第8話:男性記者のマッチングアプリ取材がオムツプレイ体験だった話

 『性癖マッチングアプリ』というアプリをご存知だろうか?


 このアプリは従来のマッチングアプリとは一線を画す。最大の特徴は、そのユニークなマッチングシステムにある。外見や一般的な趣味嗜好ではなく、『性癖マッチングアプリ』はユーザーの"性癖"を軸にマッチングを行うのだ。独自のアルゴリズムを駆使し、文字だけでは伝わりにくい深いレベルでの相性を分析し、価値観を共有できる相手との出会いを提供している。


 主なユーザー層は二十代の大学生から四十代前半の社会人まで幅広い。理想の相手が見つからずに悩む大学生や、多忙で出会いの機会が少ない社会人に特に支持されている。


 では、実際のユーザーはどのようにこのアプリを利用し、マッチングしているのだろうか。以降では、担当ライターである私が『性癖マッチングアプリ』を実際に使用した体験をもとに、登録からマッチングまでの過程を詳しく紹介していく……


――――


「どうだ、記事は書けそうか? 」


 声のする方には先輩記者がいた。みぞおち辺りまでしか丈のないノースリーブキャミソールにジーンズとスニーカー。いつも通り、動きやすさを重視して、防御力を軽視した服装だ。…… 胸が大きいので、目のやり場に困る。


「冒頭部分はおおよそ。後は本編の取材をして、文字起こしすれば脱稿です」


「ふむ、この冒頭では不充分だな。『芸能人A氏も使っている』とか、『運営に政府が関わっているという噂が』とか、注意を引くワードを入れたほうが読者は食いつくぞ」


「その通りですけど、そんな都合のいい有名人なかなか見つかりませんよ」


「見つからなかったら取材しなさい。歪んだ性癖を持っていそうな有名人などいくらでもいるだろう? 少しでも怪しいと思ったら書いてしまえ」


「疑惑だけで書くのは捏造ではないですか? 」


「ウソをつかず、憶測を含ませ、疑惑を真実のように書きなさい。それができないから君はいつまでも”新入り”なのだよ」


 いい感じに言っているが、要はギリギリのラインまで誇張して書けということだ。その行為が行き過ぎたとき”捏造”と叩かれるのではないだろうか? でも、うちの週刊誌で一番スキャンダルをとっているのは先輩だし、今回は先輩の言う通りに書いてみよう。


「わかりました。有名人の方は追加の取材を考えておきます。二、三人思い当たる人物もいますので」


「よろしい」


「じゃあ俺は本命の取材の方にいきますね」


 そう言って俺はノートPCをたたみ、席を立った。本命の取材というのはさっきの『性癖マッチングアプリ』の取材のことだ。今回の記事では、俺が実際にマッチングアプリに登録して、相手とどのようにやりとりするのか、どうやって会うのかなどを事細かにレポートする予定だ。


 取材のために俺は数日前から『性癖マッチングアプリ』を使用している。登録した性癖は『オムツをつけておしっこしたい』だ。きっかけは張り込み取材中、どうしてもトイレまで我慢できず、先輩のいる車の中でオムツにやってしまったことだ。我慢に我慢を重ねたおしっこをだす開放感と、出してはいけない所で見られながらおしっこをしている背徳感。二つの感情がごっちゃになるあの感覚に俺は魅了されていた。


「そうか、今日があのマッチングアプリの取材の日だったか。忘れていたよ」


「? 先輩に取材のこと言いましたっけ? 」


「話の流れ的にそうかとね。君は気にせず客観的でいい取材をしろ。いい記事はいい取材から、だ」


「はぁ、わかりました。それでは、いってきます」


 先輩の態度がちょっと気になったが、先輩を追求していては待ち合わせに遅刻してしまう。俺はマッチングした相手との待ち合わせ場所に急いで向かった。


――――


 マッチングした相手との待ち合わせ場所についた俺は時計を確認する。時間は待ち合わせの二分前。結構ギリギリだ。先輩がいたら怒られるだろうな……


「到着が二分前なのは感心しないね。取材相手を待たせるものではないよ」


 そうそう、ちょうどこんな感じで……


「うえっ! 先輩? ! なんでここに? 」


 俺の後ろから先輩が歩いてきた。先輩はトイレに行った後のようで、タオルで手を拭いている。


「それはここが待ち合わせ場所だからさ」


「あ、先輩もここで取材だったんですね。じゃあ先輩のミニバンで送ってくれればよかったのに…… 」


「それでは面白くないだろう」


 ? なにが面白くないのだろう? 俺が走って移動している姿が面白いとでも言いたいのか?


