絵のモデルをしてもらってた女の人がおもらししちゃう話
「あの…… そろそろ休憩、いいですか? 」
女性は茶色に近い黒髪をユラユラ揺らしながら問いかける。彼女は利尿剤を飲み、一糸まとわぬ姿のまま、十五分ほど木の椅子に座り続けている。四十代後半とは思えない美しい裸体だ。細すぎず太すぎず理想的な肉付きで、一切の無駄がない。僕はそんな女性の方を一切見ずに答える。
「うーん、もう少しで完成なんで頑張ってください」
「でも…… もう限界なんです。一旦、お手洗いに行ってはダメでしょうか? 」
「ダメです。トイレに行ったらまた尿意が来るまで待たなきゃいけないでしょう? そうすると完成させられないじゃないですか」
女性は唇を噛み、うつむいた。僕はツラそうな彼女に「動かないでください」と言い放つ。女性は言われた通り、体の動きを止めようとしていたが、その体は少しだけ震えていた。可哀想に思えたので、僕は女性にエールを送る。
「大丈夫、あと少しで完成なので」
「…… はい、わかりました」
ちらりと女性の方を見てから再び目をそらす。先程見た女性の美しい姿を頭の中で反芻しながら、パレットからイメージした色の絵の具を筆で取り、キャンバスに置く。作品がまた一つ完璧な状態へと近づく。
(あと少し…… あともう一歩で、完璧な絵ができる…… )
完璧を目指し、一歩一歩着実に、キャンバスに絵の具を置く。目の前の女性の美しさを完璧に表現し、僕が感じている印象すべてを絵を見た人誰もが感じられるように。
また彼女を見る。さっきよりも息が荒い。でも、とても美しい。
僕と絵のモデルの女性、
僕の性癖は『尿意をこらえている女性を観察して、絵にしたい』だ。この性癖に目覚めたのは中学三年、美術部の卒業制作を作っているときだ。
絵のモデルになっていた後輩の女子が普段と違って全然じっとしてくれなかった。僕は彼女に何度も動かないように注意したのだが、彼女は「すみません…… 」というだけで、動きは収まらない。そのときの彼女はなんだかとっても色っぽくて、とても魅力的だった。なぜか荒い呼吸、いつもより紅潮した顔、膝の上でギュッと強く握られた拳。
しばらくして彼女はビクッと跳ねたあと、「ごめんなさい、 トイレ行ってきます! 」と言って美術室を駆け出した。ふと彼女が座っていた椅子を見ると座面が少し濡れていた。そのとき感じた体中の血液が沸騰するような妙な感覚がなんなのか、この年になるまで全くわからなかった。
最近やっとわかった。僕は尿意をこらえている女の子が好きだ。そして、その姿をキャンバスに留めておきたい。写真や動画じゃダメだ。僕が僕の手で尿意をこらえている子を観察して、その挙動全てをキャンバス上に再現したいのだ。
尿意をこらえている姿を絵にしたい。そう思い、僕は『性癖マッチングアプリ』を始めた。そして今頑張って尿意をこらえながらモデルをしている理紗さんに出会えたわけだ。
ちなみに理紗さんの性癖は『恥ずかしい姿を見られて絵にされること』だった。アプリ上で理紗さんのアカウントを見つけたときは、正直ニヤニヤが止まらなかった。年齢は一回り以上離れていたけどそんなこと関係ない。僕の欲求を高い水準で満たしてくれる存在。利尿剤もすんなり飲んでくれたし、まさに神が与えたベストパートナーというわけだ。
そんなベストパートナーの挙動に目を向ける。ぷっくりした唇からはぁはぁと吐息が漏れる。トロンとした目はなぜか潤んでいる。涙が出るほどおしっこがしたいのかな? そうだとしたら、とてもいい。
手は僕の指示通り、膝の上にグーで置いている。ときたま手が股に吸い込まれそうになるけど、そんなときはちゃんと「動かないでください」と言ってあげる。そうすると、理紗さんは口をキュッと結んで顔をしかめたあと、ちゃんと手を膝の上に戻してくれる。こういう従順なところもグッドポイントだ。
正直なところ絵とは関係なく、この姿をずっと見ていたい。でも、そんなことしたら理紗さんがおもらしをしてしまう。おもらしされると絵を描くのが中断されてしまうので、何としても避けたいところだ。だから、僕は尿意をこらえる理紗さんを見ていたい欲を押さえ込んで、キャンバス上の理紗さんにまた絵の具を置く。ちょうど目の部分に筆がのった瞬間、絵が完成した。多くの人から見れば、ビフォーアフターがわからないくらい、小さな差だ。でも、描いていた僕にはわかる。さっきの一筆でこの絵は完璧になったのだ。
