第6話:無感情な男子大学生が神様の子とおもらしプレイして神社で同居することになった話

「お主、その願いは本心か? 」


 神社でお参りしていると、変な男の子に話しかけられた。黒い袴と白い着物という神社の神主さんみたいな格好の子だ。神社の子かと思ったが多分違う。なぜなら男の子は黄色い目に白髪をして、一組の耳が頭の上についていたからだ。多分、狐の耳だろう。髪と同じ白色をしていて、耳の内側はきれいな赤色をしていた。たまにピコピコ動くのでどうやら精巧な作り物みたいだ。


「おい聞いておるのか? 質問に答えよ。お主のその願いは本心なのか? 」


 男の子は普通に話しかけてくる。僕は考えるのをやめて男の子に答えた。


「あぁ、『大学に合格させてください』ってやつ? うーん、お母さんが望んでるし、本心なんじゃない? 」


「お母さんとやらが主語の時点で、それはお主の本心ではないじゃろう…… 」


「あ、そっか。君、賢いね」


 男の子は「えぇ…… 」という顔をした。今僕は何かおかしなことを言っただろうか?


「…… まあいい。本当の願いを言え。わしが叶えてやろう」


 へぇ、この子、一人称”儂”なんだ。最近の小学生は面白いな。


「ほら、言ってみぃ。お主の本当の願いはなんだ? 」


「うーん、お母さんの望むことが僕の望むことかな? どうせお母さんの意思に反してたらやめなきゃいけないし。だから『大学に合格させてください』が本当の願いだよ」


「…… それでよいのか? 」


「? うん」


「お主、虚しいと感じたことはないか? 」


 変なことを聞く子だな。虚しいなんて感じたことはない。それどころか楽しいも、嬉しいも、悲しいも、苦しいも、何も感じない。感情的になると周りのみんなが騒いで面倒くさいから、もう五年ほど僕は何も感じていない。これが一番ラクなのだ。


「うん、感じたことはないよ」


「そうか…… よし。では、お主の願いを叶えよう」


「そっか、ありがとうね」


 そう言って彼の頭をなでる。不思議な感じだ。人間の髪の毛よりも固くて鋭くて本当に狐をなでているみたいだ。


「あ。ただし、一つ条件がある」


「うん、何でも言って。僕の出来ることなら何でもするよ」


 一体どんな条件を出してくれるんだろう。おもちゃが欲しいとかかな?


「お主が目指している大学に受かったら、儂の前で”粗相”をしてもらおう」


「? そそう? 」


「より直接的に言うと、失禁やおもらしかの 」


 男の子は僕におもらしして欲しいみたいだ。変わった子だな。まあ、小学生が提示する条件なんだから深い意味はないんだろう。自分がおもらししちゃって恥ずかしいから年上の人もおもらししてたという事実が欲しいのかな?


「まあ、それで受かるならいいや。うん、約束するよ」


「即決じゃな…… もっと自分を大切にせい」


「でも約束しないと願いを叶えてくれないんでしょ? 」


「そうじゃが…… 」


 変な子。自分で条件を提示しておいて、自分で戸惑っている。まあ、子どものイタズラなんてそんなものだよね。


「話が終わったなら僕は行くね。もうすぐ暗くなるから気をつけて帰るんだよ」


「いや、帰るも何も、ここが儂のうち…… 」


 何か男の子がもごもご言っていた気がするが、早く帰らないとお母さんがうるさいので、僕は足早に駅へと向かった。


――――


「このアプリは絶対に入れたほうがいいよ! 俺もこれで彼女作ったし」


「わかりました。入れておきますね」


 大学の先輩に勧められたアプリをスマホにインストールする。名前はえっと『性癖マッチングアプリ』か。


「このアプリさ。顔とか趣味じゃなくて性癖でマッチングすんの。だから、一発目からめっちゃ相性の良い子に会えるってわけ。俺も、会ったその日にプレイが出来てさ…… 」


 先輩はその後もペラペラと自分の彼女と自分がいかに相性抜群か話し続けた。へぇ、カップルってそういうものなんだ。


「彼女がいたほうが大学生活は楽しいぞ〜。な、やってみ。な? 」


「はい、わかりました。家に帰ったらやってみます」


「おう! また結果を教えてな! 」


 そういって先輩とは別れた。多分、結果を教えることはないだろう。そもそもあの先輩は今日の新入生歓迎会で初めて会った人だ。明日には僕の顔も忘れているだろう。いや、彼だけじゃない。今後大学で会う人も、これから社会で会う人も、僕のことなんて忘れるだろう。まあ、会う人、会う人、お母さんみたいにヒステリックに絡んでくる人だったら面倒くさいからいいけど。


