アイドルと倉庫に閉じ込められて互いにオシッコするところを見られちゃう話

「ちょっと話いい? 」


 大学で知らない女子に声をかけられた。長い金髪をシュシュでツインテールにしている可愛い系の子だ。人懐っこそうな目だけど、淡々と話しているのと無表情なのがマイナスポイントだ。ちゃんと表情が付けばアイドルにだってなれるルックスだと思うけど、そんな可愛い子が俺に何の用だろう。


「いいけど、何? 」


「ここじゃ話しづらいから、カフェテリア来て」


 そういって彼女はカフェテリアへと歩を進める。きっと告白だろう。何回かされたことがあるので慣れている。そして何度も断った。どの女子も一個上の姉ちゃんと比べると、どうも見劣りするのだ。


「ん、この辺でいいね」


 俺を先導していた女子は立ち止まって奥側の椅子に座った。俺も同じ席につく。さて、今回はどう断ろうかな……


「あのさ、私のこと、縛ってくんない? 」


「は? 」


 唐突だし、意味がわからない。この子は何を言ってるんだろう? 縛って? 変態なのか? 疑問でいっぱいの俺をそのままにして、女子はそのままに話を続けた。


「えっと、この前おにぃ……ちゃんが人を縛ってるって聞いて。あ、犯罪とかじゃないよ。お兄ちゃん、この大学で映画撮ってて役者さんを縛ってるの。で、縛られるのってどんな気持ちなんだろうなぁって。…… もし、縛られるのが気持ちよかったら、縛った人のこと好きになったりしちゃうのかなぁって」


 女子はもじもじしながら説明する。これ、自分が縛られたいっていうよりも……


「…… つまりアンタは、縛られた役者さんが兄ちゃんにほれられちゃうか気になってるわけ? 」


「違ッ! 別に私、おにぃが誰と付き合おうと関係ないもん! ただ、縛られるとどんな感じか知りたいだけだもん!」


 俺の予想であってるみたいだ。なんて単純な子だろう。多分、社会に出てから苦労するな。てかこの子、兄ちゃんのこと、”おにぃ”って呼んでるんだ。マジでいるのね、そういう子。


「まあいいや。で、なんで初対面の俺? 普通、友達に頼むよな? 」


「あ〜、それはさ、キミがこの前『アンタはここで俺を縛る気か?! 』って騒いでたから、縛るの詳しいのかなって」


「なっ…… 」


 俺は面食らう。たしかに俺は一週間くらい前に近所のレストランの前で『ホテルだよ! アンタはここで俺を縛る気か?! 』と姉ちゃんに言った。


 いや、いつも姉弟で縛りプレイしてるわけじゃないよ? 『性癖マッチングアプリ』ってアプリで知り合った縛るの好きな女の子がたまたま姉ちゃんだっただけで…… とにかく、まさか同じ大学の人に姉ちゃんとの会話を聞かれていたなんて、ましてやそれが理由で声をかけられるなんて、思ってもいなかった。


「ねね、人を縛るの詳しいんでしょ? 縛ってよ」


「バカ! そういうこと気安く初対面の男に頼むんじゃねぇよ! 大体俺、縛るのそんな詳しくねぇし! 詳しいの、姉ちゃんだし! 」


「じゃあその姉ちゃんを紹介してよ。縛ってもらうから」


「姉ちゃんはダメだ! その…… とにかくダメだ! 」


 本当は「姉ちゃんに縛ってもらえるのは俺だけだからダメだ! 」って言いたかったけど、恥ずかしいので止めた。


「そっか、縛ってくれないのか…… 残念」


 女子はすごく残念そうな顔をする。うおっ、表情があると可愛いなこの子。こんなの、断れるわけがないじゃん。


「…… あのさ、別にやらないわけじゃないよ。ただ、俺は縛り方を知らないから、姉ちゃんに聞いておくよ」


「ホントに! ありがとう! じゃあ私はプレイ出来る場所をおにぃに聞いとくね」


 「あ、連絡先交換しよ」といって女子はスマホを取り出す。俺もスマホを取り出しメッセージアプリを開いて連絡先を交換した。この子、俺に騙されてるとか考えないのかな?