「さぁ、かけたまえ。何か飲もう。といっても、君の取材に付き合うんだ。君に払ってもらうがね」


 クツクツと笑いながら、先輩は席につく。そこは俺が待ち合わせに使おうとしている席なのだが……


「あの、先輩? そこは俺が…… 」


「待ち合わせ相手と会うために用意した席、だろ? だから私が座っている」


 どういうことだ? 先輩はいつもちょっと言葉足らずで考えが読みづらいが、今日は特に何を考えているかわからない。戸惑っている俺を見て、先輩は呆れた様子でスマホを見せてきた。


「ほら、君がやり取りしていたこの”ミス・バード”というアカウントだろう? これは私だ」


  差し出されたスマホには、たしかに俺がここ数日やりとりしていた”ミス・バード”というアカウントのプロフィール画面が表示されていた。ウソだろ…… マッチングの相手が、先輩?


「さあ、わかったら少し話そう。とりあえずかけなさい」


「何でそんなに冷静なんですか! 知ってる人同士でマッチングなんて…… これじゃあ取材にならないじゃないですか! 」


「それは君の書き方次第さ。それに私はこれをいい機会と捉えている」


「いい機会? 」


「君の性癖は『オムツをつけておしっこしたい』だろ? 場所は関係ない。だから、さっき行っていた歪んだ性癖のありそうな有名人の取材をしながら、オムツプレイと洒落込もうではないか」


「つまり先輩は張り込みをしながら取材ができるこの状況を好機と? 」


「ああ」


「そのために俺とわかっていてマッチングを? 」


「それはどうだろうね」


 先輩はまたクツクツ笑い出す。とてつもなく反論したいが、思いつかない。先輩はいちいち論理的だ。いや、俺の視野が狭いのか?


「君は視野が狭いのではなく、素直すぎるのだよ」


「! どうして俺の考えていることが! 」


「なんということはない。読心術さ」


 はあ、ダメだ。この人には敵わない。俺は諦めて先輩の前の席についた。


――――


「本当にここでいいのか? 」


 ミニバンの運転席から訝しげな声がする。俺は後部座席から慌てて返答する。


「えぇ、間違いない…… と思うんですけど」


 俺は先輩のミニバンに乗って『片羽塾』という道場の前に来ていた。ここの娘さんがどうやら俺と同じマッチングアプリを使っているらしいので、俺はその子を追跡するために道場が監視できる位置に車を止めて道場を観察していた。ちなみに娘さんはオリンピックに出場した経験を持つ有名人だ。情報が本当だとしたら、すごい記事になる…… はずだった。


「そのネタ元は信用できるのか? 」


「先輩と同期の記者さんですよ。あの人、ここの門下生らしくて『こういう情報はそっちの部の方が書きやすいだろ? 』って」


「あぁ、警察上がりの。あれは信用できん。正義の味方気取りだからね。そんな奴が人のスキャンダルを素直に教えてくれるとは思えんよ」


 先輩が苦虫を噛み潰したような顔をする。二人は仲が悪いみたいだ。


「えぇ〜、あの人俺には優しいですよ? とはいえ、道場に入る人が少なすぎるとは思いますが…… 」


「その通り。先程の正面玄関から入った坊主頭の青年以外、誰もこない。本当に道場はやっているのか? 」


 先輩の言葉にはっとして俺はスマホで『片羽塾』の営業日を調べた。そこには『月の最後の日曜日は休館します』と書いてあった。


「あ〜、ごめんなさい先輩。今日は道場お休みみたいです」


「ふむ、それは奇妙だな。先程の青年は一体何者だ? 間違って来た門下生ということも考えられるが、彼は正面玄関を通り、館内へ入った。休館日に玄関が開いているのはおかしいのではないか? 」


