女装男子がお嬢様に騙されておもらししちゃった話

「ホントに、ここ? 」


 目の前の光景が信じられず、思わず呟いてしまった。僕の目の前には大きな西洋風の建物が建っている。どこかの国の大使館と言われても不思議でない程に立派な建物だ。


 建物は高い塀に囲まれていて、僕は塀の外の門みたいになっているところからお屋敷を見ている。門からお屋敷までは距離があり、くねくねとした道が門からお屋敷まで続いている。こういうのアプローチっていうんだっけ?


 僕は今日ここでマッチングアプリで知り合った女性に会うことになっている。こんな凄いお屋敷だとは知らなかったけど……


 僕が使ったアプリは『性癖マッチングアプリ』というちょっと変わったアプリだ。このアプリは性癖がピッタリの人をマッチングしてくれるらしい。ちょっとだけ見たけど『おしっこを我慢しているところを見てほしい』や『可愛い男の子を縛っておもらしさせたい』など尖った性癖も普通に公開されていた。


 僕はノーマル寄りな性癖だったので、相手はすぐに見つかった。そして今日はマッチングした人の家にお呼ばれしたわけなのだけど、お屋敷が大きすぎてビビっている。


 とりあえずここでボーッとしていても始まらないので、僕は門の柱についているチャイムを押した。


キンコーン


『はい。どちら様ですか? 』


 応対してくれたのは透き通った声の女性だ。こんな大きなお屋敷だし、もしかしたらメイドさんとかなのかな? とりあえず本人ではないと考え僕は来訪の目的を伝えた。


「あの、今日ここで"ホウジョウ"さんと会う約束をした"雪月花せつげっか"ですけど…… 」


『あら、"雪月花"さん。お待ちしておりましたわ。少々お待ち下さい。今、メイドをそちらに向かわせますので。案内に従っていらしてくださいな』


 チャイムはプツンと音を立て、それ以降何も言わなくなった。僕は言われた通り、その場でメイドさんとやらが来るのを待った。しばらくすると金髪ロングで糸目のメイドさんが現れた。


「"雪月花"様ですね。お待たせしました。ご主人様がお待ちですのでどうぞこちらへ」


「あ、はい」


 言われるがまま僕はメイドさんについていく。


(今、”ご主人様”って言ったよね? "ホウジョウ"さん、ホントにこのお屋敷の持ち主なんだ…… )


 改めてとんでもない人とマッチングしてしまったと思う。果たして僕で釣り合うのだろうか? そもそもこんな大きなお屋敷を持って、メイドさんを雇っている人がなんでマッチングアプリをしているんだろう? 疑問がいっぱいだ。でも、ここで引き下がるのもなんか変だし、僕はメイドさんについてお屋敷の中へと入った。


 お屋敷には案内してくれたメイドさん以外にも何人かメイドさんがいた。みんな金髪碧眼でとってもキレイだ。顔がにすぎているのがちょっと気になるけど、みんな姉妹なのかな?


 しばらくお屋敷を歩いて大きな扉の前についた。メイドさんが「こちらでございます」と言って扉をノックしてから中へ入った。僕もメイドさんに続いて部屋へと入る。


「ご主人様、"雪月花"様をお連れしました」


「しぃさん、ご苦労さま。わたくし、しばらく"雪月花"さんと遊びますので、後はお願いしますね」


「承知しました。では、失礼いたします」


 メイドさんはそういって部屋を出て行ってしまった。あとには僕とご主人様と呼ばれていた、これまた金髪碧眼の女性だけが残された。御主人様もお屋敷のメイドさんにそっくりな顔をしているけど、彼女は他のメイドさんと違いメイド服を着ていない。


 メイド服の代わりに、ご主人様はフリルがいっぱいの赤と黒のロリータ服を着ている。喋っていないと人形みたいだ。


「さて、会うのは初めてですね。わたくしが"ホウジョウ"です。本名は宝嬢ほうじょう 衣路羽いろはと申します。以後、お見知りおきを」


「あ、はい。僕は"雪月花"…… 本名は花月かげつ 雪丸ゆきまるです」


「あら、ご丁寧にどうも。では、本名もわかりましたし、これからは雪丸さんと呼ばせていただきますわ。わたくしのことは気軽に衣路羽と呼んでくださいな」


「い、いえ、そんないきなりは…… えっと、じゃあ衣路羽さんって呼ばせてもらいます」


 緊張している僕を見て衣路羽さんは「フフッ」と上品に笑う。衣路羽さん、すっごくいい人みたいだ。ちょっと仲良くなるのが早すぎる気もするけど、なんというか全然威圧感のない接しやすい人だ。


