第4話 ログハウス

 バスに乗り込むと、車内には彼等以外、高齢者の老婆と、学生と思われる男性だけが乗っていて、他には聡達が乗っているだけだった。目的地の場所へと向かう途中、バスは山の斜面を通過する。


 片側がガードレールになっている細い道をクネクネと曲がりながら走行して行く。

山の奥へと走行して行くと、その先に開けた場所が見えて来た。その停留所に着くと、彼等はバスから降りる。


 バスから降りて周囲を見渡すと、辺りに複数のログハウスが立ち並んでいた。


 「わあ、凄いね、これ全部別荘なんだ……」

 「ええ……夏の時期だけ、利用する人達の場所よ。伯父さんたちは……あっちの方ね」


 優菜がスマホの画面を見ながら移動し始める。聡達は彼女に付き添いながら歩き出す。


 「それにしても、ここで生活してる人って、一体どれだけの金を稼いでいるんだ?」

 「まあ、単純に考えて億単位じゃないの?」


 優菜は一雄の言葉に愛想なく答える。


 「すごいね……」


 芽衣が唖然としながら呟く、それに対して聡は「うん……」と、だけ返事をする。

しばらく歩いていると、少し開けた場所に出て、そこに他のログハウスより二回りくらい大きい別荘が見えた。


 「ここが伯父さんの別荘よ」

 「へえ……」


 聡達が感心していると、優菜がその別荘に向かって歩き始める。


 すると、そのログハウスから一人の男性が出て来た。


 男性は優菜に気付くと、彼女に手を振る。それに答える様に彼女も手を振り返す。


 「あの人が?」


 一雄が尋ねると、優菜は頷く。そして、一雄たちに向かって「私の叔父さん。斎藤 小太郎よ」と紹介する。


 「あ、どうも……」


 聡たちが頭を軽く下げると、小太郎は微笑を浮かべながら手を振る。そして、優菜に向き直って何かを話し始める。


 しばらくしてから話が済んだのか、優菜は一雄たちの方を見て「今ね……伯父さんたちはバーベキューの用意をしているんだって、だから早く行きましょう?」と笑顔で言った。


 4人がログハウスの庭に向かうと、そこには既にバーベキューの準備がしてあった。


 「優菜ちゃん、いらっしゃい」


 3人の男女が聡達に気付く。1人は40代くらいの男で、もう1人は30代くらいの女性だ。2人とも優菜と同じく黒い髪をしている。


 「あ……こんにちは」


 聡達は改めて軽く頭を下げると、小太郎が笑顔で答える。


「やあ、よく来たね。君が聡くんかな?」

「え……はい」

「一雄くんは……あゝそちらの君か、初めまして」


 小太郎は聡に握手を求める。聡はそれに応じて手を差し出すと、小太郎はその手を握りながら「優菜から話は聞いてるよ、よろしくね」と言った。


 「あ……どうも……」


 聡は軽く頭を下げると、小太郎の手を離す。そして、彼は皆の方に向き直ると、自己紹介を始める。


 「僕は池山 小太郎だ。この別荘の管理をしているんだ」

 「風間聡と言います。こちらは妹の芽衣です」

 「僕は山村一雄です」


 聡と一雄が挨拶をする。


 「改めて、よろしくね」


 男性は紳士的な振舞いで挨拶をする。


 「ちょっと、皆と打ち合わせをしたいけど、何処かお部屋を借りれますか?」

 「ならば……すぐそこのお部屋を使ってくれて構わないよ」

 「ありがとうございます」


 聡は皆を連れて、すぐ手前の部屋へと移動した。


 部屋に入るなり、ドアを閉めて彼は優菜を見た。


 「どう言う事だよ、これは……何か僕達の事色々知って居るんじゃないか!」


 「そりゃあ、キャンプしている間、色々とお世話になる人だから、最低限の情報を伝える必要はあるでしょう?何……もしかして、全て自分達だけでするつもりだったの?普通に考えて見なさいよ、今、このキャンプ地に着くまでの距離、一番近くのショッピングセンターまで、どれだけ距離があったか知ってた?最低限の事は自分達で済ませるとしても、多少なりとも大人の協力は避けられないわよ」


 「ムムム……」


 聡は言葉が詰まった様子だった。


 「そう言えば、母が斎藤て言う人から連絡があったって言うけど、それってもしかして……?」


 「そうよ、伯父さんに事前に伝えて、彼から貴方達の家に電話して貰ったのよ」


 聡はまたしても、彼女の先手を取られた事に不快感を表した。


 「そうだね……今回は委員長の言う方が正しいね」

 「一雄、お前まで……」

 「全部大人達に任せるのでは無く、一応自分達が出来る事はするけど、やはり大人の目が届く範囲でするべきかな、第一……俺達が、こんな場所まで来れたのも、ある意味彼等のおかげとも言えるだろう?」


 一雄がそう言っている傍ら、優菜が改めて聡の前へと来る。


 「納得出来なければ、ここで解散しましょう。その後は、どうぞご勝手に……と言う事になるわ。ちなみに芽衣ちゃんは私の意見に賛成だから、後は……貴方1人の判断になるわよ」


