落花-銀木犀


 saidマスター

 彼女が来たときの事はよく覚えている

 あの時もこの席であの酒を頼んできた

 彼女の目の回りは酷く腫れていたのでおしぼりを渡した

 彼女は失恋した時のままなんだ

 俺は半年間彼女に酒を作り続けた

 酒言葉は確か……淡い思い出

 繰り返された記憶を薄めるために飲み続けていると思い

 バーの店主ながら、禁酒を命じた時期もあったっか

 そんなこんなで彼女が作家であることを知った

 彼女からは、人を屍としてみてから

 感情を上書きするような書き物が多く

 俺は最初この人は人外の何かだと決めつけていた

 だか、違ったのかもしれない

 彼女はこうして注文して俺が作った酒を飲んでいる

 従兄弟が来たとき、彼女の顔が曇ったのか

 はたまた、あかるくなったのか

 不思議にもそんな繋がりを感じた

 彼女はきっと従兄弟を好きに成る

 そこから先は分からないが…

 良い未来が来ることを望みながら

 今日も良いものを作るのに励もう

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