 ちょっと疲れたので、僕は帰る準備を始めた。お金は事前に払っているし、一人くらい途中で帰っても誰も気づかないだろう。


 案の定、僕はスルリと店を出ることが出来た。そして、そのまま店の前に止めていた自転車に乗り、帰ろうとする。


ピロン


 自転車に乗った直後にスマホが鳴った。お母さんかな? 僕はスマホを見た。通知はさっき先輩に言われて入れた『性癖マッチングアプリ』だった。なんでもマッチングが成立したらしい。まだアカウントを作ってすらいないはずなのにマッチングが成立することもあるのか。そう思い、僕はアプリを開きマッチングした相手から届いたメッセージを確認した。


『こら! いつになったら来るのじゃ! 』


 ? なんだこれ? スパムというやつだろうか? メッセージを送ってきたアカウントの名前は”宇迦之御魂神”らしい。なんて読むんだろう?


ブーブーブー


 あ、さっきのアカウントから電話がかかってきた。こんなにすぐに通話機能が使えるんだ。そう思って電話に出る。


「はい、もしもし」


『いつになったら来るのじゃ! 』


 怒られた。ただ電話に出ただけなのに。でも、この声、どこかで聞いた事があるな。どこだっけ。


『えっ、儂、ちゃんと願いを叶えたよな? お主、ちゃんと望みの大学に行ってるよな? もう入学式から一ヶ月くらい経つのではないか? なぜ来ない? 約束を忘れてしまったのか? 』


 ああ、この一人称、この喋り方、あのとき神社にいた子か。


「やあ、君か。久しぶりだね」


『なんで普通の対応ができるのじゃ? ! ちょっとは驚け! というかお主、なんで今までメッセージを無視したのに、このアプリでは受けてくれるのじゃ? 』


「ごめんね、なんのことがわからないや」


『…… まあいい。さあ、約束を果たすときじゃ。儂の元へ来い』


「君のところっていうのは、あの神社? 」


『当たり前じゃろ! 儂、基本、あそこから外にでれんのじゃぞ? 舐めておるのか! 』


 虐待かな? 外に出してもらえないなんて可哀想な子だ。だから、変な一人称になってしまったのだろう。


「わかった、ここからだと三十分くらいかかるから、二十一時ごろつくと思うよ。待っててね」


『うぉ、ちょ、ちょっと待て! え、今から来るのか? 』


「うん」


『お主は愚か者か?! こんな暗い中で来たら危ないじゃろう! 明日来い! 明日の朝来い! 』


「明日でいいの? じゃあ明日の五時に行くよ 」


『お、おぉ、早いな…… 別に明るいうちなら何時でも良いのじゃぞ』


「いや、面倒事は早く終わらせたいしね。じゃ、また明日」


 そういって電話を切る。切る直前に男の子が「面倒じゃと!? 」とか言ってた気がする。それも明日聞けばいいか。


――――


 次の日、僕は男の子との約束通り、神社に行った。


「やっと来たか…… 待ちくたびれたぞ」


「うん、ごめんね。じゃあバイバイ」


「待て待て! なんで来てすぐに帰ろうとするのじゃ? 」


「だって、君、昨日は『来い』としか言ってないでしょ? 」


「え、お主、初めて会ったときの約束を忘れたのか? 」


 約束? ああ、そういえばこの子の目の前でおもらしするって約束してたな。


「覚えてるよ。じゃあ今から漏らすね」


 僕はおしっこを出そうとする。でも、朝起きてすぐにトイレを済ませてしまったのでなかなか出ない。一生懸命お腹に力を込めてもなかなか出ない。おもらしって難しいんだなぁ。


