第5話 買い物

「全く……本当に、貴方はデリカシーが無いんだから!」

「ご、ごめん……」


2人は皆の元へ戻ると、一雄は2人を見て少し呆れた様子で言った。


「君達は一体……何をしていたんだい?」

「いや……ちょっとね、優菜が……トイレ……グハ!」


  聡は何か言おうとした直後、再び優菜に強烈な一撃を貰いノックダウンした。

 それを見た皆は唖然とした様子で、それ以上は何も聞かない様にした。


 その日の夕方、皆で夕食を作って賑わう。


 「いやあ、本当に芽衣ちゃんは料理が上手だね」

 「う……うん、ありがとうございます……」


 2人は料理を褒められて少し照れた様子でいた。


 「さあ、どんどん食べてね」


 2人が料理を食べていると、優菜が聡に話しかける。


 「そう言えば……さっきはごめんなさいね」

 「え?」

 「……まさか、いきなり殴ったりなんかして……」


 彼女は恥ずかしそうに俯いて言った。


 「い、いや大丈夫だよ!元はと言えば僕が余計な事を言ったからだし……」


 聡達の様子を傍らで見ていた斎藤達は少し安堵した雰囲気で食事を続ける。


 「まあ、あの様子なら大丈夫そうだな……」

 「うん……」


 食事を終えて一息付く頃、コーヒーを飲みながら斎藤が聡に声を掛ける。

 「で……君達は、夜はキャンプで寝るのか?」


 斎藤の言葉に聡は頷く。


 「ちょっと、夜空の天体観測もしたいので……」

 「そっか、良いね!特にこの辺はUFOの目撃情報もあるから、見れると良いね!」


 斎藤の言葉に、聡は慢心の笑みで皆を見た。


 「じゃあ、片付けしたら、僕達はキャンプに戻ります」


 そう言って、聡達は食器の片付けをしたあと、キャンプに戻った。

 待っている間に彼等は、薪を焚いて皆で簡単な肉やトウモロコシ、ホットミルク等を温めていた。


 「さあ、そろそろ焼けたぞ!」


 一雄が声をかけると、皆が集まってきた。


 「おいしそう!」


 芽衣が目を輝かせながら、焼けたばかりの肉に手を伸ばす。


 「気をつけてね、まだ熱いから」と注意するも、芽衣は待ちきれずに頬張った。すると、彼女は口を押さえて飛び跳ねた。「あっつい!でもおいしい!」


 その様子に皆が笑い、夕食は和やかに進んでいった。しかし、聡はどこか心ここにあらずの様子で、時折、湖の方を気にしていた。


 「どうしたの?」優菜が小声で尋ねる。「さっきからずっと湖を見てるけど。」

 「いや……なんか、裕太が言ってたことがずっと気になってさ。あいつが本当にUFOを見たのか気になっていてね……」


 優菜は少し考え込んでから答えた。


 「裕太が見たものが本当なら……私も確認したい気持ちはあるわ。でも、そんな簡単に見つかるものじゃないでしょ?」


 聡は頷きながらも、夜が深まるにつれて不安が募っていくのを感じていた。


 「夜中になれば、もっとはっきり見えるかもしれない。あいつが言ってたのも、確か夜中だったし……」


 その時、一雄が突然声を上げた。「おい、みんな!空を見てみろ!」

 全員が一斉に空を見上げると、夜空に一筋の光がゆっくりと動いているのが見えた。聡は驚きの表情を浮かべ、立ち上がった。


 「あれは……!」

 「流れ星?」

 「もしかして……!」


 芽衣が期待に目を輝かせて言ったが、聡は違うと首を振った。


 「いや、あれは……人工衛星だな!」


 その瞬間、皆の間に緊張が走った。光はゆっくりと上空をゆっくりと飛行し、空中で静止する事無く、山の向こうへと消えて行く。


 皆は落胆した。


 その後も聡は諦めず、一雄や優菜と交代で、夜空を見ていたが……優菜が最初に離脱して、一雄と粘っていたが……いつの間にか全員朝を迎えた。聡が気付いて目を覚ますと、野鳥の囀りが聞こえ、テントから外に出ると辺りは霧に覆われていた。既に東の空から陽が昇っていた。

