廃病院のリトラー

高1の夏休み、私は仲の良い友達 二人と「肝試し」と称して、廃墟 となった病院へ向かうことにな った。人通りのない夜の道を歩 きながら、私は胸が高鳴るのを 抑えられなかった。ビビりな私 は怖さと不安で足が重かった が、友達二人はまるで何も感じ ていないように笑いながら歩いて いた。


廃病院に着くと、そこは想像通り 不気味な雰囲気が漂っていた。ガ ラスの割れた窓や、落書きだらけ の壁、そして草が生い茂るエン トランスが目に入る。中に入る と、古い病院の独特の消毒液の匂 いがまだ残っているような気がし た。だが、意外にも怖い要素は 少なく、少し安心した。私の緊 張は少しだけ和らぎ、友達の一人 がふざけて「幽霊が出るぞ 一!」と叫んでも、もうそれほど 怖くなかった。


私たちは各フロアを探検し、最 後に緊急治療室に足を踏み入れ た。薄暗い部屋の中、古びた治 療台が無造作に置かれ、壁際に は医療器具が乱雑に散らかってい た。少しだけ背筋が寒くなった 時、突然、治療台の下に何かが いる気配を感じた。


「ねえ、誰かいる...?」 私は震え る声でつぶやいた。


友達の一人が冗談っぽく笑いな がら治療台に近づき、屈み込んで 下を覗き込んだ。すると、友達の顔 が一瞬で凍りついた。 「な、何かいる...!」


私たちは一斉に治療台の下を見 た。そこには、一人の人影があ った。暗闇の中でも、異様な姿 がはっきりと見えた。ボロボロの服を着たその人物は、顔に紙 袋をかぶっていた。紙袋には二つ の穴が開いていて、目だけがこち らをじっと見つめている。その 人物は、噂で聞いたことのある 「リトラー」だった。彼は、性 別も年齢も不明で、何をしている かもわからないが、盗人として警 察に追われ続けている謎の存在だ と言われていた。


友達の一人が、リトラーに向かっ て手を差し出そうとした。その 瞬間、リトラーは素早く立ち上 がり、友達を殴り飛ばした。 「うわっ!」友達は壁に叩きつ けられ、そのまま床に倒れた。


私ともう一人の友達は驚き、殴ら れた友達の元へ駆け寄った。だ が、殴り飛ばされた友達は急に私たちを拒絶する かのように叫び出した。 「来るな!近づくな!」


友達は、何かに怯え、震えていた。 体中がボロボロになっていたが、 私たちの呼びかけを聞かず、突然 起き上がって走り出した。


「待って!どこ行くの!?」 私たちは必死に追いかけたが、 友達は恐怖に駆られたようにどん どん奥へと消えていく。リトラー は、その場を静かに立ち去った ようで、いつの間にか姿が見えなくなっていた。


やがて、私たちは廃病院の外へ出 たが、殴られた友達はどこにもい なかった。病院の奥で見失ってし まったのだ。


その後、私たちは友達を探し続けたが、彼が見つかることはな かった。警察にも届け出たが、 友達は行方不明のままだった。何 が友達をあれほど怯えさせ、逃げ 出させたのかは、結局わからないままだった。


ただ、今でも耳に残るのは、リ トラーの無言の存在感と、友達が最後に叫んだ「近づくな」とい う言葉だけだ。友達が何を見たのか、何を感じたのかは、今も闇の 中に包まれている。

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