第3話:「柔道の締め技で気絶しておもらししたい! 」って女の人がオリンピック選手だった話

『今度の日曜、いたしませんか? 場所はこちらで用意しますので直接いらしてください。可能ならば道着持参でお願いします。』


 スマホを放り投げ「よぉし! 」と自宅のベッドで大声を出してガッツポーズをした。よし、これでついに理想の女性に会える。嬉しさで踊りだしそうだ。


 さっきのメッセージは『性癖マッチングアプリ』というアプリのメッセージ機能で届いたものだ。ここ数日俺はメッセージを返してくれた女性『ハカタ』さんと頻繁にやりとりをして、ついに会う約束までこぎつけた。やった! これで、中学のときに見た夢が叶う。俺はあのときのことを思い出す。


 中学二年生の夏、柔道をやっていた兄貴の引退試合で俺は奇跡を見た。


 それは兄貴の試合とは全く関係ない中学二年 女子 44kg以下級の決勝戦だった。優勢だった女の子がちょっとした油断で絞め技を極められていた。女の子は絞め手を必死に引っ張り、少しでも時間を稼ごうとしていた。でも、あんなにキレイに決まった技を外すのは無理だと素人の俺でもわかった。段々女の子の手から力が抜けていき、最後には完全に意識を失っていた。


 そこまではまあ、柔道の大会ならよくあることだ。奇跡が起きたのはその後だ。気を失った子の柔道着の股下が色を変えた。それだけではない。畳の上に正体不明の水たまりが現れた。絞めていた子のほうは慌てて気を失った子から距離を取った。審判員も顧問と思われるおじさんもみんな固まっていた。しばらくみんな女の子の下に水たまりが広がるのを黙ってみていた。


 水たまりの広がりが止まると、気を失っていた女の子が目を覚ました。そして自分の股間がぐっしょり濡れていることに気づき、顔に手をあて、泣き出してしまった。


 その後水たまりがキレイに掃除されるまで、その試合場は使われなかった。俺はその試合が行われていない試合場に釘付けになっていた。そしてこう思った「俺もいつか絞め技で女の子をおもらしさせたい」と。


 高校生になってから俺は柔道部に入った。


 高校三年間、立ち技はイマイチだったが、寝技、特に絞め技は決まればほぼ外す術がないと言われていた。大会でもいい成績を残していたので、大学でも柔道を続けるのかと聞かれたが答えはもちろんノーだった。なぜなら、普通に柔道をしていて俺の夢「絞め技で女の子をおもらしさせる」は実現不可能だと気づいたからだ。


 いや、冷静に考えれば、男である俺が女子と組むことが不可能だとわかったはずなのだが、柔道を始めたときは練習なら組めると思い込んでいたのだ。現実世界では男子は男子で、女子は女子で、練習するので女子に締め技をかける機会はゼロだった。


 柔道を始めた唯一のモチベーションがなくなった今、柔道を続ける意味はない。大学進学と同時に俺は柔道とはスッパリ縁を切った。


 だが、夢を諦めきれなかった俺は『性癖マッチングアプリ』に手を出した。そしてついに完璧にマッチした相手に出会えたというわけだ。俺は彼女に会えることにワクワクしながら返事を書き、送った。


『ぜひお願いします! 今から楽しみですw』と。


――――


『こちらが建物の住所です。カギは空いていますので入ってきてください』


 メッセージの後、すぐに住所が送られてきた。地図アプリで見ると、ここから歩いて五分といったところだ。俺は『了解です! 五分くらいで着くので少々お待ち下さいm(_ _)m』とメッセージを送ってから、小走りで指定された場所へ向かう。チラッと見えた建物情報には『片羽かたは塾』という名前が表示されていた。学習塾か何かかな? まぁ、そんなことはどうでもいい。俺は高校三年間で磨き上げた締め技を女子に使っておもらしさせられればそれでいいのだから。


 ウキウキ気分で走っていたら思ったより早く目的地についてしまった。


 目の前にあるのは古風な感じでボロっちい建物だ。大きな看板に『片羽塾』と書いてあった。さっき見た建物名なので場所は間違っていないだろう。でも、今からここでするのか…… 声とか聞かれるんじゃないか?