「阿呆! こんなところで出そうとするな! 他の者に見られるであろうが! とりあえずこっちに来い! 」


 男の子は怒った様子で神社の建物の中に向かっていく。僕は男の子の後を追う。男の子が木造の建物の扉をガラリと開けて中に入ったので、僕も一緒に入った。僕が入ると同時に扉がピシャリと閉まった。建物の見た目は完全に木造だけど自動ドアなのか。今の神社はすごいな。


「お主は驚くとか疑問に思うとか、そのたぐいの思考回路が停止しているのか? 」


「どういうこと? 」


「いや、『本殿に勝手に入っていいのかな?』とか『なんで自動で扉が閉まったんだろう? 』とか…… 」


「うーん。まあ、驚く必要があれば驚くよ? 」


 男の子はまた「えぇ……」という顔をした。僕と男の子の感覚はどうやらずれているようだ。


「まあ、まずはそこに座れ。話はそれからじゃ」


 僕は男の子にいわれるがまま、床に正座した。


「さて、ここなら儂以外誰からもお主のことを見られん。安心して粗相をするがいい」


「そうしたいけど、僕、今そんなにトイレに行きたくないんだ。だから、おもらしするのに時間がかかっちゃうよ」


 男の子は「フッ…… 」と言ってニヤけた。


「お主ぃ、儂が神であることを忘れておらんか? 人間の尿意を操るなど造作もないわ」


 そういって男の子は僕のお腹のあたりをビシッと指さした。すると突然、とてつもなくおしっこがしたくなった。


「わぁ、すごい…… おしっこ、したくなってきた」


「ホホホ、これが儂の神通力じゃ。一応、食物を司っておるからの。人の代謝に干渉するなど造作もないのじゃ」


「うん、すごいよ。じゃあ、漏らすね」


 僕は体の力を抜いてパンツにおしっこを出そうとした。


「待て待て待て! 大胆すぎるじゃろ! というか、儂に何度”待て”と言わせる気じゃ、お主! 」


「あれ、どうしたの? おもらしすればいいんだよね? 」


「そうじゃが…… 儂は人間が尿いばりを我慢しているときの表情も好きなのじゃ。じゃから、一時間、その尿意をこらえてみせよ。一時間経ったら無様に衣服に尿いばりを垂れ流すがいい」


「”いばり”って何? 」


尿にょう、小便、おしっこのことじゃ」


 へぇ、最近の小学生はおしっこのことを尿いばりって言うんだ。若者言葉ってやつかな?


「うん、わかった。一時間おしっこを我慢して、おもらしすればいいんだね」


 僕はスマホを取り出し、一時間後にタイマーを設定した。


「余裕なのも今のうちじゃぞ。そのように激しい尿意をかかえたまま一時間も我慢できるかのぉ」


 男の子はニヤニヤ笑う。僕は体をユサユサ揺らしておしっこを我慢した。


――――


ピピピピピピピピピ


 スマホが鳴り、一時間経った事を告げる。よし、もう我慢しなくていいんだね。僕は体の力を抜く。


(あれ? 出せない? )


 服を着たままおしっこをしたことなんてあまりないので、体がおしっこするのを拒否しているみたいだ。僕はお腹に力を込めて無理やりおしっこを出す。


チョロロ……


(あ、ちょっと出た)


 不思議な感じだ。ちんちんの先っぽ、パンツがじわっと濡れる。でも、それ以上は出ない。僕の意識は完全におもらしを許容している。でも、体はおもらしを拒否している。お腹がパンパンになって苦しい。ちんちんが大きくなってビクビク動いている。そんなにツライなら全部出しちゃえばいいのに、体はおもらししてくれない。変なの。出しちゃえば楽になるのに。僕はお腹をぎゅっと押した。


