異能学園の安全装置~バッドエンド後のお助けキャラ~

五橋

プロローグ

プロローグ 1

「やあ!きこえてるかい?どうやら君の出番らしい」


 


 心地よい日差しにつつまれてどうやら眠っていたらしい。


 ここにきて五回目となる緊急通信の向こうから聞こえるのはいまいましい学園長の声だ。


 


 寮の自室のベッドから起き上がり、窓から空を見上げてみれば一目瞭然、金色のドラゴンがその自慢のブレスで町を焼き払っていた。


 こんなのが日常なわけがない、はっきり異常だとわかる。


 


 「なるほど、たしかにこれは俺の仕事ですね」


 


 緊急通信用にと手渡されていた通信機器から学園長に同意する。


 どうやらまたしてもどこかの誰かが失敗して、その尻拭いを俺がしなければならないらしい。


 


 「座標をお聞きしても?もう調べてあるんでしょう?」


 「随分と慣れてる様子だね?もしかしてこれが初めてじゃなかったり?」


 「ええ、これで今年に入って五回目、先生がその質問を返してきたのが三回目ですよ」


 「なるほどなるほど、どうやらこの世界は君に頼り切りらしい、悪いが今回も頼んだよ、時間にして十五時間前、場所に関しては同じクラスの的場君についていけばいいだろう」


 「了解です」


 


 ため息をつきたくなるのをぐっとこらえて異能を発動させる。


 どうせ今ここで話したことを覚えている人間なんて俺以外一人もいないのである。


 ならばさっさと仕事に向かうべきだろう、やるべきことは山ほどあるのだ。


 


 『時間遡行、開始』


 


 少年は一人、世界救済のために旅立った。


 


 


 


 


 ――――――


 


 少年が時間遡行に旅立つ少し前、異能学園の学園長である彼女、エリステアは悲嘆に暮れていた。


 


 


 


 空にドラゴンが現れた、という報告を受けて窓から外を覗いてみればそこにあったのは終末の世界。


 


 金色のドラゴンが町を焼き尽くしていく、まさしく蹂躙と言っていい景色だった。


 なかにはドラゴンに抗おうと必死に異能や魔法を行使する者もいるが、そのことごとくが蹴散らされている。


 あのドラゴンの正体を知っているものの多くは震えたまま動こうとしない。


 それもそのはず、あのドラゴンの名は『終末竜』、文字通り世界を終わらせることのできる存在なのだから。


 


 あの終末のドラゴンが現れた原因を調べはしたものの、そこにあったのはとある生徒たちの蛮勇と失敗、それだけだった。


 


 さて、どうしたものかと思考を巡らせてみるも、何も思い浮かばない。


 自分の情けなさが嫌になったところでふと気が付く、いつのまにやら自分の手に鍵が握られていることに。


 


 「何、これ?」


 


 こんな鍵を見たことは一度もないはずだし、そもそもなんでこんな時に限ってこんな意味不明な事象が起こっているのか。


 いますぐこんな鍵、捨ててしまおうと思った矢先、違和感が背筋を駆け抜けていった。


 


 「もしかして」


 


 思うよりも先に体が動き出す。


 自室である学園長室の一角に鎮座する金庫、その鍵穴に震える手を叱咤して鍵を差し込む、すっぽりとはまった鍵を少しひねるとするりと金庫は開いた。


 この鍵と同じようにいつのまにやら存在していたこの金庫、どんな魔法や異能を使っても開かなかった金庫は嘘のようにあっさりと開いた。


 そうして開いた金庫の中を覗いてみれば、そこにあったのは一枚の資料と通信機器。


 一瞬、落胆しそうになるも何とか己を奮い立たせてその資料を手に取って目を通す。


 


 彼女の目が、意識が、その一文字一文字を認識していくにつれて、沸騰しそうに熱くなる。


 


 そうして一通り目を通した彼女は、つぎに通信機器を金庫から取り出してにんまりと笑った。


 


 「やあ!きこえてるかい?どうやら君の出番らしい」


 


 その声は希望に満ち溢れていた。


 


 


 


 異能学園一年F組37番伊藤祐也に関する情報


 以下に記された情報は世界権限レベル8以上の者に限り取得することが許される。


 また、この資料を閲覧した者は閲覧後、一級以上の記憶操作系の異能使いによって記憶を消去することを義務づける。


 


 


 名前 伊藤祐也


 異能 時間操作


 規模 世界


 秘匿レベル 8


 


 彼の持つ異能の規模と、その脅威のため彼の異能を知る者すべてに記憶消去を行った過去がある。


 そのため、この資料を閲覧しているものは直ちにこれを手放し、記憶消去の異能を受けることとする。


 


 


 追記 どうしようもない手詰まりに直面したなら、彼に相談すること。


    そうすれば大体なんとかしてくれるので。


                       


                    エリステアより

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