられることがないのだ。
率直に言って俺は……落ちこぼれていた。
影では裏口入学だなんだと言われているのである。
実際、大人の都合でこの学校に入学することになったのであながち間違いでもないのだが……
「だ、大丈夫!!あ、あ、足は引っ張らないから」
「それならまずは君の異能を教えてくれないか?それがわからないことにはなんともいえないし」
この質問への返答は結構悩むのだ。
俺の異能は基本的に機密扱いのため簡単にばらすことはできない。
だからこそ答えるとするならば……
「ちょ、直感、だよ」
「直感か、なるほど、わるくないな」
うんうんと唸っている的場君を前にして俺は緊張で硬くなっていた。
もしも同行を許されなかった場合、隠れてついていかなければならない。
中々疲れるのでできれば俺を認めてほしいところなのだが。
「よし、決めた!一緒にドラゴンキラーになろう、祐也!」
う、名前呼び、ですか。
どうやらハーレムの主は距離を詰めてくるのが早いらしい。
「うん、こちらこそよろしく、的場君!」
まあ俺は名前呼びなんてできないが……
だって下の名前覚えてないし……
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