「道場の関係者じゃないんですか? 」


「だったらカギを開けるはずだよ。彼はそんな素振りを見せずに玄関を開けた。誰かすでに中で待っている、ということも考えられるが、彼は道着を持っていた。道場の関係者なら道着は道場に置いてあるのではないか? そうでなくとも、休みの日に関係者が道着を持って道場に来るなど不自然だ。道着は事務仕事にも掃除にも向かないからね。つまり…… 」


 先輩はニヤリと笑う。獲物を狩る獣のような目で口を裂けんばかりに横に広げる。とても魅力的な、そして怖い笑顔だ。


「さっきの坊主頭の青年はこの道場のお嬢様がマッチングアプリで選んだ運命の相手ではないか? なんだ、アイツ、まともな情報もよこすじゃないか。いや、この数年で記者に染まったかな? 」


「え、でも、門下生に特別授業をしているという可能性も…… 」


「当然その可能性もある。そもそも初デートが道場というのがおかしいからね。だが、そうでなかったときの影響力がでかい。これは張り込みがいがあるぞ」


「先輩、楽しそうですね」


「何を言っている? 今回スキャンダルの証拠を撮るのは君だ。私は眠りながら君の取材の手伝いをさせてもらうよ」


 そう言って先輩は運転席を思いっきり倒した。


「ちょ! 危なっ! 先輩、椅子を倒すなら一言かけてくださいよ! 」


「『眠る』という私の言葉からそれくらい推測しなさい。発言と状況証拠から大衆の喜ぶ真実を推測するのが記者だよ」


 そう言って先輩はアイマスクとヘッドホンをして本当に眠ってしまった。疲れているのかな? というか先輩にはいろいろ聞きたい事があったのに、全然聞けなかった。仕方ないと思い、俺は気を取り直して『片羽塾』の玄関にカメラを向ける。


 動くときに俺の股のあたりから「カサッ」と乾いた音が聞こえた。先輩、いや”ミス・バード”が用意するといっていたオムツがこすれる音だ。俺は待ち合わせ場所のカフェでこれを手渡されてそれからずっとパンツの代わりにオムツをつけている。「いつでも出しなさい。出し終わってからが私の時間だからね」と先輩はいっていたけど、まったく尿がたまっていない状態で出すのはなかなか難しい。第一、俺は我慢してからオムツに放尿して、それを見られるのが好きなのだ。誰の目もないところですぐに出すなんてもったいない。


(…… っと、そんなことより、ちゃんと見張っていないと)


 その先にオリンピック選手のスキャンダルがあることを信じて、俺は視線とカメラを『片羽塾』の玄関に向けた。


――――


(グッ、割と…… ツライ)


 スキャンダルを求めてオリンピック選手も通う柔道場『片羽塾かたはじゅく』に張り込みを始めてから一時間。俺の尿意は限界近くまで高まっていた。


 さっきから腰の動きが止まらない。両手は股間に向かいそうになるが、カメラを構えているので、目的は達成できない。カメラを手放して前を押さえたために、スキャンダルの証拠を撮り逃したとあっては、ミニバンの運転席で寝息を立てている先輩になんと言われるか……


(はぁ、もう出したい…… けど、もうちょっと我慢してからのほうが、気持ちよさそうだし…… )


 今俺はオムツをしているので、尿を放出しても先輩のミニバンの後部座席や俺のズボンがびしょ濡れになることはない。だが、俺としては限界まで我慢した後で、誰かに見られながら放出したいのだ。そうしないと、なんというか、もったいない感じがする。


 だから、いつ出していい状態であっても、俺は腰を振り、前かがみになり、尿が漏れ出すのを我慢する。少しでも気持ちよくなるために、そして先輩にオムツにしているところを見てもらうために。