「えっと、アンタの名前は……『シー・ズー』? 本名は? まさか、犬ってわけじゃないだろ? 」


「え、つつみ 志津子しづこだけど…… 知らないの?アイドルグループ 『ソフト・セブン』のシー・ズー。あれ、私なんだけど…… 」


「知らん」


 いきなりアイドルと言われても、わかるわけがない。俺はテレビもインターネットの動画もあまり見ない。家に帰ったらリビングで本を読みながら、姉ちゃんを観察するので忙しいし。


「そっか…… えっとキミは『アイト』だね」


「そ、浅縄あさなわ 愛糸あいと。好きに呼んでくれ」


「じゃ”愛糸”で」


 いきなり下の名前を呼び捨てかよ。ま、どうでもいっか。多分、一回縛ってそれでバイバイする関係だろうし。


「それじゃ、互いに準備できたら連絡ね。バイバイ、愛糸」


「ん、じゃな」


 その日はそういって別れた。


 で、俺は帰ってすぐに姉ちゃんに人の縛り方を聞いた。姉ちゃんは実際に俺を縛りながらレクチャーしてくれた。その、正直縛られてめっちゃ気持ちよかった。さすが俺の自慢の姉ちゃんだ。



「ほい、この部屋なら誰にも見つからないよ」


 俺は大学から歩いて二十分くらいの廃倉庫に来ていた。堤の兄ちゃんが映画の撮影用に借りている倉庫らしい。堤に案内された部屋は昔、冷凍庫として使われていたらしく、ドアを閉めれば完全に外から見えなくなる作りだ。


 なんだかんだ言って堤もアイドルだから、男と二人っきりで緊縛プレイしているところを見られたくないのだろう。だったら、知り合ったばかりの男と二人っきりで廃倉庫に来るなよとは思うが、それよりも緊縛プレイへの興味が勝ったらしい。多分、この子はちょっとアホだ。


バタン


 部屋の扉が閉まる。日が全く当たらないので部屋はヒンヤリしている。撮影用に電気を通してもらっているとのことで、室内の電気はついているが明かりとしてはちょっと心もとない。


「で、俺はアンタをどう縛ればいいの? 知らないかもだけど縛り方にもいろいろあって…… 」


「あ、それはもう決めてあるんだ。えっと、このシーンなんだけど…… 」


 そういって堤はスマホを操作する。”シーン”って言ってたから映画かドラマのワンシーンでも見せてくれるんだろう。それにしても時間かかってるな……


「あれ? 画像、全然読み込まれないんだけど…… 」


「そりゃそうだろ。鉄の壁で囲まれてんだぞ。電波なんてほぼ入らんぞ」


「あ、そっか」


 やっぱりコイツ、アホだ。


「じゃあ私の言う通りに縛って。えっと、たしかこんな感じで…… 」


 そういって堤は床に寝転ぼうとする。


「あー、ちょっと待て。そのまま寝転ぶと服が汚れんだろ。ほら、ブルーシート用意してあっから 」


 俺は堤の近くにリュックから取り出したブルーシートを広げる。これは野外で縛るときに持っていったほうがいいと姉ちゃんに教えてもらったアイテムだ。


「ん、ありがとう。えっとね、私が見たドラマではね。手はこう、後ろに回してて、足首も縛られてて、あとタオルで目隠しと猿ぐつわもされてた」


 そういって堤は手を後ろに回し、腰の位置で組んだ。脚はぴったりと閉じ、右肩を下にして体を横向きにして首だけ動かしてこっちを見ていた。


 見た感じ、堤がやってほしい縛り方は刑事ドラマとかで誘拐された人がされてる縛り方だ。いいセンスだな。あの縛り方は、こう、縛った相手にされるがままになる感じがあって興奮するんだ。しかも、目隠し、猿ぐつわ付きなんて、なかなか趣味の良い女子だね。


「おっけ、じゃあまず縛るから、後ろ手でうつ伏せになって」


「ん、よろしく」


 堤は俺の指示通りの体制を取る。俺はリュックからタオルと縄を出して、まずは堤の手首にタオルを巻いてから縄で縛る。こうしないと跡がついちゃうって姉ちゃんが教えてくれた。そういえば俺を縛るときもタオル噛ませてくれてたっけ。


 その後は脚を縛り、目隠しと猿ぐつわをした。途中でミニスカートの奥から下着が見えそうになるアクシデントはあったが、俺はなんとか目を逸らして何事もなく堤を縛り上げた。


「はい、全部終わり。どう? 縛られた気分は? 」


「むー、んんんん」


 そっか、猿ぐつわしてたら喋れないか。えっと、こういう場合は……


「じゃ、気がすんだら両手でOKサイン作ってくれ。そしたら外すから」


「ん」


 喋れないときは手で意思疎通をする。これも姉ちゃんの入れ知恵だ。


 堤はユラユラ体を揺らしている。満足、してくれてるのか? しばらく観察していると堤の手がOKサインを作った。どうやら終わりたいらしい。俺は猿ぐつわと目隠しを外した。