 聡は、優菜の言う事が正しいと理解しつつも、納得出来ない様子だった。


 「分かったよ……僕も、皆の意見に従う事にするよ」


 3人は、渋々ながら納得した様子で頷いた。


 しばらくして、斎藤が部屋に入って来た。


 「失礼するよ」

 「あ、斎藤さん……」


 聡は気まずそうな表情で彼を見た。


 「いやぁ、今日はお客さんが沢山だねぇ」

 「ええ、そうですね」


 優菜はすかさず答えた。それからほどなくして、優菜のスマホが鳴った。


 「もしもし?」


 優菜は電話に出る。


 「あ、お父さん」

 『優菜、斎藤さんとは連絡がついたか?』

 「うん」

 『そうか……あまり無理はするなよ。それと……薬はちゃんと飲むんだぞ』

 「はい、はい……」


 3人はスマホの通話を終えると、皆に事情を説明した。


 「全く、心配性なんだから……」


 優菜の言葉に斎藤は軽く笑みをうかべる。


 「それが親って言うものだよ」


 彼は皆を見て、「そろそろ昼食の時間だから、皆もおいでよ」かれの言葉に4人は頷くと、斎藤に連れられてバーベキューの準備が出来た様子で、皆は外に出る。「うわあ」


 一雄は目を輝かせていた。皆は斎藤に促されるまま、バーベキューの椅子へと座る。そして斎藤がバーベキュー用の肉を焼いていくと……彼は紙皿に入れた肉を全員に配る。


 「皆さん、どうぞ召し上がれ」

 「いただきます!」


 4人は美味しいと言いながら焼いた肉を食べる。


 「うん!美味しいです」


 芽衣は笑顔で言った。


 食事を終えた後、聡達は片付けを手伝い、ひと段落した後、斎藤家の人達を取り囲んで、彼等は今後の予定を打ち合わせした。


 「僕達は、この先にある湖で夏休みの研究をします、テーマは湖周辺に生息する野生動物の研究です」

 「ほお、立派だね、予定としては何日位を目安にしているの?」

 「3日ですね……」

 「ふむ……3日ね。動物の観察には1週間から10日位をお勧めするけど、我々も……そんなに長くは、こちらに滞在出来ないのが本音だけどね」

 「まあ、僕等も、親の目があるから、長い期間は居られないからね……」

 「取り敢えず、3日間と言う事で、我々の方からも君達の家族には連絡しておくよ」

 「ありがとうございます」


 話しが決まると、湖近辺に準備へと取り掛かる。ログハウスの2階の窓から眺められる場所にテントを張る感じで、彼等は作業に取り掛かった。


 「僕達、テントの立て方とか知らないけど……」


 聡が優菜に聞く。


 「大丈夫よ、私が教えるから」


 優菜は聡にテントの立て方を教えると、彼はすぐに理解した様子でテントを立てていく……。そして……2人は協力しながらテントを立てた後、2人は皆の元へと戻る。


 「これで良いかな?」

 「うん!バッチリよ!」


 2人は互いに褒め合う。それからしばらくして、一雄達もテントを立てる事に成功した。


 「終わったよ!」

 「おう!こっちも出来たぜ」


 2人は芽衣の所へと向かう。


 「はい、出来たよ芽衣ちゃん」


 斎藤が芽衣にテントを立てるやり方を教えると、彼女はすぐに理解し、テントを立てていく……そして……2人は皆の元へと戻る。


 「これで良いかな?」

 「うん!バッチリだよ!」


 彼女は笑顔で答えた。


 「これで、今日出来る作業はあらかた終わったな」


 聡が一雄に話す。


 「うん、そうだね……ところで、湖周辺を探索して見たいんだけど……」

 「俺達もついて行くよ」


 一雄と斎藤が2人について行こうとするが、芽衣がそれを止める。


 「あ、2人は残っててよ」

 「え?なんで?」

 「だって……私一人じゃ心細いし……」


 2人の兄妹は少し考え込んだ後……聡が先に口を開いた。


 「うん、分かったよ芽衣ちゃん」

 「まあ、芽衣がそう言うなら……」


 聡は湖周辺の探索へと向かった……彼は2人の様子から何かを察した様子で、彼らについて行く事に決めたのだった。


 2人は湖の周囲を見渡すが、それ程変わり映えしない景色だった。3人が呆然としていると優菜が言う。


 「全く……目的が無いのに探しても意味無いわよ」

 「でも、裕太がみたUFOは、間違い無く、この辺だから……」


 聡は裕太の写真を照らし合わせながら歩く。


 「写真の位置だと……この辺りか……」


 周囲を見渡すと、ログハウスから大分離れた位置だった。


 「本当に、UFOなんて出るのかしら?」

 「信じているから、君達も来たのだろう?」

 「だいたい私はね……!貴方の事が……」


 その時、ハッと優菜は何かに気付いた様子で、慌てて咄嗟に掌をを口に押し当てて、しゃがみ込んでしまう。


 「どうしたの?」

 「な……何でもないわ」


 突然、彼女の雰囲気が変わった様子を見た聡は、ある事に気付いた。


 「い……委員長、もしかして……?」

 「え、もしかして……気付いたの?」

 「うん、大体分かるよ」

 「聡君……」


 聡の行動に少し赤面した少女は上目遣いで彼を見た。


 「トイレに行きたいんだろう?」

 「はあ?」


 呆れた拍子に、優菜の渾身の一撃が聡に炸裂した。


 しばらくして、彼等の戻りが遅いと感じた一雄達は湖の岸辺を歩いて行くと、直ぐに2人を発見した。


 「ああ……ここに居たんだ!ん……?」


 彼等は、それまで親しそうに接していた筈の2人を見て、少し唖然とした。


 聡が、何故か正座して、顔を俯かせて居るのに対して、優菜は腕を組んで、不機嫌そうに仁王立ちしていた。


 「僅か数分間の間に、彼等2人に一体何があったの?」


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