落花-金木犀
said男
僕は、仕事を掛け持ちしてて夜遅いし家も遠いから
今日は従兄弟のやってるバーに泊まらせて貰うことにした
バーに来るのは半年ぶりで、久しぶりの再開に心踊らせていた
バーに着くと、見知らぬ女が一人
「ピニャコラーダお願いします」
と言っていた
僕はその人の横に座り
「マスター、いつもの」
と格好つけてみた
従兄弟はヘイヘイと言わんばかりに大いにニヤケた
女が私を観察してるようだから黙っておいた
従兄弟とはよく小説の話で盛り上がってたのを思いだし
久しぶりにその話をしてると
「それって、最新の『緑風総裁』では?」
どうやら、女も知っていたらしい
初めて会うのに初めて会う感覚のしない女と奇妙にも
話の内容が今でも思い出す
僕が烏龍茶をのみ終える頃には女の体に酒が回ってしまったようで
「マスター、こんな人とどうして仲良いんですか?」
こんな調子だ
僕は従兄弟に頼んで、毛布を持ってきて貰う間女の愚痴を聞いていた
こいつの話はとても不思議だ
「私は人間を書きたいの、一筆で」
「ッチ……失恋した時のままじゃないかよ」
「何で分かるかなマスター、私の小説のモデ……」
最後何を言おうとしたのか、僕には分からなかった
従兄弟に女について聞くと、「丁度半年前からの常連で女は来たら必ずピニャコラーダの注文を受ける」と言っただけでそれ以外は語りはしなかった
女は何も警戒せず
ただ、飲み終わったグラスだけが鳴り
白く濁った器は少しだけ元の色を取り戻した…
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