「どうだった? アンタの知りたいこと、わかった? 」


「うん、わかった」


 結構あっさりしてるな。お気に召さなかったのかな? やっぱり姉ちゃんには敵わないか…… 俺は謎の敗北感の中、堤の手足の拘束を解いた。堤は自由になった手足をグルグル動かして感覚を確認する。


「ありがとう。愛糸、縛るの上手だね」


「そいつはどうも。じゃ、帰ろうぜ」


 そういって俺はさっきまで堤を縛っていた縄や敷いていたブルーシートをリュックに詰め、入ってきた扉へ向かった。扉へ向かう途中で堤が話しかけてきた。


「今日はありがとうね。変なお願い聞いてくれて」


「別にいいよ。というか、あんまり男を信用するなよ。俺がヤバいヤツだったらアンタ今日襲われてたぞ」


「それは大丈夫。愛糸、そういうことしなさそうな顔してるもん」


「あっそ」


 どうやら堤は俺のことを舐めているようだ。それはそれでなんか悔しい。最後に男らしい所見せておこう。そう思い、俺は出入り口の扉に手をかけ、思いっ切り横に引いた。


ガッ


 …… 扉はビクともしない。入るときは堤が軽々開けてたからすぐに開くと思っていた。だが、扉は微動だにしない。開け方が間違っているのかと思い、押したり引いたりしたがそれでも開かない。


「? 何遊んでんの? 」


「遊んでねえよ! このドア全然動かな…… 」


「そんなわけないじゃん。貸してみ。私が開けたげる」


 堤はそういって扉に手をかけるが結果は変わらない。扉はガッガッと音を立てるだけで少しも動いてくれない。


「おい、これって、もしかして…… 」


「うん、私たち、閉じ込められたみたい…… 」


 サアッと血の気が引く。これはヤバいぞ。ここは鉄の壁で囲まれていて、電波が通りづらい。つまり、外部との連絡をとることも難しい。このまま誰にも気づかれなかったら……


「おいアンタ! 今日ここに来ることを誰かに言ったか?! 」


「えっと、おにぃには倉庫を使うって言ったよ。だから、私の帰ってないってわかったら、おにぃが来てくれると思う」


「そっか、じゃあここで餓死することは避けられそうだな」


 安堵でホッと息を吐く。よかった、待っていれば助けは来る。ひとまず安心だ。


「でも、おにぃ、今日深夜までバイトって言ってたから、来るの遅いかも…… 」


「来るならなんでもいいよ。助けが来るまでくつろいでようぜ」


 俺はリュックから再びブルーシートを取り出し、その上に腰を下ろす。


「ほら、アンタも座れよ。それともずっと立って待ってるか? 」


 堤は「ううん」と首を横に振ったあと、近づいてきて俺の横にチョコンと座った。見る人が見れば羨ましいシチュエーションなんだろうな。


「そうだ、飲み物と軽食持ってきたから、つまみながら待とうぜ」


「なんでそんなもの持ってるの? 」


「プレイ中に脱水症状にならないようにって姉ちゃんが。ほら」


 ペットボトルの水と軽食のチョコを堤に渡す。堤はそれらを受け取って、口に運んだ。


「なんかさ、撮影待ちしてるみたいだね」


「こういうときはピクニックじゃないのか? 」


「そうかも」


 フフと二人で笑い合う。このときは絶対に助けが来るという希望があったから楽しかった。このあとどんな試練が待っているか、俺たちは知らなかった。



「ってことはアンタ。死にかけたいわけ? 」


「ん〜、簡単に言うとそうかな。こう、『死んじゃうかも…… 』って感じが、なんか、気持ちいいの」


「そっか」


 廃倉庫に閉じ込められてから五時間、俺たちは堤の兄さんが来るまで話しでもしようということで他愛のない会話を続けていた。


 最初の頃は大学で何をしているのかとか、堤のアイドル活動のこととか、それこそどうでもいいことばかりだった。が、段々話のネタが尽きて、今は互いの性癖について話している。


「で? 愛糸は何されると嬉しいの? 」


「俺は…… 縛られるのが好き。特に姉ちゃんに縛られるのが」


「ふ〜ん」


 なんか興味なさそうだな。こっちは勇気をだして告白してんのに…… というか、さっきから堤の様子がおかしい。上の空だし、めちゃくちゃ汗もかいている。もしかして、体調が悪いのか?


