1章 達成度考査 編 Period

 20時。ネットの専用掲示板に結果が掲載される時刻となった。

 またしてもアクセス集中により5分ほど見られなかったが、俺の結果は合格。倉本も瀬川も合格していた。朝霞は言わずもがなだ。

 数を数えると、今回も3人脱落していた。2度目と同じメンツかどうかは分からないが。

 ただ、俺はまだ緊張していた。問題の時間まであと10分ほどある。今回は風呂を溜める気にもならない。試験結果発表などより、よほど結果発表じみている。

 今回のムーブにより、俺は次のステージに進むことができたのか。妙な確信があったため、もしこれでダメなら途方にくれてしまうかもしれない。仮定の抜本的な見直しが必要となってくる。これ以上に答えらしい答えは、現状思いつかない。

 時は、俺を焦らすかのようにゆっくりと流れていき、ようやく5分前の20:20となった。前回はどれくらいのタイミングから眠気や黒いモヤが発生していたのだろう。何となく視界の周縁が黒いような気がするが、気のせいか……。

2分前、1分前、30秒前、眠気はない。

10,9,8,……3,2,1、ついに20:25になった。

視野狭窄は起こっていない。眠気もない。


ついに俺はクリアした。



 俺はPCの前で、思わずガッツポーズをした。今度こそ喜びをしっかりと噛み締めた。足の力が抜けそうになるが、力を入れるとちゃんと踏みとどまることが出来る。意識の底が抜けることはなく、俺の目にはきちんと俺の簡素な部屋が映っている。

 この意味の分からない不条理なシステムに一矢報いることができた。とにかく答えを引き当てたのだ。

 俺は深い吐息をつきながら、ふらふらと風呂場に行き、46℃設定で風呂を入れ始めた。

 実際、最後の最後でひっくり返される可能性は大いにあった。原理が分からないというのは、そういうことだ。所詮、当てずっぽうでしか太刀打ちできないのだ。しかし、今回はその博打が上手く嵌ってくれた。

 ともあれ、今夜は、俺の最大の嗜好品である熱湯の風呂とまずいコーヒーをゆっくりと楽しみたい。それくらいの権利は勝ち取ったはずだ。



 裏で走っていたからくりについて、俺が推測したのは次のストーリーだ。

 倉本父の会社が買収した製薬会社の元社員は、1度目と2度目のいずれにおいても、強い意図で事故を起こしたのだろう。いずれの回においても倉本の父親は、その場では命を取り留めたものの、致命的な重傷を負ってしまった。事故後すぐに病院に送られたが回復せず、その命が尽きてしまったのが、試験日の20:25というところなのだろう。

 残念ながら、今となっては、過ぎ去ったループの事実を確認する術はない。ただ、今回そのイベントを阻止した結果、次に進むことができたということは、倉本父の生死がトリガーとなっていたということだろう、と考えている。



 ぺこん、とチャットの通知の音がした。

 俺は気を緩めきっていたため、ビクッとした。時刻は20:30だ。


ひかり:「やっほ〜みんな受かってたね。ほーんとよかったよかった。来週からもよろしく!今度打ち上げでもしよーよ◎」


瀬川:「ああいいぞ。おい神楽、明日から友達よろしくな」


ひかり:「また瀬川くんはよく分からないこと言ってるな。それに明日はお休みだよ〜◎」


 俺は深い安堵感に包まれ、同時に自然と涙が滲んできた。こいつらとこれからも関わっていけることが、意外にも単純に嬉しかったのだ。


神楽:「ああ、次のステージもよろしく」


ひかり:「そういや、ようやくこれで部活できるようになるよね〜。同じ部活に入るかは置いといて、体験入部とか一緒に行こーよ◎」



 これでやっとのことで、体感では半年遅れで、俺の高校生活がスタートした。

 俺が無事にこの高校を卒業できるのかは分からない。今回のようなブラックアウトについても合理的な説明はないままだ。そもそも説明は無い可能性が高い。良い加減、勘弁してほしい。

 ただ、今は熱い風呂に入って、まずいコーヒーを飲み干して、待ち侘びた未だ見ぬ6月からの学校生活を夢想することにしよう。

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