ショワワワワ


 思いっきり押された膀胱が収縮し、さっきより多くおしっこが出た。もうおしっこがズボンまで染みている。あと少しだ。そう思い、今度は拳を握ってお腹を殴った。


ジョパパパパパ


 今までにない量のおしっこが出た。さっきまでとは違い止まる気配がない。ボーッとしていれば後数十秒で全部出しきれるだろう。おしっこが早く出るように、僕は意識を落とした。


ショー……


 予想通り数十秒でおもらしは終わった。僕のズボンは股からお尻のあたりが色を変えていた。帰るとき見られちゃうかな? まあどうでもいいか、これで言われたことはおしまいだし。


「はい、終わったよ」


「お主、イカれておるのか?! 」


 神社で会った白髪で狐耳の男の子は本気で驚いている。どうしたんだろう? 言われた通りに一時間おしっこを我慢しておもらししたのに……


「え、なんでそんなに我慢強いのじゃ? 最初こそユラユラ揺れているから我慢しているのかと思ったが、そこからまったく仕草が変わらんではないか! 前押さえすらしないとはどういう了見じゃ! 後、一時間経った瞬間に漏らすのなんなのじゃ! 出ないからって自分で腹を押したり殴ったりするのはもう理由わけがわからん! お主、羞恥心とかないのか?! 」


 どうしよう、すごく怒ってる。どうやら僕は男の子の望みに応えられなかったようだ。


「えっと、ごめんね。君が求めていることができなくて。でも、僕、どうすればいいかわからないんだ」


「わからんと言われても…… 儂のところに来たわらべどもはみなできていたぞ。じゃから、儂は人間の本能みたいなものだと…… それとも常識が変わったのか? 今は粗相をするのは恥ずかしくないのか? そんなことないじゃろ?! な! 」


「そうだね。僕は別にどうも思わないけど、他のみんなは恥ずかしがるんじゃない? 」


 男の子は絶句している。どうしよう。満足させられなかった。怒られちゃう。でも、どうしていいかわからない。そうだ。こういうときは本人に聞けばいいんだ。


「ねえ、どんな仕草をすればいいのか教えてよ? そうしてくれたら、僕、ちゃんとやるよ」


「どんなと言われてもな。こう、もじもじと我慢をして、恥ずかしーって感じで粗相をしてくれれば」


「うーん、ごめん。言葉だけじゃわからないから、君が実演してくれないかな? 」


「はぁ! ? 」


 何を驚いているのだろう? 言葉でわからなければ行動で示さなくては伝わらない。これもやっぱり彼の感覚とは違うのかな?


「お主、儂に粗相をしろというのか? 」


「そうなるね」


「儂が神であると認識した上で願っているのか? 」


 神? そういえばこの子、会話の端々で自分のことを”神”って言ってるよな。そういう設定の子なんだろう。ここは設定に付き合ってあげよう。


「うん、そう。お願い、神様」


 僕は合掌して、頭を下げて、男の子におもらしするようにお願いした。男の子は「くぅ…… 」といって服の裾で顔を隠してしまった。


「人間に乞われては断れんからなぁ…… よし、やろう! ただし! 条件がある 」


「条件? 」


 最初に会ったときもそんな事を言っていたな。お願いに対して条件を出すのが好きな子なんだね。


「お主の願いを叶えたら…… えっとぉ、何でも一つ願いを聞いてもらうぞ! 」


 条件が思いつかなかったのかな? まあいいや。小学生のお願いだから叶えられないってことはないだろう。


「うん。約束するよ。君がおもらしするところを見せてくれたら、何でも言うことを聞くよ」


「おぉ、相変わらず狂気的な判断の速さじゃな…… では、先程のお主と同じ尿意で一時間耐え、粗相をするとしよう。儂の仕草をよく見ておくがよい! 」


 そう言って後で男の子は自分のお腹を指差す。すると、男の子の体がブルッと震えた。さっき、僕がおしっこしたくなったときと同じことをしたんだろう。無理やりおしっこをしたくさせるなんて、すごいなあ。おっと、いけない、ちゃんと観察しないと。