「アンタ、ちゃんと水飲んでるか? 無理してでも飲まなきゃ倒れちまうぞ」


「いや、今はいい。飲みたくない…… 」


 ふむ、明らかに変だ。よく見ると堤は体育座りのまま、体をユラユラ揺らしている。ずっと揺れているかと思うと突然ビクンと跳ねて、一切動かなくなる時もある。しばらくするとまたユラユラと揺れ出すので、ケガをして動けないとかではないみたいだ。


「あ〜、あのさ、愛糸。ちょっと相談いい? 」


「? なんだよ突然? 」


「…… いや、やっぱいい」


 堤は顔を赤くして俯いた。どうしたんだ? 体調悪い割にはよく喋るし、疲れたにしては体を動かしてるし、水は飲みたくないって言うし…… あ、もしかして。


「なぁ、もしかしてトイレ行きたいのか? 」


「! はぁ!? 何いってんの?! 全然違うし! 」


 堤の顔はさっきよりもさらに真っ赤だ。こんなに全力で否定するってことは図星だな。相変わらずわかりやすい。堤と会うのは今日で二回目だけど。


「まぁ、こんな状況だしさっさとしちまえよ。誰も見てないんだし」


「ダメ! 愛糸がいるじゃん! 」


「目つぶればいいだろ? 」


「音もにおいもダメなの! ホント、愛糸はダメ! 絶対彼女いたことないでしょ?! 」


 何を必死になってるんだ? 縛られるのはよくて、野外放尿はダメなのか? 女子の基準がわからん。


「大体、全然トイレなんて行きたくないもん! 」


「そーかい、じゃあ今は行きたくないとして、行きたくなったらどうすんだ? 」


「…… おにぃが来るまで我慢する」


「いつ来るか、わかんねぇのに? 」


 堤は顔を歪ませる。言われたことには納得しているが、どうしていいかわからない。そんな顔だ。


 くだらないことを気にせずペットボトルにしてしまえばいい気がするが、きっと女子にとって男の前で放尿するのはとてつもなく恥ずかしいことなんだろう。


(…… 仕方ない、ちょっとだけ助けてやるか)


 俺は自分の飲み物を一気に飲み干し、ペットボトルを空にした。堤は不思議そうな顔でそれを見ている。見つめてくる堤に俺は空になったペットボトルを差し出した。


「ほれ、いざとなったらコレにしな。コレでにおいの問題は解決するだろ? 言ってくれれば俺は目と耳ふさぐからさ」


「えっ、あの…… 」


「わーてるよ、今はしたくないんだろ? コレは保険だ。持っとけ」


「いや、そういうことじゃなくて…… 」


「なんだよ? 俺が口つけたペットボトルは嫌か? 」


「…… 足りないかも」


 一瞬、堤の言ったことが理解できなかった。だが、堤の膨らんだ下腹部を見て、言葉の意味を理解する。そっか、五百ミリじゃ全部受け止められないかもしれないのか。それくらい大量のオシッコが堤の下腹部にはたまっている。俺は「はぁ」とため息をついた後、堤の横に置いてあった飲みかけのペットボトル飲料を手に取り、飲み干した。


「え、愛糸? 」


「ほれ、これで一リットル。まさか、これでも足りないとか言うつもりか? 」


「いや。でも、いいの? 」


「何が? 」


「…… 間接キッス」


 言われてみればたしかにそうだ。俺は今、堤の飲みかけの飲料を一気飲みしたのだから、間接キッスと言ってもいい。だが、それはこんなときに気にするほど重大なことだろうか?


「はぁ? こんなときに何くだらないこと言ってんだよ? 」


「そっか、愛糸、気にしないんだ。そっか…… 」


 というか、緊縛プレイの後で間接キスを気にするかね? どうやら俺と堤の感覚には深刻なズレがあるようだ。


「ま、何にせよ。漏らしちまう前に使えよ。俺もビショビショのパンスト履いたアイドルと一緒に帰りたくねーからよ」


「…… バカ」


 思ったよりしおらしい答えにちょっと驚く。今までの堤だったら「バカ! そういう事言うな! だから彼女出来ないんだぞ! 」とか言ってきそうなものだ。きっと尿意に思考を支配されてそれどころではないのだろう。


(あーあ、あとどれくらい、このアホでわがままなアイドルと一緒にいればいいんだろ)