 

 翌朝、空は澄み渡り、昨夜の出来事がまるで夢のように感じられた。皆、静かに朝食をとりながら、UFOを探し出すという目的は達成されず、聡たちはどこか不満を抱えていた。


 「結局、何も掴めなかったな……」


 聡はパンをかじりながら、ぼんやりと湖を見つめていた。


 「まあ、そんな簡単に見つかるものじゃないよね」


 一雄はフォローしたが、彼自身も少し残念そうな表情を浮かべていた。


 その時、優菜がふと口を開いた。


 「今日は少し息抜きしない?斎藤さん達が山を降りた近くのショッピングモールに行こうって言ってるの。」


 「え?買い物?」聡は驚いたように顔を上げた。

 「そう、昨日は夜遅くまでUFO探しで体力を使ったでしょ?たまには別のこともした方がいいと思うの。それに、みんなで楽しく過ごしたいじゃない。」


 一雄や芽衣もその提案に乗り気だった。


 「確かに、少し休憩した方が良いかもね」と一雄が頷く。

 「芽衣ちゃんも行きたい?」斎藤が優しく聞くと、芽衣は元気よく頷いた。「うん!私、買い物大好き!」


 こうして、UFO探しは一旦置いておき、皆は買い物に出かけることにした。昼過ぎ、優菜の従姉妹達と合流し、大きなショッピングモールへと向かった。従姉妹の斎藤夫妻の娘である菜月は明るくて落ち着いた雰囲気を持っていた、20代の女性で、優菜にとっては憧れの存在でもあった。彼女はショッピングモールに着くなり優菜に話しかける。


 「今日は一緒に楽しもう!」

 「うん、よろしくね」と優菜は笑顔で応じた。


 ショッピングモールは賑わっており、たくさんの店が並んでいた。皆はそれぞれ好きな店に足を運び、洋服やアクセサリーを見て回ったり、食べ物を楽しんだりとリラックスした時間を過ごした。


 「ねえ、聡くん、この帽子どう?」と優菜が彼に帽子をかぶって見せた。


 「似合ってるよ」


 優菜は、違う帽子を被って、「こっちはどう?」と、彼に声をかけると……


 「似合っているよ」


 と、彼は答えるが……その返事に優菜は不機嫌そうな態度を見せる。


 「ちょっと、もう少し真剣に答えてよね!」


 聡は、何故優菜が腹を立てて居るのか理解出来なかった。


 一方で、芽衣は菜月と一緒にお菓子屋を楽しんでいた。「これ、美味しそう!」と芽衣が指差すと、菜月は笑って「全部買ってもいいんじゃない?」とからかった。


 「今日は完全に息抜きって感じだな」と斎藤小太郎は妻の静香に話しかけると、彼女も静かに頷いた。「でも、たまにはこういう日も必要だと思うよ。」


 そうして、皆で買い物や食事を楽しんだが、やはり聡の頭の中には昨夜の出来事が引っかかっていた。ふと、彼は静かな場所に立ち止まり、窓の外に広がる景色を眺めていた。


 「どうしたの?また考え込んでるわね」と、後ろから優菜が声をかけた。

 「まあ、昨日はダメだったから今夜こそ、結果を残したいと思ってね……」

 「うん、私も……」優菜は少し考え込んだ。

 「でも、今日は私はログハウスで休ませて貰うわ」

 「どうして?」

 「私は持病があるから……」


 彼女の言葉に聡驚いた。


 「そ……それ本当なの?」


 優菜は黙って頷く。


 「普通にして居れば問題ないけどね……時折発作とかあるのよ」

 「わ……分かった、あまり無理しにでね」

 「ありがとう」


 優菜は軽く微笑んだ、彼女と会話したあと、聡は斎藤が一雄と一緒に居るのを見つけて彼等の方へと歩み寄った。

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星屑の夜 じゅんとく @ay19730514

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