1日目 夜

1日目は空中ホテルで夜ご飯を食べて、寝ることになっている。クラスみんなでご飯を食べるのだが、やはり端っこの席で下を向いてコメをかき込んだ。魚の味だか、涙の味だか分からなかった。不幸中の幸いだったのは、誰も泣いてることに気づかなかったことだ。 

 自分の部屋に戻って今日覚えたことをメモした。僕は昔から自分の言葉で何か表現するのが好きだった。そうすることで知識が自分だけのものになるような気がした。一通りメモが終わると、さっきのことを思い出した。

 気を紛らわすためにひらがなを50音順にひたすら書いた。ひらがなを書き続けると、頭の中が空っぽになって悩みがあるときはいつもそうしている。しかし、一文字だけ気になるひらがながある。それは「を」だ。「を」は「ち」と「と」を合体させたように見える。しかもぴったり合うわけでもないのに無理やりくっつけているのだ。そこに不気味さすら感じる。たまたまこの形になっているとしたら、不自然ではないか。なにか意図が存在するのかもしれない。調べれば出てくるのだろうが、何を言われても腑に落ちないため調べないようにしている。この字を作った人は何を考えていたのか、そう考えると「を」と書く度にワクワクする。そろそろ寝ないと見回りが来てしまう。

 夜は眠れずにいた。勘違いしていた自分の傲慢さに後悔した。幸樹に嫉妬できるほどの身分でもなかったことをじわじわと感じた。やはり僕は死ぬほど情けない人間だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る