 ちょっとだけ不安に思ったがとりあえず建物に入る。『ハカタ』さんのメッセージ通り、正面扉のカギは開いていた。扉を開けて中に入ると、正面に畳敷きの広い部屋があり、部屋の真ん中には黒髪をお団子ヘアにして柔道服を着た女性が目をつぶって正座していた。


 女性は扉の音に気づいて目を開けた。そして、こちらの姿を確認するやいなやニコッと微笑んだ。


「はじめまして、『トライ』さんですね? 『ハカタ』です。本日はよろしくお願いします」


「あ、はい…… 『トライ』です。よろしく…… 」


「履物はそちらで脱いでお上がりください。あ、もちろん道場に入るときは一礼をお願いしますね」


 俺は彼女の言う通りに靴を脱ぎ、一礼してから畳敷きの部屋に入った。部屋には赤や緑の畳が敷かれている。高校三年間で嫌というほどみた柔道場だ。


「ここ、うちの道場なんです。今日は稽古はお休みなので誰もいませんけど」


「そうなんですね。あ、ということはあなたの本名は羽片さん? 」


「はい、片羽かたは えりと申します。ハンドルネームの『ハカタ』は名前の漢字を入れ替えたものです」


 片羽 襟。どこかで聞いた名前だ。そういえば顔もどこかで見たことがある気が…… あっ!


「えっ! ? 『ハカタ』さんってもしかしてこの間のオリンピックで金メダルを獲った片羽 襟選手! ? 」


「おや、バレてしまいましたか…… 」


 そりゃ気づくだろう。高校時代から無敗のまま、オリンピックに出場し、無敗のまま金メダルを獲った。誰が入ったか『400戦無敗の女』。きっちりした性格のせいかあまりテレビのバラエティ番組とかでは見ないけど、アスリートとしては超がつく有名人だ。そんな有名人が今俺の目の前にいて、しかもこれから俺に締め技をかけられておもらししたいといっているのだ。…… いいのかこれ?


「では『トライ』さんはそちらの更衣室で着替えてください。私は準備をしておきますので」


 そういって『ハカタ』さん、いや片羽さんはどこかへ行ってしまった。俺はどうしていいかわからなかったので、とりあえず片羽さんに言われるがまま更衣室で道着に着替えた。


 着替え終わり、更衣室を出て再び道場に戻ると、道場には2Lのペットボトルでスポーツドリンクを一気飲みしている片羽さんがいた。片羽さんはペットボトルの飲料を飲み終えるとニコッと笑った。


「着替え終わりましたね? ではこちらの準備が整うまでちょっと待っていてください。そうだ、こちらで少し話しませんか? 」


 片羽さんはその場に腰を下ろし、自分の横をポンポンと叩いた。多分、そこへ来いということなのだろう。俺は再び片羽さんの指示に従い行動した。俺が正座したのを見て片羽さんはフフッと笑って「安座でいいですよ」といってきた。


「それでは、えっと、まず本当のお名前を教えていただけますか? もしイヤでしたら、無理強いはしませんが…… 」


「いえ、大丈夫です。えっと、俺は三角みかど 交一こういちです。」


「そうですか、では交一さんとお呼びしますね」


 いきなり名前呼びか。ちょっと照れるな。俺は調子に乗って「だったら俺も襟さんって呼ばせてもらいます! 」と言おうとしたが、その前に片羽さんが話し始めてしまった。


「交一さん、ちょっと私の昔話に付き合ってもらってもいいですか? 」


「はい。全然問題ないです」


「ありがとうございます。それじゃあ、はじまりはじまり〜」


 俺の隣の片羽さんは、はにかんでいる。テレビの映像で見た鬼みたいな顔をした人とは別人だ。多分、こっちの茶目っ気があるのが素の片羽さんなんだろう。片羽さんはコホンと咳払いをしてから話し始めた。