 手持ち無沙汰になった俺はなんとなく天井を見上げて、時間が経つのを待った。



はぁ、はぁ、はぁ


 密室には男女の息遣いが響く。音の主は俺とアイドルの堤だ。堤は俺と一緒に倉庫に閉じ込められ、それからけっこうな時間オシッコを我慢していた。唯一俺たちが倉庫に来ていることを知っている堤の兄ちゃんは依然助けに来ない。


 堤はずっとオシッコの我慢を諦めようとしない。何度も尿意の波に体をくねらせ、時には男の俺がいるにも関わらず股をギュウギュウ揉んで、必死に尿意に耐えていた。「でちゃう…… おにぃ、はやくぅ」とうわ言も聞こえだし、いよいよ限界が近いのがわかった。


 俺は何度も堤に渡した五百ミリペットボトルに出してしまうよう言ったが、堤は「愛糸がいるからイヤ。おにぃが来るまで我慢する」といって聞かなかった。今の状態で助けられたとしてもトイレには間に合わないだろうが、それでも堤は希望を捨てずに我慢を続けていた。


(クソッ、堤、頑張ってるな…… これじゃ)


 そして俺も人知れず尿意と戦っていた。


 堤に空のペットボトルを渡すために水を一気飲みしたのがいけなかったのだろう。正直、今すぐにでも出したい。


 だが、必死に戦っている堤の前で俺だけ気持ちよくなるのはちょっと気が引けた。それに俺の放尿音が呼び水となり、堤がオシッコを漏らしてしまったら、可哀想過ぎる。我慢しているときに聞く水音は想像よりも尿意を増幅させる。以前、姉ちゃんに似たような嫌がらせを受けた俺は、そのことをよく知っていた。


 ということで、堤にはさとられぬように俺もオシッコを我慢する。堤から遠い方の左手で男性器を鷲掴みにし、右手は床についてバランスを取る。息はなるべく浅くして、腹部にかかる負担を最小限にする。波が来たときは脚をできる限り近づけ、尿意に耐える。これを何度も何度も繰り返しておもらしを回避していた。


「愛糸ぉ…… 」


 突然、堤がすごく情けない声で俺を呼んだ。顔を見ると、堤は目に涙を浮かべて泣いていた。


「! おい、どうした! どっか痛いのか?! 」


「…… 違う、オシッコ、もう我慢できないの」


「なんだそんなことかよ…… じゃあさっさとしちまえよ」


 閉じ込められたストレスでどこか悪くしたのかと焦ったが、どうやらそうではないらしい。オシッコなら出してしまえばおしまいだ。それに堤が出せば、俺もオシッコと言い出しやすい。もっと早く言ってくれればよかったのに。


 だが、楽観的な俺とは裏腹に堤は鬼気迫る表情で俺に詰め寄った。


「違うの! もう、動けないの…… 」


「はぁ!? 」


 言っていることの意味はわかる。オシッコを本当に限界まで我慢しているとき、下手に動くと漏れ出してしまいそうになる。だが、今ここで俺にそのことを告白する意味がわからなかった。


「どうしよ、このままじゃ、また、おもらししちゃう…… 」


 堤の”また”がどういう意味かはわからないが、一刻を争う状況なのは間違いない。泣き出しそうな堤を見て、俺はとっさに助け舟を出した。


「諦めんな! 俺が手伝ってやるから! 」


「…… なんでもしてくれる? 」


「あぁ、なんでもする。俺は何すればいい? 」


 堤は俯き、俺にかける言葉を探しているようだった。多分、部屋の端っこまで自分を運んで、そのあとすぐに遠くへいってくれとでも言うつもりなのだろう。限界近い尿意を抱えた状態で堤を運び、ダッシュで離脱できるかは微妙だが「なんでもする」といった手前、断ることはできない。俺は静かに覚悟を決める。


「…… 脱がして」


「…… なんだって? 」


「パンストと下着、脱がして。そんで、ペットボトルでオシッコ受け止めて」


 堤のオーダーは俺の予想していたものとは全く違った。俺の頭は予想を外したことでフリーズした。というか、あまりにも情報量が多い。今まで経験したことのない要求のオンパレードだ。え、何? 俺今からアイドルのパンストと下着を脱がして、ペットボトルでオシッコ受け止めるの?


「愛糸ぉ、お願いぃ…… 」


 堤は潤んだ目でこちらを見てくる。やっぱり可愛い。この目で頼まれたら断れない。でも、脱がせるとかペットボトルで受け止めるとか…… あー!