 男の子はあぐらをかいて、股に両手を当て、体を左右に揺らしている。息は荒く、顔はほんのり赤い。視線は斜め下を向いている。「くぅ、これは、キツイ…… 奴はこの尿意を一時間耐えていたのか…… 」と小声で呟いている。ふむ、おしっこ我慢の辛さを言葉にするのがいいみたいだ。


 僕がジッと観察していると、男の子がこっちに視線を向けた。


「お主…… 仕草を観察したいのはわかるが、その、もっと遠慮がちに見ることはできんのか? さすがに…… 恥ずかしいのでな」


「あ、ごめんね」


 僕は男の子から目を逸らす。でも、ちゃんと観察しなきゃと思い、男の子をジッと見る。男の子が僕の視線に気づき、キッと僕を睨むと僕は目を逸らす。そして、またちゃんと観察しなきゃと思い、男の子をジッと見る。それをしばらく繰り返した。


――――


「ふぅ、ふぅ、ん、っ…… はぁ」


 男の子がおしっこを我慢しだしてから一時間経った。男の子は座り方をあぐらから体育座りに変更し、太ももをギュッと閉じ、その間にある両手を締め付けていた。歯はギリッと食いしばられ、目は涙で潤み、顔は耳まで真っ赤に染まってる。頭についている真っ白な狐耳は力なくへたりこんでいた。


「くぅ、お、おい…… あとどれくらい、我慢すればよい…… ? 」


「もう一時間経ったよ 」


「そ、そうか…… では、ふぅ、粗相をしよう…… よ、よく見ておくといい…… 」


 男の子はそういって脚の間から両手を離して、体の後ろに回した。が、おもらしする気配はない。ただただプルプルと震えたまま、顔を真っ赤にして固まっている。


「? どうしたの? おもらししないの? 」


「み、皆、お主ほど潔く粗相ができるわけではないのじゃ…… しばし待て…… 」


 そっか、僕もそうだったけど、体がおもらしを許してくれないのか。じゃあちょっと手伝ってあげよう。そう思い僕は男の子のポッコリ膨らんだお腹をギュッと押した。


「おわぁ! 愚か者! お主、何をしたかわかっているのか?! 無礼じゃぞ!! 」


「だっておもらし出来ないんでしょ? だから手伝ってあげるよ」


「愚か者! 無理やりなど…… あっ」


 男の子がセリフの途中で固まった。上を向いて口をパクパクさせて、餌を欲しがっている魚みたいだ。男の子の袴は部分的に色が濃くなっている。結構な量がでちゃったみたいだ。でも、それ以上、染みは広がらない。


 そうだそうだ。どれだけおもらししようと思っても、どれだけ我慢が苦しくても、体はおもらしを許してくれない。可哀そうに。きっとこの子はおしっこがお腹にいっぱいたまってとても苦しいんだろう。助けてあげようと思い、僕は男の子のお腹を平手でパンッと打った。


 男の子は「ハウッ…… 」と言って、俯いてしまった。そして次の瞬間、大きな水音が響いた。


ジョボボボボボボボボボボボ


 おぉ、すごい水音だ。これくらい勢いよく出すのがいいんだね。さて、おもらししているときの仕草はどんな感じなのかな? 僕は男の子の仕草を観察する。


 顔は相変わらず真っ赤だ。口はポカンと開いていて、そこから「はあぁ…… 」と吐息が漏れていた。俯いているので目線はどこに向いているかわからないが、多分自分のお腹あたりを見ているのだろう。


 頭についている狐耳は時折ビクッ、ビクッと動いている。でもこれは僕には真似できないのでどうでもいいか。


 さっきまで体の後ろに回っていた手は、脚の間に戻っている。おしっこで汚れちゃうのになんで戻したんだろう?


