短編ホラー集
あ(別名:カクヨムリターンの人)
振り返ったら…
私は普通の高校生だった。毎日同じ時間に起きて、学校に行き、友達と笑い合い、家に帰るだけの平凡な日々を送っていた。しかし、あの悪夢を見たあの日から、私の世界は狂い始めた。
その悪夢は突然やってきた。見知らぬ暗闇の中、響く声。
「助けて、助けて、助けて…」
声の主は誰なのか分からない。けれど、どこか聞き覚えがあるような気がしてならなかった。声はだんだんと大きくなり、次第に低く不気味な響きに変わっていく。
「助け…ろ」
その瞬間、耳をつんざくようなピー音と共に、目の前に現れたのは、青白い顔に瞳のない黒髪の女性。私が叫び声を上げると同時に、夢から目が覚めた。
悪夢で見た光景に胸が締め付けられるような感覚を覚えたが、それでも日常は続いていた。学校に行くと、友達と冗談を言い合い、笑い声が教室に響いた。悪夢のことなど、すっかり忘れていた。
放課後、友達と別れた私は、電車とバスを乗り継ぎ、自宅の最寄りのバス停で降りる。そこから自宅へ帰るには薄暗い林道を抜ける必要があった。誰もいない静かな道で、少し気味が悪いが、何度も通っているので慣れている。そう、慣れているはずだった。
林道の中盤に差し掛かったときだった。後ろから聞こえてきた。
「助けて、助けて、助けて…」
耳を疑った。夢の中のあの声と同じ。振り返るべきじゃないのに、気になってしまう。振り返ろうとしたその瞬間、さっき駅で別れた友達の声がした。
「振り返ったら…ダメだよ」
友達は私の横をすり抜け、先に走り去っていった。追いかけようと足を踏み出したが、背後からさらに大きなSOSの声がした。振り返りたい衝動に駆られながらも、友達の言葉が頭をよぎる。
しかし、声はどんどん近づいてくる。
「助けて、助けて…」
声の主が迫り、もう振り返らずにはいられなかった。心臓が鼓動を速め、恐怖と好奇心が入り混じる中、私はついに後ろを向いてしまった。
そこにいたのは、夢で見た瞳のない女性だった。彼女の顔を見た瞬間、私は思い出してしまった。この女性は、数年前に亡くなった私の親友だったのだ。事故で命を落としたあの日、私は彼女を助けることができなかった。彼女のSOSを無視して、目を背けたのだ。
そして、私は今、再び彼女のSOSを無視してしまったことに気づく。彼女の顔が歪み、薄ら笑いを浮かべると、私の視界は一気に暗転した。
気づけば私は、自宅のベッドにいた。すべて夢だったのか、現実だったのか、わからない。だが、林道で感じたあの恐怖は消えない。私は恐る恐るスマホを手に取ると、そこには一つの未読メッセージがあった。
「助けて」
画面には、今はもういない親友の名前が表示されていた。どうしても消せない、忘れられないSOSが、私の中で再び響き渡った。
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