「では、到着早々で恐縮ですが、始めましょうか。わたくし、用意はできておりましてよ」


 衣路羽さんの笑顔が上品なものから不敵なものに変わる。その笑顔を見て、僕は今日来た目的を思い出す。そうだ、僕は今日、衣路羽さんとそういうことをするために来たんだ。僕はゴクリと生唾を飲む。


「さあ雪丸さん、こちらへ。緊張する必要はありませんよ。事前にメッセージでいただいた情報で、あなたのことは何でもわかっておりますの」


 衣路羽さんは僕の肩に手を回し、どこかへ僕を誘導する。されるがまま、僕は部屋の隅まで連れて行かれた。部屋の隅についたところで衣路羽さんが僕の耳元に囁きかける。


「さっそく脱いでいただけますか? 自分で脱げないのでしたらわたくしが脱がして差し上げますわよ」


「! い、いいです! 大丈夫です! 自分で、脱ぐので…… 」


 僕は着ていたパーカー、Tシャツ、靴、ズボン、くつ下を脱いだ。パンツと眼鏡以外、一糸まとわぬ姿になった僕を見て、衣路羽さんはくすくす笑っていた。


「とっても可愛いですね。腕も脚もほっそりしていて、ちょっと触れたら折れちゃうそうですわ」


 衣路羽さんは僕の腕や脚をペタペタ触ってくる。柔らかい手が僕の肌の上をなぞる感覚がクセになりそうだ。


「では、次はわたくしの番ですね」


 そういって衣路羽さんは僕の正面に立ち、ニコリと笑う。そしてクルリと振り返り……


バンッ


 部屋の端にあった大きなクローゼットの扉を勢いよく開けた。クローゼットの中にはロリータ系の服がずらりと並んでいる。


「ではまずはこちらの青系の服を着ていただきましょうか」


「あ、これ知ってます! 『ワンダークローゼット ナナカマド』の夏物ワンピですよね! すっごい可愛いって思ってたんですけど、半袖なのでなかなか手が出せなくて…… 」


「ああ、手首が見えるのが気になるのでしたら、こちらの長袖のブラウスを下に着るのはいかがでしょうか? 」


「わあ、このブラウスもすっごく可愛いですね! どこのお店のですか? 」


「こちらも『ワンダークローゼット ナナカマド』ですわ。春物でしたけど」


「へぇ〜、こんな可愛いブラウスあったんだー、知らなかったなー」


 可愛い服ではしゃぐ僕を見て、衣路羽さんはニコッと笑う。なんだかちょっと照れくさかったけど、仕方ない。可愛いお洋服について全力で語れる機会なんて、今までなかったのだから。


 僕は可愛い服が好きだ。特にフリルのついた服が大好きで、地雷系の子やロリータ系の服を着た子を見るとつい目で追ってしまう。


 そして僕は可愛い服を着るのも好きだ。男のくせに変な趣味だとは思うけど、可愛い服の魅力には抗えない。今は大学に通うため一人暮らしをしているので、ゴスロリを二着ほど持っており、部屋着として使っている。


 だが、ある日、このままでは彼女を家に呼べないことに気づいた。それどころか結婚なんてしたら一生可愛い服が着られなくなるのだ。


 可愛い服が着られなくなるのが嫌だった僕は『性癖マッチングアプリ』を使って、可愛い服が好きで女装してても気にしない人を探した。そして、マッチングできたのが『可愛いお洋服を着ていただくのが生きがいですわ』と言っていた衣路羽さんだ。


 今日は衣路羽さんのお家の服を着てファッションショーをしようということになっていた。初めて会う女の人の前で女装するのは緊張したけど、可愛い服を見たらそんな気持ちは吹き飛んだ。


「では下はこちらのストッキングと…… あ、このブーツが似合うと思いますわ」


 そういいながら衣路羽さんは隣のクローゼットからストッキングとヒールのあるブーツを取り出した。どっちも黒で衣路羽さんの選んだ服とバッチリ合いそうだ。衣路羽さん、センスいいなぁ。


