落花-菫花
これは酒を酌み交わすのに良い月の頃
女は悪酒をしていたのだと
酒はあの、彼の酒天童子も飲んだとされた代物で
そんなものを、粗末に飲んでは成らんと
友に折檻かれたのだとか
女はただ「死にとうな」と毎日のように言ったのさ
時に、友に「心中なさらぬか」とまで問ておった
丁重に断られたのは言うまでもないが…
「飲めば飲むほど飲まれてく、そうして何も感じなくなる」
そんなことを言いながら、水差しに手を伸ばす
「酔ってしまうとバレるから」と
静かにまた、冷水をふくむ
ジャズピアノをサックスの音色がスウィングして
微妙な間と雰囲気を醸し出す
何て良い日だ…
女は、落ち着いたこの場が誰にも邪魔されないこの場が…
思い出の場に成るとは思いもしなかった
そう、あの男が現れるまで…
あの日は確か菫が酒に添えられて綺麗だった
ピニャコラーダを注文して少し待っていると、
隣に見知らぬ者が座っていた
当然だ此処はバーなのだから…男はマスターに一言
「あれを頼む」とだけ言った
私はマスターと半年の付き合いだが此処まで親しげのあるマスターを見たのはこれが最初だった
男の格好は不思議だ
見た目の年齢はマスターと変わらないのに
服装のセンスが統一過ぎて全く見当がつかない
私はマスターから、ピニャコラーダを受けとり飲み始めると隣の男が「マスター、今度の推理小説がさ…」
どうやら、私が気にする程の人物ではなかったらしい
男にも酒が注がれたどうやら蒸留酒のような不思議な香り
「綺麗だった女が酒を浴びる程飲んで、友人に止められたんだと」
どこかで見たこと有る…?
「それって、最新の『緑風総裁』では?」
「よく知ってるね君」
私は当然の事のように答えてしまった
そうだ、私がこの本の著者である
お気づきの方も居るだろうが、この本はミステリーチックではあるが、私の日記をただ日本語を治して出版した物だった
ノンフィクションとは言い難いが、逸れに近しいものであることはこの私が保証したい
「あの男ってさどんな人だと思う?」
唐突に男が質問してくるものだから、
「貴方みたいなひとではないか?」
そんな風に言ってみると
「君、面白いね」
と笑われてしまった
マスターは、落ち着いた声で
「多分姉さんみたいな…」
そんな調子で話した
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