「…… ん。取材はどうだ? どちらでもいい。進展があったら教えてくれ」


 俺の願いが通じたのか先輩が目を覚ます。アイマスクの下の目はまだトロンとしていて可愛い。


「あ、先輩、起きましたか。えっと、どっちも進展、なしです」


「ふむ、その様子だとマッチングアプリの取材の方はいつでも次の段階に進めそうだな。さあ、早く出して私の番にしてくれ」


「ダメですよ、今出して、オムツを変えたら、カメラを向けていられなくなります。だから、せめて、誰かが出てくるまで、我慢しなきゃ…… 」


「いつ出してもいいようにオムツをしているのだろう? 」


「でも、なんか、もったいなくて」


「ほう、我慢がしたいのか。君の性癖は度し難いな。まあ、否定はしないがね」


 先輩の推理力…… というか妄想力は凄い。俺が言っていないことも状況と言葉から推測してくる。正義の心を持っていればきっといい探偵とか警官になっただろう。


ガララッ


 先輩と会話を繰り広げていた俺の耳に道場の玄関が勢いよく開く音が届いた。ここまで聞こえるということは相当勢いよく開けたのだろう。いやそんなことはどうでもいい。問題は誰が出てきたかだ。俺はカメラのファインダー越しに玄関から出てきた人物を確かめた。


 玄関から出てきたのは一組の男女だった。男性の方は道場に入っていった坊主頭の人だ。そして、女性はオリンピックにもでているこの道場のお嬢様だった。二人はてこそ繋いでいないが、とてもいい雰囲気で歩いている。にこやかに会話をし、どこかを指差し、向かおうとする。俺はその瞬間を見逃さない。カシャカシャと何枚も写真を撮る。シャッターを押す度に人がひた隠しにしているものが露わになっている感じがして、とても気分がいい。


カシャカシャカシャ


 ニコニコと笑い合う二人。くだらないことで言い合いをする二人。腕を組んでどこかへ向かう二人。二人は誰かに見られているなど微塵も思っていないだろう。でも、俺は全部知っている。全部、このカメラで撮った。だから、数日後には全国民が知ることになる。ああ、なんという優越感。自分が世界を作り出している気分だ。


「ふ、いい表情をする。やはり君は逸材だな」


 先輩に褒められた。嬉しい。俺はニヤリと笑いながら、カメラを座席において先輩の方を向いた。


「だが、もう一つの取材のことを忘れているぞ。だから君はまだ”新入り”なんだ」


(? もう一つの取材? …… あっ! )


 先輩に言われさっきまで写真を取ることに集中していた自分の神経を体に戻す。すると、もう手遅れなのがわかった。


ショワワワワワワワワ


(ウソだろ…… 俺、気づかないうちに、漏らして…… )


 撮影に集中するあまり俺は無意識に尿をオムツに放出していたようだ。最初のチョロッと出る感覚をまるで覚えていない。一体いつから出ていたんだろう?


「君がカメラを構えた瞬間に放尿音が響いていたよ。記者としては合格だが、大人としては不合格、と言ったところかな? 」


 先輩はニヤニヤして俺をなじった。本当は悔しいはずなのに先輩に言われると、嫌な気がせず、俺は何も言い返せなかった。


 「さて、やっと私の番か。待ちくたびれたよ」


 先輩は運転席から無理やり後部座席に移動し、俺の前までやってきた。その目は爛々と輝いていて、獲物を見つけたときの獣みたいだった。俺を見て舌なめずりする先輩はあでやかでもあり、少し怖くもあった。


「気負う必要はない。君は私に身を委ねてくれればいいんだ。目でもつぶって、大人しくしていたまえ」


 そう言って先輩は俺の腰のベルトに手をかけ、カチャカチャと音を立てる。俺は慌てて逃げ出す。


「ちょっと! ズボンは自分で下ろすので待っててくださいよ! 」


「イヤ、ダメだ。君はまだ子どもなのだから脱がしてやろう。さ、大人しくしなさい」


「何言ってるんですか! 俺もう二十三ですよ! 」


 俺の反論は先輩の耳に届いていないようだ。再びベルトに手をやり、ベルトの金具を外し、ズボンを膝の当たりまで下ろした。ズボンが下ろされたことでテープ止めタイプのオムツが露わになる。股間の部分はタプンと尿で膨らんでいて、少しだけ黄色くなっている。