「あとはパニエですわね。それらをお召しになった後でこちらのリボンを頭につけてくださいな」


「はい、わかりました! 」


 そう言って僕は衣路羽さんセレクトのお洋服を着る。やはり女性ものの製品なので肩の部分がきつかったがなんとか着ることが出来た。ブーツもパニエもリボンも全部装着した後で、壁の姿見で自分の姿を見た。


 うん、いい。勇気が出なくて買えなかったパニエも貸してもらえたので、いつもよりスカートがふわっとしてめちゃくちゃ可愛い。スカートの丈も膝上で良い感じだ。黒のストッキングとブラウスが僕の手足をキュッと細く見せてくれて服のふわふわ感といいギャップを出している。


 頭につけた黒のリボンもシックさと可愛さを両立できるデザインでとってもいい。自分で言うのも何だけど、ここまで上手に着こなせる男の人はいないんじゃないかな?


「満足していただけましたか? 」


「はい、もう、ホント…… ありがとうございます! 」


 色んな感情がごっちゃになって、よくわからない感じでお礼をしてしまった。衣路羽さんはフフフと笑っている。衣路羽さんはよく笑う人だ。そしてどの笑顔も例外なく美しい。


「では、しばらくそのお洋服でわたくしとお茶していただけますか? いい頃合いになったら次のお洋服に着替えていただきますので」


 ふむ、服を取っ替え引っ替えするのではなく、しばらく着てから次の服に着替えるのか。そういえば衣路羽さん『可愛いお洋服を着た人が動き回っている姿こそが至福ですの』ってメッセージでいってたな。多分、服自体が好きなんじゃなくて、服を着た”人”が好きなんだろう。となると、服を着てお茶会というのも、まあ納得できる。


「雪丸さん? ご了承いただけますか? 」


「! はい、全然、大丈夫です」


「では、メイドにお茶を用意させますのでしばしお待ち下さいな」


 衣路羽さんはスマホで通話を始めた。電話を切ってから数分もせずに、さっき僕を案内してくれた糸目のメイドさんがティーセットを持って現れた。メイドさんはその場で紅茶を淹れてくれ、僕と衣路羽さんは部屋の真ん中あたりにある椅子に腰掛け紅茶が出来るのを待った。


 紅茶が出来たあと、メイドさんは僕と衣路羽さんに紅茶の入ったティーカップを手渡して「ごゆっくりどうぞ」といって部屋を出てしまった。メイドさんってこういうときご主人様の横にいるイメージがあるけど、衣路羽さんの屋敷ではそうではないようだ。


「この紅茶、おいしいんですよ。雪丸さんも気に入ってくれるといいのですが」


 そういって衣路羽さんは紅茶をすする。僕もつられて紅茶を一気に飲んだ。


(うわっ、淹れたてで熱いし…… 渋すぎ )


 飲むのを止めて、思わず舌をベッと突き出してしまった。そんな僕を見て衣路羽さんはやっぱり微笑む。


「あら、ちょっと渋すぎましたかね? でしたらそちらのミルクを混ぜてくださいまし。味がまろやかになりますので」


「あ、ありがとうございます…… 」


 僕は言われた通り、紅茶にミルクを混ぜて飲んだ。さっきより全然飲みやすくはなったがやはり渋い。それに、ミルクの方もなんか変な味だ。お金持ちの家の飲み物ってやっぱり庶民の飲み物とは味が違うのだろうか。


「お口に合いまして? 」


「え、えぇ、とっても、おいしい、です」


 衣路羽さんがきれいな笑顔で聞いてくるものだから、僕は「自分には合わないです」とは言えなかった。下手なことを言ってこの笑顔を曇らせるよりも、自分が我慢したほうがいいだろう。


 そのあとも僕は衣路羽さんとお話しながら何杯か紅茶を飲んだ。そして、衣路羽さんが「そろそろ…… 」と言った頃合いで服を着替えファッションショーを楽しんだ。ここまでは本当に夢みたいな時間だった。



「さて、そろそろ次のお洋服に着替えていただきましょうかね」


「う…… えっと…… はい」


 僕は椅子からよたよたと立ち上がった。体をくの字に曲げて、おしりを後ろに突き出す。こうしないとお洋服を汚してしまいそうだった。


(うう…… オシッコ、お腹にいっぱいたまってる…… )