「…… わかったよ。ちょっと待ってろ」


 情報過多になった俺の頭は考えることをやめた。堤に言われたとおりに堤の正面にかがみ、ミニスカートの中に手をいれた。どうか、このタイミングで堤の兄ちゃんが扉を開けませんように……


「ほら、パンスト脱がしてやっから。ちょっと腰あげろ」


「…… ん」


 堤は体育座りの体制から、本当にちょっとだけ腰を上げた。俺はなんとかしてパンストの端に爪をかけ、肌に触れないように少しずつパンストを膝の方に下ろす。堤はお腹に両手を回し、キュウッと力を込めている。


「ほら、こんなもんでいいだろ? 次、下着な。…… 絶対騒ぐなよ」


「待って! 」


 ここに来ての待ったコールに俺は若干の苛立ちを覚える。早くしてくれよ。パンツ丸出しの女といっしょにいる時間は極力減らしたいんだからさぁ……


「なんだよ? 後は自分でやってくれんの? こっちとしてはそっちのほうが…… 」


「違う! あの、下着、脱いだら出ちゃいそうだから…… ペットボトル、先に当てといて…… 」


 おそらく堤は尿意で正気を失っているのだろう。そうでなければ男の俺に先にペットボトルを当てて、なんてお願いはしないはずだ。


 だが、あらわになった堤の下着が部分的にテラテラ光っているのを見るに、限界なのはウソではないのかもしれない。だってあれ、多分ちびってできたシミだもの。


 そんな状況だろうと普通の男性なら「そんなことはできない」と断るだろうし、俺もそうするつもりだ。というか、そもそも堤のお願いを叶えることは俺にはできない。なぜなら……  


「先にっても、俺、その、知らないから…… 」


「? 何を知らないの? 」


「女の小便が出ることろだよ! そんなの男の俺が知るわけないだろ?! だからボトルは自分でなんとかしろよ! 」


 自分で言っていて恥ずかしい。でも、事実だ。俺は女がどこからオシッコをするかなんて知らない。だから、どこにボトルを当ててオシッコを受け止めればいいのかわからないのだ。


「えぇ、じゃあ、どうすれば…… 」


「とりあえず、俺が下着を脱がして、すぐにボトルを取る。そんでそのボトルをアンタが誘導しろ。すぐに出せないのはツライかもしれないけど、頑張って我慢しろよ」


「うん、頑張る」


「よし、せーの、でいくぞ…… せーの! 」


 合図と同時に俺は堤の下着を膝くらいまで一気に脱がせる。その後で手近にあったペットボトルをガッと取り、堤の脚の間に持ってきた。


「ほら! アンタが当てろ!」


 堤はコクリと頷き、俺の手の上からペットボトルを取り、自分の股に当てた。堤の股にペットボトルが当たったのとほぼ同時に大きな水音が部屋中に響いた。


ブッシャアアアアア


(うわっ、コイツ、オシッコの勢い、すごっ…… これ、ダメだ)


 俺は体をくねらせ、左手を股間に挟み込み、水音に反応する体の反応を押さえ込む。


 堤のオシッコはすごい勢いでペットボトルにたまっていく。オシッコの凝視しないほうがいいのだろう。が、今視線を上に向けて気持ちよさそうにしている堤の顔を見たら、多分、俺もつられて出してしまう。自分が決壊せずに堤のオシッコを受け止めるには、堤のオシッコが充填されていくペットボトルをジッと見る以外、選択肢がなかった。


「ねぇ、愛糸…… ねぇ、聞いてる?! 」


「あ、わりぃ…… ボーッとしてた」


 自分の我慢に集中しすぎてどうやら堤に声をかけられてりのに気づかなかったようだ。堤はなぜか慌てている。もうオシッコできているんだから慌てる必要なんてないだろうに……


「ちゃんと聞いてよ! ペットボトル! 溢れそうだからなんとかして! 」


「あぁ、そういう。つか、なんとかって言われても入れ替えるしかないだろ。ちょっと一回、小便止めろ」


「ムリぃ、そんなこと、できないよぉ」


 堤は目を涙でいっぱいにしてイヤイヤと首を横にふる。こんなやり取りをしている間にも俺の持っているペットボトルには堤のオシッコがジョボジョボと注がれ、段々と水位を上げている。


「頑張れ! 一回止められたら、あとはもう溢れてもいいから全部出しちまえ! な、一回だけ頑張ってくれ! 」


 オシッコを我慢している苛立ちもあって少々強い言葉になってしまった。堤もそのことにびっくりしたようで、ビクッと身を震わせた。


「う〜、わかったぁ〜。そんなに言うなら、頑張るぅ〜」


シュ、シュイイイイ、シュ……


 少しづつだが堤のオシッコが勢いが弱くなる。どうやら頑張ってくれてるみたいだ。それでも、放尿の快楽には勝てないのかなかなか完全には止まらない。まずいぞ、このままだとオシッコが溢れてしまう。