少し身を引いて、作品の全体を見直す。油絵の具によってキャンバス上に再現された裸の四十代女性。さっき絵の具でちょっとぼかしをかけた目はこっちを見ているようで見ていない。視線が自分のお腹の当たりに向かっていて、強すぎる尿意が気になる感じが伝わってくる。口は真一文字に閉じられて、その奥で歯を強く食いしばっていると想像するととてもゾクゾクする。体はまっすぐできずちょっと猫背になって、そのせいできれいな長髪が胸の前に垂れ下がって来ている。脚は太ももがピッタリと閉じられ、膝から下はハの字になって内側に力を込めているのが分かる。膝の上に置かれた手は爪が手に食い込みそうなくらい強く握られていて、我慢の辛さが見て取れた。どの箇所を切り取っても完璧だ。僕は、完璧な”尿意をこらえている女性”の絵を描き上げたのだ。
「あの…… もしかして描き終わりましたか? 」
ニヤニヤとキャンバスを眺めていた僕の意識は、理紗さんの苦しそうな声で現実に戻る。理紗さんは僕の指定したポーズを無視して股の間に手を挟んで体を前後に揺らし、座っている椅子をギシギシいわせている。どうやら本当に限界のようだ。
「あぁ、はい、できました。もうトイレに行っていいですよ」
理紗さんの顔がパアッと明るくなった。そんなにトイレに行きたかったのか。ちょっとだけ申し訳ないな。本当にちょっとだけだけど。
理紗さんは体をゆっくりと前に倒して椅子から立ち上がる。僕は完成した絵にサインを入れるために再び絵に目を戻した。
「あっ…… 」
理紗さんの方から短い悲鳴が聞こえた。どうしたのかと思い、視線を移すと理紗さんは股に手を挟んだまま椅子に座っている。顔にはさっきの明るい表情と百八十度逆の絶望が色濃く出ていた。
「理紗さん、どうしました? 」
返事の代わりに「どうしよう、立ったら…… 」というつぶやきが聞こえる。何があったのだろう? もうモデルは必要ない。後は椅子から立ち上がり、服を着て、トイレに行くだけだ。服は部屋の出口付近にまとめておいてあるし、トイレの場所がわからないというのもここは理紗さんの家なのだしありえない。一体何が「どうしよう」なのだろう?
好奇心から理紗さんに近づく。理紗さんはブツブツ独り言を言うだけで、こっちのことは意識の外みたいだった。もう手が触れる距離まで来たのに、理紗さんはどこか遠くを見つめている。僕は「理紗さん? 」と言って理紗さんの肩をポンッと軽く叩いた。
「ひゃ…… 」
触れた瞬間、理紗さんがビクンと跳ねた。それは中学で見たモデルの子と全く同じ動きだった。でも、そのあと起きたことは中学生のときと違った。
ピチャチャチャチャチャチャ
静かな部屋に似つかわしくない水音が鳴り出す。発生源は僕が肩を叩いた女性だ。彼女の脚の間から静かにおしっこが漏れ出していた。
「うぅ…… ダメ。まだ、出ちゃ…… 」
理紗さんの表情が歪む。予想でしかないが、漏れ出したおしっこを止めようとしているのだろう。というか、止めようとしているから、こんなに放尿音が静かなのだろう。本当だったら、木の椅子を強く叩く音が響くはずなのだ。きっと理紗さんは今も諦めずに尿意をこらえている。漏れ出してなお諦めない姿勢。うん、いいね。
僕は理紗さんから数歩、距離を取る。おしっこがかかりそうだったからじゃない。必死に尿意を堪える姿を目に焼き付けるためだ。椅子の上で体を丸め、おしっこが溢れてくるところに手を当てて、流れを止めようとする姿。苦悶という言葉がぴったりな崩れた顔。さっきまでの美しい我慢姿と違い、とても醜い。でも、だからこそ普段見られない一面を見ている気がして興奮できる。ここまで幸運とは、もしかしたら、このあと僕にとてつもない不幸でも降りかかるのだろうか?とはいえ、こんな素晴らしい景色が見れたのだから、並大抵の不幸ではへこたれない。トラックに引かれて全身骨折くらいまでは受け入れられる。そんな気持ちだ。
「ひ、ひゅう…… もう、ムリ」
理紗さんが虚空に向かって言葉を放ってから、目を伏せた。
バジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャ
そして、ものすごい放尿音が部屋に鳴り響いた。下着やズボンがない分、ダイレクトにおしっこが椅子に叩きつけられるので、半端ではない。おしっこはすぐに椅子から溢れ出して、フローリングの床に水たまりをつくる。おもらししている間、理紗さんは気持ちよさそうな表情でときおり「いやぁ…… 」と声を漏らした。ふむ、こうみるとおもらしもなかなか官能的だ。だが、やっぱり絵にしたいとは思わない。おもらし姿はとどめておくものではなく、ライブでみるものだ。うん、きっとそうだ。
ショワワワワワワ
頭の中で性癖談義を行っているうちに、理紗さんの放尿音が弱くなってきた。そして最後にプシャッという音を残して、理紗さんのおもらしは終わった。
さて、冷静になって考えてみるとこの状況は少しマズイ。僕は
「あの、理紗さんごめんなさい。僕が無理やり我慢させたばかりに…… 」
「…… いえ、私が、我慢できなかったのがいけないので…… それよりも絵。完成した絵を見せてください」
そういうと理紗さんはふらふらと立ち上がって、僕の絵の方に歩を進める。あまりにもおぼつかない足取りだったので身体を支えようかとも思ったが、女性の裸体のどこを持って支えていいかわからなかったので、やめた。
「あぁ、これが…… これが私なのですね」
おしっこで下半身を濡らしながら、理紗さんは恍惚とした表情で僕の絵をみている。リアクションからして気に入ってくれたみたいだ。うん、よかった。
「あの、ありがとうございます。こんなに、美しく描いていただいて…… 」
「いやいや、モデルが良かったからですよ。僕なんて全然技術もないですし、筆を持ったのも久しぶりで、プロと比べたら…… 」
「あら、たしかマッチングアプリでは絵で収入を得ていると…… 」
「それはデジタルの絵で、油絵での収益はゼロですね。油絵はやっぱり道具が高いので気軽に描けないんですよね」
「そうですか。ちなみに描いたのはいつ以来ですか? 」
「うーん、本格的に描いたのは大学の卒業制作が最後なので、十年くらい前ですかね」
理紗さんは目をカッと見開いた。どうしたのだろう? 何か怒らせるようなことをしただろうか? 僕の不安そうな視線は理紗さんに届かず、理紗さんは「そうですか、そうですか…… うん、いいですね」とまた独り言を言っている。この人は、尿意がなくても独り言を言うタイプの人なのか。
「決めました。一つ、お願いを聞いてもらいます」
理紗さんは笑顔でそういった。僕は断る理由もないので「はぁ、まあ、お世話になりましたし、一つくらいなら」と適当な返事をした。
「とりあえず今度の日曜、またここにいらしてください。お願いの内容はそのときに詳しくお伝えしますね」
どうやらお願いの内容はすぐにはわからないようだ。どうしよう、違法行為を共用されたら…… 安請け合いしたことを僕は少し後悔した。
「では今日は解散ということで、私はシャワーを浴びてきますね」
「あ、じゃあ僕、ここを掃除しておきますね」
「はい、お願いします。あ、掃除用具なら部屋を出てすぐのところにある階段下収納にあるので途中まで案内しますよ」
そういうと理紗さんは「念の為です」といって用意していたバスタオルを身体に巻いて、部屋の戸を開けた。念の為って漏らして服が着れなくなったときのことを言ってたのか……
「さ、こちらにどうぞ」
理紗さんの言った通り、部屋を出てすぐのところに階段があり、階段の横側に扉がついていた。なんか魔法使いが主人公の映画で男の子がここに住まわされてたな。…… 誰もいないよね?
「そこの道具は好きに使っていただいてけっこうですので、なんなりと…… 」
ガチャン
近くで扉の開閉音が聞こえた。音の方を見ると、玄関が空いている。誰かが帰ってきたようだ。というか、え? 帰ってくるような人がいるの? これ、旦那さんとかだったらなかなかの修羅場じゃない? どうしていいかわからず理紗さんに助けを求める視線を送るが、理紗さんはこちらを向いてニコリと微笑むだけで何もしてくれなかった。
「ただいまー! 」
「ただいまー」
元気な声とともに小学生くらいの女の子が二人、入ってきた。二人共、理紗さんと同じ茶色がかった黒髪だ。違うのは髪型で、一人の子は活発そうなショートカット、もう一人の子は大人しそうなポニーテールでメガネまでかけている。顔はほぼ同じだけど、対照的な雰囲気の二人組みだ。この子たちは一体何者なのだろう?