 僕は今、とてつもなくオシッコがしたくなっていた。冷静に考えれば当然かも知れない。今日は初めての場所で初めての人と会うので緊張していた。それにお屋敷のご主人様、衣路羽さんが紅茶を勧めてくれたので、それを何杯も飲んだ。緊張と紅茶の利尿作用。オシッコがしたくなる条件は揃っていた。


「雪丸さん? どうかされましたの? 次はこちらの甘ロリータを着てほしいのですけど…… 」


 衣路羽さんはピンクと白の可愛い服を持って、僕を待っている。でも、僕は下手に動けない。動くとオシッコが全部出ちゃいそうだったからだ。


(い、言わなきゃ…… おトイレって言わなきゃ…… じゃないと、ここで漏らしちゃう)


 衣路羽さんが不思議そうな顔でこっちを見ている。早く言わないと。初めてきた家でトイレを借りるのは恥ずかしいけど、このままだともっと恥ずかしいことになる。僕は勇気を振り絞って衣路羽さんに言った。


「あの! い、衣路羽さん、僕、ちょっとオシッコ! したくて…… な、なので、トイレ…… 」


 尿意のせいでちゃんと言葉が出てこない。でも、トイレに行きたいことは伝わったはずだ。きっとさっきみたいにすぐにメイドさんが駆けつけてくれて僕をトイレに案内してくれるだろう。その短い時間ですら僕の命取りになりかねないが、そこは僕の頑張りどころだ。絶対におもらしなどしてなるものか。そう覚悟を決めて衣路羽さんの返答を待つ。待つのだが…… 衣路羽さんはニヤッと笑うだけで一向に返事をしてくれない。


「あの、衣路羽さん? 僕、トイレに…… 」


「えぇ、お手洗いに行きたいのですよね? 聞こえておりますよ」


「だったら…… 」


「でも、わたくし、まだあなたの可愛い姿を存分に見ておりませんわ」


 ? 衣路羽さん、何を言っているんだろう? それになんか笑顔も怖い。この笑顔は、今までの美しい笑顔とは違った悪意に満ちた笑顔だ。僕が言葉を失っていると、衣路羽さんは手に持っていた甘ロリをクローゼットに戻し、代わりに白と黒のオーソドックスなゴスロリを取り出した。


「こちらのゴスロリ、オーダーメイドなんですよ。メッセージで聞いたあなたの体のサイズに合わせて作っておりますの。お手洗いに行く前にこちらをお召しになっていただけますか? ストッキングと靴はそのままでいいので」


「でも、それ、トイレの後じゃダメですか? 」


「わたくしは今見たいのです」


「で、でも、漏れちゃ…… 」


「では早く着ればよろしいのでは? このままウダウダ話していても何も解決しませんよ。あなた、この屋敷のどこにトイレがあるか、わからないのでしょう? それに、その様子ですと屋敷の外に出るまで我慢できそうにありませんし。そもそも元の服に着替えないと帰れないのでは? 」


 衣路羽さんはワッーとまくし立てる。僕は衣路羽さんの言葉のどれにも反論できなかった。だったら、仕方ない。ここは衣路羽さんの言うことに従うしかないのだ。


「…… わかりました。その服、着させてもらいます」


「はい、雪丸さんにとっても似合うと思いますよ」


 僕は体をくの字に曲げ、お腹をかばいながら衣路羽さんのいるクローゼットの前まで歩いた。歩数でいうと十歩も必要ない距離だが、今の僕には永遠に続く道のように感じた。ヒールの高いブーツのせいで姿勢が安定せず、僕は短い道のりの中で何度も転びそうになった。


 どうにかクローゼットの前までたどり着いたので、僕は今着ている服を脱ぐ。オシッコをパンパンになるまでためた状態でワンピースを脱ぐというのはけっこう大変だった。


 腰回りの細くなっているところが膨らんだお腹のところを通過するとき、お腹がキュウと締め付けれ、全身が絞られてる気持ちになった。


 足元まで下ろしたお洋服を手にとるときも、必要以上に身をかがめる必要があったので、かがんだ姿勢のままおもらししてしまうかととても不安だった。


 ボロボロになりながらなんとかワンピースを脱ぎ、衣路羽さんに渡した。衣路羽さんはニヤニヤしながらそれを受け取り、クローゼットに戻した。


 僕は衣路羽さんがクローゼットに服を戻している間に、ブラウスを脱ぐ。ボタンを外すとき、手がプルプル震えてなかなかうまくいかなかった。


 でも、僕はこの試練も乗り越えて、パンツにパニエ、黒ストッキングと黒ブーツ、そして上半身はすっぽんぽんというなんとも奇妙な格好になった。鏡に映った僕は小刻みに震えていて、いつもよりお腹が張り出していた。