 堤は歯を食いしばり、目からポロポロ涙をこぼして、オシッコを止めようとしている。俺はもう、彼女を心のなかで応援することしか出来ない。


ジョボボ……


「愛糸! 止めた! 早く! 」


 言葉通り、堤のオシッコは止まった。堤の脚はプルプル震え、俺の頭上からは「うにゅう…… くうっ…… ふしゅー」というよくわからない喘ぎ声が聞こえる。


 俺は堤からオシッコでいっぱいになったペットボトルをひったくり、適当なところに置いた。そして、すぐに空のペットボトルを手に取り、堤の股に添えた。


「ほらさっきと同じだ! 最後は自分で当て…… 」


 堤は俺の言葉を全部聞き終わる前に、ペットボトルを掴み取って股に当てる。そして、堤の放尿が再開した。


ジョバババババババ


 さっきより大きな放尿音が響く。堤は最初のときは全力じゃなかったようだ。これが堤の本気、というか完全に脱力した状態の放尿音か。この音は、ヤバい。オシッコを我慢しているときに、この音はヤバすぎる。


ジョワッ


(わっ、クソッ、ちょっと出て…… ヤバい、このままじゃ…… )


 俺は身を固め、必死に決壊を防ぐ。ちょっとでも気を抜くと、オシッコが出てしまう。でも、堤のオシッコが終わるまで、俺はオシッコができない。俺は少しでも早く堤のオシッコが終わることを祈った。


ジョポポポ……


「ふぅ〜、全部、出たぁ…… 」


 堤の気持ちよさそうな声が聞こえる。オシッコは出し切れたみたいだ。持っていたペットボトルはほぼ満杯になっている。一リットル近くオシッコをためていたのか…… 結構すごいやつだな。


(って、そんなこと考えてる場合じゃない! )


 俺は堤のオシッコ入りペットボトルをダンッと床に置き、立ち上がった。


「いや〜、マジ危なかったぁ…… ホントありが…… 愛糸? 」


「わりぃ、俺も小便したいんだ! アンタの見てたらもう限界で…… 今すぐ部屋の端で…… 」


ジョワワ


 俺の動きが不自然に止まる。体をくの字に曲げ、両手を脚に挟んで、いかにもオシッコを我慢しているという体制だ。


「愛糸…… 大丈夫? もしかして、動けない感じ? 」


 堤の質問に答える気力も今はない。多分、ここで押さえきれなかったら服を着たまま全部出してしまう。俺はすべての気力をオシッコ我慢に向けた。


ジョバッ


 が、俺の努力は身を結ばなかった。今までより多量のおチビリ。もうおもらしと言っても差し支えない量が溢れる。さらに一度出たオシッコは止まってくれずジョジョジョと男性器の先から湧き出し続けている。


「あっ…… うわあぁぁ! 」


 直感的にもうオシッコが止まらないとわかった。俺はパニクってカーゴパンツのチャックを下ろし、そこからボロンと男性器を出した。


「ちょ…… 愛糸?! 」


 横には堤がいるが気にしている暇はない。気にしていたら服を汚してしまう。悪戦苦闘の末、俺はオシッコの準備を整え、体中の力を抜き去った。


(あぁ、やっと、オシッコできる…… )


ジョバー


 俺からすごい勢いでオシッコが放たれた。ずっと我慢していたから、水圧が普段とは桁違いだ。床にあたったオシッコはバタタタタタタタと音を立て、水たまりを形成する。


(あー、やっば、気持ちいい…… これ、クセになりそう)


 限界まで我慢した後の放尿がこんなに気持ちいいなんて知らなかった。いや、この前姉ちゃんに縛られておもらししたときも、これくらい気持ちよかったかも……


タパパパパパ……


 三十秒くらい経ったろうか。俺のオシッコは止まった。その瞬間、反射的にプルッと体を震わし、先に残ったオシッコを振り落とした。


(はぁ、全部出たぁ)


 苦しかった戦いがやっと終わった。俺は開放感に浸りながら男性器をしまう。


「…… 終わった? 」


 堤が申し訳無さそうに聞いてくる。途端にコイツにオシッコしているところを見られていたのを思い出し、恥ずかしくなる。


「ん、終わった。ゴメン、イヤなもん見せちゃって」


「いいよ、私も、オシッコするとこ見せちゃったし…… 」


 その後、俺たちは無言で座り込んで助けを待った。というか、互いにオシッコするのを見せ合ったときってどういう話をすればいいんだろう。そんなのどこでも教えてもらってないぞ。