「おや、溢れそうじゃないか。たくさん我慢したんだね。いい子だ」


 オムツ丸出しの俺の頭を先輩はヨシヨシと撫でる。急に恥ずかしくなって顔がカアッと熱くなる。


「照れているのかい? ではすぐに変えてやろう。できれば仰向けになってほしいのだが、できるかな? 」


「まあ、そこは約束したので…… 」


 仰向けになってオムツを交換してもらうのは、マッチングアプリで約束したことなので、今更断れない。狭い後部座席で無抵抗で仰向けになり、脚を開く俺を見て先輩は「素直でよろしい。君は本当に可愛いなぁ」とニヤついていた。


「ではオムツを変えよう。興奮しすぎて陰部を大きくしないようにね」


 先輩はまたクツクツ笑う。いたずらっぽいことを言った後、先輩はいつもこう笑う。その笑顔がまた魅力的だから困ってしまう。先輩は俺の葛藤など知らないように、オムツの横のテープをビリッ、ビリッと外す。途端に股間が涼しくなり、おしっこの臭いがムワッと車内に充満した。


 先輩は言葉通りテキパキと処理をする。使用済みのオムツをくるくると丸めて、ビニール袋に入れ、カバンから替えのオムツを取り出す。本当にオムツを替えるまでが先輩の要求したプレイなので、俺は黙って先輩の動きを目で追った。しかし、先程まで淀みなく動いていた先輩が替えのオムツを持ったままで動きを止めた。俺は焦れて先輩に質問する。


「あの、先輩? どうかされましたか? 」


「いや、新しいオムツを履かせる前に少し拭いてやらないとかぶれてしまうと思ってね」


 そういった後先輩の口がニィと横に広がった。俺は嫌な予感がして身構える。


「それでね、君に選んでほしいんだ。このウエットティッシュで拭くか…… 私が舐め取るか、を」


「はい!? 何言ってるんですか?! 」


「だから、君のおしっこを拭くか舐め取るか…… 」


「拭くに決まってるでしょ! 正気ですか、あなた!? 」


「私はいつだって正気だよ。そうか、拭く方がお望みか、ククッ、残念だ」


 先輩の体はプルプルと震えている。とてつもなく笑っているのだろう。なんかちょっと悔しい。


「では、拭いてやるからじっとしていなさい。間違っても出すんじゃないぞ」


 先輩は”何を”出すなとは言わなかったが、何となく分かる。俺は陰部にすべての力を込めて耐える。先輩がウエットティッシュで股間周りをサワサワと拭く度、何かに目覚めそうになった。


 目をつぶり、歯を食いしばり、新しい感覚に耐えているうちに、股間が何かに覆われてるている感じがした。目を開けて確認すると、新しいオムツが俺に装着されていた。やっとプレイが終わったと思い、俺はホッと一息ついた。


パシャ


 聞き慣れた音が聞こえ、一瞬車内が明るくなる。何事かと思い先輩の方を見ると、先輩がカメラを構えて俺の写真を取っていた。


「ちょっと先輩! 何を撮ってるんですか! 」


「記念写真だよ。君との初めてのね」


 見せびらかすようにカメラを振る先輩から、俺はカメラを取り上げようとする。膝までしかズボンを上げていないのもあり、なかなかカメラまで手が届かない。カメラを僕の手が届かない位置まで高く上げながら、先輩はこういった。


「 なあ、”新入り”。実に撮れ高の高い、いい取材になったと思わんかね? これからもよろしく頼むよ。取材も私の相手も」


 先輩は馬鹿にしたように笑う。クソッ、ダメだ。今はこの人に勝てそうにない。取材の腕、記事の書き方、推理力…… 何もかも先輩のほうが上だ。今の俺では全く勝てない。それでも悔しいものは悔しい。


(クソッ、いつか見返ししてやる…… )


 俺は密かに先輩へのリベンジを誓った。


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