「ではこちらをどうぞ。ワンピースタイプなので、先ほどの服と同じ要領で着られますわ」


 僕は衣路羽さんに差し出された服をひったくる。これを着たらトイレに行けるという希望を胸に、僕は一生懸命お着替えをした。


 衣路羽さんが言った通り、この服は僕にピッタリだった。既製品の服みたいに肩周りがキツくないし、胸元もダブついていない。レースやリボンも僕好みの位置についており、裾のフリルがフワフワでとっても柔らかい感じだ。こんな理想の服が着られるなんて、オシッコが漏れ出しそうでなければ飛び跳ねたいくらい嬉しい状況だ。


「あぁ、やはり似合いますわね。アイコンの写真を見たときからずっと似合うと思っていましたわ」


「そ、そんなことより、着たので、早く、トイレぇ…… 」


「あ、そうでしたね。では、わたくしが案内いたしますわ。こちらへどうぞ」


 衣路羽さんは僕の手を取り僕を誘導し始めた。僕はへっぴり腰でその誘導に続く。衣路羽さんと繋いでいない方の手は尿意を紛らわすために、スカートの裾をギュッと握りしめていた。


 ゆっくりとした速度で部屋を出た後、衣路羽さんは僕をすぐ隣の部屋へと連れて行く。なぁんだ、トイレはすぐ近くにあったんだ。これなら間に合いそうだ。もしかしたら衣路羽さんは僕が間に合うと思って、服を着替えさせるなんて意地悪をしたのかな? それともただこの服を着ている僕を見たかっただけなのかな? うーん、衣路羽さんの行動がよくわからない。


「さ、こちらのお部屋です。どうぞ」


 衣路羽さんは部屋の扉を開け、僕を中へと引っ張った。なんで衣路羽さんも一緒に入っているのだろう? 一瞬だけ疑問に思ったが、その瞬間に尿意の強い波が僕を襲い、疑問をどこかへ流してしまった。僕は慌てて衣路羽さんの後に続き扉をくぐった。


「…… えっ? あっ? ここ、トイレ? 」


 間抜けな声が出てしまう。でも、トイレだと思ってこの光景を見た人は誰でも僕と同じ感想を抱くだろう。僕が入った部屋には女の顔をした大きな釣鐘状の金属塊や、三角形に加工された木、大きなカッターの刃みたいなものを吊り下げた台がある。たしかこの刃がついた台はギロチンとかいう処刑器具だ。きっと他の道具も処刑器具なのだろう。でも、なんで部屋いっぱいに処刑器具が置かれているのだろう?そしてトイレに連れてきてもらったはずの僕はなんでこんな部屋に連れてこられたのだろう?


カシャン


 僕が混乱している間に左手に手錠がかけられた。手錠の鎖は入ってきた扉の近くの壁へと続いている。


「その手錠、いいでしょう? あなたのように何も知らない子を磔にするのにうってつけですの」


 いつの間にか衣路羽さんは僕の左手から手を離し、部屋の奥へと移動していた。僕は衣路羽さんに掴みかかろうとしたが、ギリギリで手錠の鎖に邪魔をされる。衣路羽さんはどのくらい離れれば僕が攻撃できないかを計算しているみたいで、その場を動かずクスクス笑っていた。


「このお部屋は『お仕置き部屋』という名前でしてね。普段は失敗したメイドをお仕置きするために使っておりますの」


「あの…… 衣路羽さん。なんで、こんな…… 」


 僕は目の前の現実が信じられなくて衣路羽さんに問う。何でこんなことをするのか? さっきまであんなに楽しくお洋服について話していた人が、いきなり豹変するなんてなにか理由があるに違いない。そう思っていた。