「おーい、志津子ー、どこだー」


「! おにぃ! ここだよ!冷凍庫だった部屋! 閉じ込められてるの! 助けて!」


「? 志津子? あぁ、その部屋か。ちょっと待ってろよ。今、開けてやるから」


 しばらくして押しても引いても開かなかった扉が開いた。開いた扉の向こうにはTシャツにジャージ姿の男性が立っていた。


「おにぃ! 」


「ごめんな、志津子。この部屋、扉が中から開かない仕様なんだ。基本、中に人が残らない運用してらしくて、言っとけばよかったな」


 だから出られなかったのか…… はぁ、なんて迷惑な扉だろう。まあ出られたからいっか。俺はブルーシートやら自分で持ち込んだものをリュックに入れる。…… オシッコ入りのペットボトルは堤に持って帰ってもらおう。


「あれ? キミは誰かな? 志津子の友だちでいいんだよね? 」


 堤の兄ちゃんは明らかに俺に疑いの眼差しを向けている。そりゃ倉庫で妹と一緒に閉じ込められてた男の素性が気になるのは当然だろう。うーん、やってたことはクレイジーだけど、別に堤を傷つけたわけじゃないし、ここは正直に大学の同期っていうか。


「あぁ、俺は…… 」


「あの人はね、私の彼氏だよ。今日は誰にも見られたくなかったから倉庫使ったの。ごめんね、おにぃにもバレたくなくて言わなかったんだ」


 ん? この子は何を言ってるのかな?


「なんだー、お前彼氏いたのか。え、何、やっぱ芸能人? 俺、サインとかもらってもいい? 」


「違うよ、愛糸は同じ大学の子。芸能人じゃないよ」


「なーんだ、芸能人じゃないのか…… え、でもイケメンじゃね? いやイケメンっていうよりカワイイ系? お前、どうやったらこんな顔面偏差値の高い人見つけられんのよ? 」


「どうでもいいから早く帰ろ。あ、愛糸、送ってあげる。いいよね、おにぃ」


「もちろん。志津子の彼氏は俺の将来の家族候補だからな。 あ、でも助手席は俺の彼女の指定席だから座っちゃダメな! 」


「おにぃ、彼女いないじゃん…… 」


「うるせぇ! そのうちできるからいいの! 」


 …… 仲良し兄妹だね。まあ、俺と姉ちゃんには劣るけど。


 その後、俺たちは倉庫を片付け、堤の兄ちゃんの車に乗った。後部座席に座ったとき、さっきの堤のセリフを思い出した。


(そういや"彼氏"ってどういう意味だろ? 一応、聞いておくか。でも、堤の兄ちゃんもいるし口頭では…… そだ、メッセージで。)


俺はスマホで堤にメッセージを送る。


『なあ、彼氏ってどういうこと? 』


 俺のメッセージに気づいた堤はタプタプとスマホをいじって返信してきた。


『おにぃに心配してほしくなかったから言っただけ。ホントのこと言ったらヤバいでしょ? 』


 たしかに、ほぼ初対面の男に縛ってもらってました、って聞いたら堤の兄ちゃんに殴られてたかもしれない。堤、ナイス。


ピロン


 ? 堤からまたメッセージだ。なんだろ?


『でも、私はウソのつもりないよ。愛糸がよければ、付き合ってほしいな』


 チラッと堤のほうを見る。堤は俯いたままこっちを見ようとしない。表情が伺えないので、冗談か本気かわからない。


(うーむ、堤か。可愛いし、付き合えるなら付き合いたい。それにコイツちょっとアホだから俺が一緒にいてあげないとダメかも。でもなぁ…… よし、決めた)


『わり、アイドルと付き合うのはリスク高いからパス』


 多分、堤も冗談のつもりで言っただろうし、これでいいだろう。メッセージを送ったあとで堤の顔を見る。俺の予想に反して堤は真剣な顔で「グズッ、グズッ」と泣いていた。


 なんで堤が泣いているのか、俺にはわからない。だって堤は芸能人で、仕事でもっといい顔のやつといろんなことしてるはずだ。俺なんかじゃなくても相手はいっぱいいる。なのに、なんで彼女は泣いているんだろう。


(やめろよ、そんな悲しそうな顔するの。…… 俺まで悲しくなるじゃんか)


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