変わっていった恋心

 姉と暮らし始めて一年の月日が経つ。私が渡していた分のお金も当てにしていたのか、学校の前で待ち伏せをして「戻ってきなさい」と母に怒鳴られることもあった。だが姉に何か言われたのだろう、今では待ち伏せされることもない。一年前と比べて、生活基準も変わったが、それよりも変わっていったのは心だ。特に恋心。

 報告しないと、そう思った私は先生に伝えた。「私にも辛くなった時、思い浮かべる顔がありました」と言うと、先生は「よかった」と優しく微笑む。その表情を見て高鳴る胸に自覚する。

 

 私は先生が好き。


 最初は週一回のレッスンで先生に会えるだけで十分だった。たとえ、先生と生徒だとしても同じ空間に居られるだけで十分だった。


 「先生の好きな食べ物ってなんですか?」

 「いや、言ったら女々しいとか言われそう……」

 「言いませんから、教えてください」

 「い、いちご。基本的に甘いものが好き」

 照れくさそうに話す先生は可愛かった。バレンタインはイチゴチョコで決まりかな、なんて考えた。


 「先生って音楽以外に趣味はあるんですか?」

 「趣味か。映画みたりドラマ見たり、旅行に行くのも好きかな」

 どんな映画を観るんだろう、どんなドラマが好きなんだろう、旅行した場所で一番好きなところはどこだろう。知りたいことが山ほどあって時間が足りない。


 「私は通信だから修学旅行なんてないけど、先生はどこに行きましたか?」

 「俺は沖縄に行ったよ。秋ごろに行ったけど、暑かったな」

 「思い出の場所とかありますか?」

 「思い出かぁ~。恥ずかしい思い出はあるかな」

 「え?」

 「……千弦ちゃんとかには内緒だよ?」

 「好きな子に告白したらフラれた。まぁ、一方的な片想いだったからな」

 初めて胸がチクリと痛んだ。先生が好きになった人はどんな人なんだろう。考えれば考える程、自分とは真逆の綺麗で可愛らしい女性像が浮かび上がる。到底、自分が叶うような相手ではないと勝手に落ち込んだ。

 

 「先生がつけてるストラップ可愛いですね」

 「あぁ、これね。可愛いよね……」

 愛おしそうにストラップを見つめる先生。まだ私が踏み込めていない先生の心の中にいる誰かの存在を感じた。


 知れば知るほど、近くなればなるほど、綺麗で純粋だった恋心に汚いものが混じっていく。そんな恋心に戸惑ってしまう。

 いつの間にか、私を見てほしいという欲望と私以外の女性と話さないでほしいという我儘な嫉妬ばかりが心を埋めていった。

 

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