 体勢は体育座りの状態からちょっと崩れていた。太ももはピッタリくっついているが、膝から先はハの字になっていて、体は丸まっていた。


「愚か者ぉ…… 何をしてくれたのじゃ…… こんなの、ありえんじゃろぉがぁ…… 」


 男の子がつっかえつっかえ何かを言ってきた。泣いてるのかな? なるほど、おもらししたときは泣いちゃうのがいいのね。


ショロロ ……


 ん、全部出たのかな? わぁ、すごい。男の子の周りの床は円形に色を変えていた。結構大きい円だ。それに履いていた袴もお尻の方まで部分的に色が濃くなっている。多分、今の僕のズボンみたいにぐっしょり濡れているんだろう。いっぱいおしっこを我慢していたんだろうな、というのがひと目で分かる状況だった。もしかしたら、いっぱい我慢するのが、男の子好みの仕草をするコツなのかも。


「おい! 聞いておるのか! 答えよ! 」


「あぁ、うん。ちゃんと見てたよ。ありがとう」


「いや、よく何事もなかったかの如く話せるな! お主は今、神を怒らせているのだぞ?! どうしてくれるのだ! 」


 男の子は怒ってるみたいだ。どうしよう…… とりあえず謝って、解決策を聞こう。


「えっと、ごめんなさい。どうしたら許してもらえるかな? 僕ができることなら何でもするよ」


「…… お主、最初にあったときも”何でもする”と言っていたな」


「そうだっけ? みんなに言ってるから忘れちゃったよ」


「それでは望まぬことをしろと命じられることもあるだろう。お主には、自分の意思はないのか? 」


「自分の意志? そんなのいらないよ」


 そうだ。自分の意志なんていらない。『好きにしていいよ』と言われても、その人の意思に沿わなければ難癖をつけられる。だったら、最初っから自分の意思なんて捨てて、言う通りにしていればいい。


「本当にそう思うか? 」


「うん」


 男の子は眉を潜ませて「それは…… とても、悲しいな」と呟いた。一体、何が悲しいんだろう?


 男の子はしばし俯いたあとで「よし! 」と言って顔を上げた。


「決めたぞ! お主が今日から儂と一緒に生活するのだ! そして、儂がお主に自分の感情を思い出させてやろう! 」


 へぇ、それがお願いか。そうすると一つ聞いておかないといけないことがあるな。


「わかったよ。で、どっちの家に住むの? どっちにせよ君のご両親に挨拶しないと…… 」


「ちょっとは疑問を持て! どう考えても一旦驚くところだろう! 何を当然のように神との共同生活を受け入れているのだ! 」


「だって、さっき”何でも一つ願いを聞く”って君と約束したから」


「そうじゃけど…… ちょっとは抵抗をせよ」


 なんで決まっていることに抵抗しなきゃいけないんだろう? そんなの時間の無駄だし、面倒くさい。


「まあよい、住むのはここじゃ。別に何も用意する必要はない。儂が創り出してやろう」


「うん、ありがとう。じゃあ君のお家に行こっか」


「いや、じゃからここが家じゃ。お主はこの本殿で寝泊まりするのじゃ」


「…… 君、捨て子? 」


「違うわ! か〜みぃ! 儂はここの御祭神! だから本殿が儂の家なのじゃ! 」


  凝った設定だね。設定に付き合ってあげたいけど、さすがにこれは了承できない。神主さんに見つかったら怒られちゃうもんね。


「うんうん、神様なのはわかったよ。じゃあ帰ろ」


「お主、信じておらんな…… 」


「ううん、信じてるよ。さ、帰ろ」


 男の子は目を細めて、床や僕のズボン、自分の袴を指さした。そうするとさっきまで広がっていたおしっこの染みが全部消えた。おぉ、もう乾いたのか。今日暑いもんね。


「多分、お主はこれでも信じんだろうから、しばらくはここから出れんようにしておくぞ」


 そういって男の子は扉の方を指さした。その瞬間、扉がなくなった。これは困ったぞ。あの扉がないとここから出られない。明日は休みだからいいけど、明後日は講義があるのに……


「さて、今日から楽しい共同生活じゃ。必ずお主に自分の意思を思い出させてやるからの」


「うーん。いいけど、明後日は出してほしいな。講義があるし…… 」


「閉じ込められて真っ先にするのが講義の心配なのおかしいじゃろ?! 」


 そんなに変なことかな? ともかく、僕はこの神様を名乗る男の子と神社の本殿に住むことになった。あーあ、明後日から大学に行くのに、三十分もかかっちゃうのか。面倒くさいな……


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