「ごめんなさいね、雪丸さん。わたくし、ウソをついておりましたの」


「ウソ? 」


「わたくし、アプリでは『可愛いお洋服を着ていただくのが生きがい』と言っていましたが、実は違うのです。本当は可愛いお洋服を着ていただいて、それを汚してもらうのが生きがいなのです。そして、わたくしが一番気に入っているのは人の体液で服を汚すことなのです。汗、涙、血、涎、そして尿。どれでもいいのですが、やはり最初はオシッコがいいかなと」


 衣路羽さんは淀みなく喋って、フフフと不敵に笑った。衣路羽さんの言ったことを足りない頭で理解しようとしたけど、無理だった。オシッコを我慢しているのもあるけど、これは多分、平常時でもわからないだろう。


「さて、その可愛いお顔と可愛いお洋服でわたくしを楽しませてくださいな」


 衣路羽さんは笑う。それは今まで見たことのない笑顔だ。青いきれいな目は限界まで見開かれ、口はニィと横に広がっている。衣路羽さんが得体のしれない怪物に見えた。


「ヒッ…… イヤ、離して…… オシッコ、トイレで…… 」


 僕は壁に引っ付いて衣路羽さんから距離を取る。同時に壁の鎖や手首の手錠もいじってみたが、カチャカチャという音を立てるだけで問題の解決にはいたらない。


 その間にも僕はどんどんオシッコがしたくなってくる。ついにこらえきれずに僕は右手でおちんちんを掴んだ。いつもより大きくなってビクンビクン動いているのが、スカートの上からでもよくわかった。


「ふむ、意外と頑張りますわね。うちのメイド達は利尿剤を混ぜた紅茶を飲んでから十分も持たなかったというのに…… ! そうだ、今日はこれを教材にしましょう! 」


 衣路羽さんは何か思いついたようでスマホで通話を始めた。通話後、しばらくして三人のメイドさんが入ってきた。最初に僕を案内してくれた糸目のメイドさんと、後の二人は小学生くらいの子だった。


「しぃさん、ゆぅさん、おぉさん。雪丸さんはあなた達と同じ紅茶を飲んで二十分もオシッコを我慢していますの。どうやったら長く我慢できるかよく観察させてもらいなさい。特に、ゆぅさんは同じ男の子なんですから、雪丸さんをお手本にいっぱい我慢できるようになるんですよ? 」


 メイドさん達は「かしこまりました」といった後、僕の方をジッと見始めた。僕は恥ずかしくなり、体をくるっと回して、壁の方を向いた。それでも僕に突き刺さる四つの視線の鋭さは変わらなかった。


 僕は見られたままオシッコを我慢する。トイレに行けないのはわかってる。でも、だからといっておもらしはしたくない。それにせっかくの可愛いお洋服を汚したくない。僕は無駄だと思いながら全力でオシッコを我慢した。


 右手でおちんちんをギュウギュウ握り、何度も足踏みをしてオシッコに「出ないで! 」とお願いする。お願いは聞き入れてもらえたみたいで、尿意の波は少しラクになった。その代わりなのか僕は全身に汗をビッショリかき、目からは涙が溢れそうになる。口は半開きではぁはぁと浅い呼吸を繰り返す。半開きの口からはとろりと涎が垂れている。


「あぁ、そんな…… 全身ビショビショで我慢していただけるなんて。素晴らしいですわ。うちの子達ではここまではできませんもの。新しい子を探して正解でしたわ」


 視界の端で衣路羽さんがぴょんぴょん跳ねているのが見えた。何が嬉しいんだろう。僕はこんなに苦しいのに。


「では少し試練を与えましょうか」


 その言葉の後、カツカツという靴音が聞こえた。多分、衣路羽さんが近づいてきているのだろうが、壁を向いている僕には詳しい状況はわからなかった。首だけで後ろを向くと、予想通り衣路羽さんがこちらに近づいてきていた。


 僕はなんとか脱出しようと右手をおちんちんから離して、衣路羽さんに伸ばした。が、僕の右手は衣路羽さんに簡単に絡め取られてしまい、近くにあった手錠に繋がれてしまう。


(しまった! これじゃあもう、前が抑えられない…… )


 慌てる僕を尻目に衣路羽さんは僕の体をジロジロと見回す。


「あら、けっこうお腹が張ってらっしゃいますのね。服の上からでもわかりますわ」


そういって衣路羽さんは僕の下腹部あたりを円を描くようにさする。前押さえを封じられた状況での下腹部への刺激はマズイ。僕は段々オシッコが我慢できなくなっていった。


「では、トドメです」


 衣路羽さんはなんの前触れもなく僕の耳をハムッと噛んだ。


「ぴゃあ! 」


 今まで感じたことのない刺激に驚き変な声がでてしまった。そして、今までオシッコの我慢に集中していた意識が散って、ガードが甘くなった。僕の中のオシッコはそのスキを見逃してくれなかった。


