紫外線の闇

秋の夕暮れ、冷え込み始めた空気の中、とある古びた研究所の一室で、研究者の佐々木は熱心に作業を続けていた。机には無数の設計図、電子機器の部品、そして中央に鎮座する未完成のレーザー銃。彼は独学でこれを作り上げようとしていた。目的は単純だ。「世界に新しい技術をもたらすこと」。しかし、その道のりは決して平坦ではなかった。


レーザー銃はほぼ完成していた。しかし、一つの問題が佐々木を悩ませていた。それは、レーザーが放つ紫外線だ。この紫外線が異常に強く、長時間浴びると人体に悪影響を及ぼす可能性があった。彼は試行錯誤し、何度も改良を加えてきたが、どうしてもその問題が解決しなかった。


「一度、試してみるしかないか…」


佐々木は覚悟を決め、試験を行うことにした。研究室の奥に置かれた古びた靴を的に、彼は慎重にレーザー銃を構えた。緊張のあまり、汗が手にじっとりと滲んでいた。引き金を引くと、静かに発射音が響き、紫色のレーザーが靴に直撃した。


一瞬で靴は消え去り、そこには黒く焼けた痕が残るだけだった。佐々木は成功に胸を躍らせた。しかし、その瞬間、異変が起こった。研究室の空気が急に重くなり、何かが変わったような感覚が彼を襲った。


「何だ…?」


周囲を見回すが、特に異常は感じられない。しかし、佐々木の背後、レーザーが放たれた場所から、微かな影が立ち上がっていた。それはまるで生きているかのように揺れ、徐々に形を取り始めた。


「何かいる…?」


佐々木は恐る恐るその影を見つめた。影は次第に濃くなり、そして不気味な人型へと変貌していく。目が無い、顔も無い。それでも明らかに「こちらを見ている」感覚がした。


「おい、なんだこれは…?」


影は答えない。ただ、じっと佐々木を見つめ続けている。佐々木の背筋を冷たい汗が伝い、心臓が激しく鼓動する。逃げ出そうとしたが、足が動かない。影は徐々に近づいてくる。ゆっくりと、確実に。


「く、来るな!」


佐々木は反射的に再びレーザー銃を構え、影に向かって発射した。レーザーは影を貫いたが、影は消えない。むしろ、その一撃でさらに力を増したかのように見えた。レーザーが放つ紫外線に問題があるというのは、このことだったのか。


「まさか…俺の…ミス…か?」


影は一層近づき、ついに佐々木の目の前に立った。彼の視界が急に暗くなり、気が遠くなる。気付けば、佐々木は床に倒れ込んでいた。最後に見たものは、影が彼の身体に覆いかぶさるようにして消えていく瞬間だった。


翌日、研究所を訪れた者が佐々木の遺体を発見したが、彼が何をしていたのかは誰にもわからなかった。机の上に残されていたのは、破損したレーザー銃と、不気味に揺れる影のような痕跡だけだった。


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