「ほら早く靴脱いでよ。家に入れないじゃん」
玄関の外から別の女の子が家の中に身体をねじ込む。髪色はさっきの子たちと同じで顔つきもそっくりだ。ただ、近所の高校の制服を着ていることから高校生であることが伺えた。
「まあ、そんなに急いで家に入る必要もないとは思いますけどね〜」
また別の子だ。今度は帽子を被っていたので髪色はわからなかったが、やっぱり顔つきはにている。年はさっきの高校生の子より上に見える。恐らく、大学生だろう。小学生の子と同じくこの子もメガネを掛けている。そしてひときわ目を引くのは首にかかったカメラだ。携帯にカメラが付いているこの時代に、あのスタイルで出歩く人はなかなかに珍しい。
てか、どういうこと? みんなそっくりだけどもしかして理紗さんの子ども? だとしたら、やっぱ旦那さんいる? え、僕もしかして不倫してる?
「みなさん、おかえりなさい」
「あ、ママだ! ただいまー! 」
「…… ママ、なんでバスタオルなの? 」
「あ、ホントだ。お母さん、あんま変な格好でうろつかないでよね。この家、窓バカでかいんだから」
「まあ、私としてはリッちゃんの格好よりも、階段横で呆然としてる男の人のほうが気になりますけどね」
大学生っぽい女の子の一言で全員の視線が僕に突き刺さった。僕は、どうしていいかわからず、理紗さんに助けを求める視線を向けた。
「ご紹介しますね。この子たち全員、私の娘です。小学生の双子で元気な子が
理紗さんは「これで日曜日に改めて来てもらう手間が省けましたね」と嬉しそうだ。そっか、お願いって娘さんを紹介したかったのか。でも、だからなんだと言うのだろう? 「へぇ、子沢山ですね〜」以外の感想が出てこない。困惑する僕と娘たちを置き去りに理紗さんは話を続ける。
「実は私、五年前に夫と死別しまして。今まで娘たちを一人で育てていたのですが、ちょっと限界が見えてきましたの…… そこで、娘たちの相手をあなたにしてほしいのです。まあ、家庭教師みたいなものですかね」
「なるほど、娘さんの家庭教師…… 」
理解したふうに振る舞ったが、全然ついていけていない。というかさっきから娘さんたちの視線がイタイ。身体に穴が空きそうだ。
「はい、最初は家庭教師をして娘たちと仲良くなっていただいて、ゆくゆくはあの子たちの新しいお父さんになっていただければと…… 」
「「「「はぁ?! 」」」」
僕だけでなく小学生の双子と高校生も一緒に叫んだ。唯一大学生の子だけは「お〜、リッちゃんやる〜」となぜか感心している。
「ちょっとお母さん! いきなりなんなの? なんで名前も知らない男が私たちの家庭教師なわけ? というかお父さんになるってなによ! 」
「あ、そういえば紹介してませんでしたね。みなさん、こちら
「いや、名前知らないの部分だけピックアップして答えないでよ! お父さんになる部分のこととか答えてよ。ねぇ、お母さん! 」
理紗さんは「それでは私はシャワーを浴びてきますので」と言って姿を消した。後には敵意むき出しの女の子三人とニヤついた女の子が一人、そして、何もわからない僕が取り残された。しばしの沈黙の後、僕は勇気を持って言葉を発した。
「えっと〜、僕は部屋を掃除しなきゃだからこの辺で…… 」
「部屋入んな! 出てけや!」
高校生の女の子、えっと、みけちゃんだっけ? に思いっきり怒られて、僕は逃げるように理沙さんの娘たちの間を通って、家の外に出た。すれ違いざま、小学生の双子が「マジキモ…… 」と呪詛をはいてきた。もう僕の心はボロボロだ。この調子だと家庭教師どころか、
ピロン
唐突にスマホの通知音が鳴った。なんだろうとみてみると、理紗さんからのメッセージだった。
『ちなみに家庭教師の料金は、月二十万ほどでよろしいですか? あと、先程の部屋をお貸ししますので、住み込みでお願いしたいです。住み込みの方があの子たちと早く仲良くなれると思うので』
メッセージの内容を理解してすぐ僕はメッセージに返信した。
『はい、その料金で問題ありません。一旦帰って荷物をまとめ、すぐにそちらに向かいますのでお待ち下さい』
メッセージを送った後、僕は自宅のボロアパートに向かって走り出す。決して、お金に目がくらんだわけではない。未来ある若者を自分の手で育てたい。そう思っただけだ。
うん、本当にそれだけだ。
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