ジョボボボボボボボ


 おちんちんの先っぽからオシッコが湧き出た。尿道をオシッコが通っているのがハッキリと感じ取れる。でも、今まで感じたのとは違う。極限まで我慢した後でオシッコをすると、オシッコが尿道を通っているだけなのに、意識が飛びそうなくらい気持ちいい。


 僕の失敗に気づいた衣路羽さんはメイドさんたちのほうに歩み寄って大声で授業を始めた。


「皆さん、よくご覧なさい。これが男性のおもらしですのよ。男性器があるので女性よりも少し上の位置にシミが出来ていますね? また、女性に比べて尿道が長いので、男性のほうがたくさんオシッコをためることができますの。そのため、後始末はあなたたちよりも大変ですのよ。わかりましたか? 特にゆぅさんは同じような失敗をしないように。あなたのおもらしを掃除するのは大変なのですよ? 」


 メイドさんはそろって「かしこまりました」と言った。僕はおもらしの実況をされてとっても恥ずかしくて、自分の作ったおもらしの水たまりの上にポタポタ涙をこぼした。


ジョバババババババババ


 あんな辱めを受けてもおしっこは全然止まってくれない。今すぐにおしっこを止めてほしいと頭では思っているのに、体はおしっこを全部出すまで止まってくれない。頭と体が別れて、わけがわからなくなる。


タパパパパパパ……


 カーペットをびしゃびしゃにし、その吸水力に打ち勝って水たまりをつくり、さらにその水たまりにおしっこを追加して、やっと僕のおもらしは終わった。履いていたパンツはもう使い物にならないくらいグショグショだ。


 借りていた服は一部に黄色い染みができており、洗濯してもう一度着ようという気は全く起きなかった。


 ストッキングには何本ものおしっこの筋が入っており、ブーツの底にはおしっこがたまり、じゃぶじゃぶ音を立てている。


 僕が自分の情けなさとおもらしの快楽にボーッとしていると、衣路羽さんが近づき、カチャンカチャンと手錠を外した。そして倒れそうになる僕を支えながら、メイドさんたちに指示を出す。


「では皆さん、雪丸さんをお風呂に連れて行って差し上げて。キレイにした後はわたくしの部屋に連れてきてくださいまし。明日からの生活について説明しますので」


「明日から…… ?」


 飛びそうな意識をかろうじて保って衣路羽さんに問いかける。衣路羽さんは僕が喋れたことにちょっと驚いたみたいだったけど、すぐにいつもの調子に戻って話しだした。


「明日から雪丸さんにはここに住んでもらいます。大学へはわたくしが車で送迎して差し上げますわ。今日は一旦帰ってこちらに持ってくる荷物を用意してくださいな」


「えっ、何言って…… 」


「もちろん断っていただいてもいいですよ? その場合は先程撮った写真をご両親に送らせていただきます。たしか、お父様は女装に否定的でしたよね」


 冷たく笑う衣路羽さんに対し、僕は何も出来なかった。だって、もし逆らって家族にさっきの女装おもらし写真を送られたら……


 特に父にバレるのだけは避けたい。父は僕によく「男らしくしろ! 」と怒鳴ってきて、僕の大好きな女児向けアニメのグッズを勝手に全部捨てるような人だ。


 父があんな写真を見たら、僕がどんな言い訳をしても許してくれないだろう。服を全部処分された上で、きっと親子の縁を切られる。父は気に入らないモノをすぐ捨てる。そういう人なのだ。


(ヤダ…… 父さんはどうでもいいけど、母さんと別れるのは、ヤダ…… )


 悔し涙が流れる。どう考えても衣路羽さんが悪い。だが、僕は逆らえない。そんな自分の弱さに涙が出た。そんな僕の耳元で衣路羽さんが囁く。


「これからずっと一緒ですよ。雪丸さん」


 一つだけ理解できた。僕は彼女が飽きるまで彼女のお人形なのだ。


 僕の目から光がフッと消えた気がした。


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