「私ね、中学二年生のとき、公式戦で初めて負けちゃったんです。相手の子が強かったのもあるんですけど、その日はお父様が見に来ていて、私はとても緊張していました。


で、のどが渇いちゃって、さっきみたいにペットボトルの飲み物を一気に飲み干しました。その水分が運悪く決勝戦が始まってすぐに降りてきちゃいまして、おしっこを我慢しながら決勝を戦うことになったんです。


試合終盤、ポイントでは私が勝っていたので後は耐えるだけだったんですが、相手が締め技をかけようとしたとき、ちょっとだけおしっこがでちゃったんです。


そのとき私にスキができたみたいで、相手は私の首を締め始めて、私も負けたくないし、ここで気を失ったらおもらししちゃうしで、必死に抵抗しました。


でも、抵抗のかいなく私は負けてしまったようで、目が覚めたら、私はおしっこの水たまりの上にいました。


トイレでしか嗅いだことのないツーンとしたにおい、さっきまでなんともなかったのにいきなりビショビショになっている道着、どうしていいかわからずうろたえている周りの人、ぜーんぶ私が気絶しておもらししちゃったことを物語ってました。


その瞬間は負けちゃったことが悔しくて泣いちゃいましたけど、ホントはとっても気持ちよかったんです。あんなに我慢してたおしっこが一瞬で全部なくなった爽快感。締め技で段々意識が遠のく感覚。どっちも苦しいのがフッと消える感じがして、私あの感覚の虜になっちゃんたんです」


 「長々とごめんなさい。ひいちゃいましたか? 」といって片羽さんはペロッと舌をだした。


「いえ、全然引いてません。むしろ…… その、俺がおもらしに目覚めたきっかけの出来事にすっごく似てて、めっちゃ興奮しました! 」


 言った後で俺は自分がどれだけ自分が気持ち悪かったか自覚して「すみません! キモかったですよね…… 」と謝った。片羽さんはニコニコ笑っている。


「全然気持ち悪くないですよ。むしろ、私みたいな人を見て目覚めたなんて…… もしかしたら私のおもらしで目覚めちゃった人がいるかもしれないんですね…… ちょっと興奮しちゃいます」


 片羽さんは俺と同じかそれ以上に変態さんみたいだ。まあ、おもらしプレイがしたいなんていうくらいだから元々変態だったのかもな。


ブルッ


 突然、片羽さんが震えた。俺は心配になって片羽さんに目を向ける。


「すみません、もう漏れちゃいそうで…… お願いしていいですか? 」


 そう言って彼女は正座をしてこちらに向き合う。俺も正座になり、彼女に向き合った。二人とも正座したことを確認してから片羽さんは「礼」と言った。それを合図に俺達は一礼をする。これから始まるのは柔道の試合ではない。ただのおもらしプレイだ。でも、一応礼をする。それがアスリートとしての俺達の最低限の矜持だった。


「さて、このまま何もせずに締められて落ちてもわたしはおもらしするでしょう。が、それでは芸がありません。なので、ちょっとだけ寝技の攻防をしましょう。構いませんか? 」


「はい、片羽さんが望むなら」


 そういって俺達は膝立ちになる。片羽さんは膝立ちになった後で、「私、性癖はおかしいですが強いですよ? なんたってオリンピック選手ですから! 」とはにかんだ。俺も負けじと「俺だって寝技は超人級と言われた男です! 」と強がりを言う。


 さて、現実的に考えて俺がオリンピック選手の片羽さんに勝つのは不可能だ。ゆえに彼女はどこかで手を抜いて俺が締め技をかけるスキを作るのだろう。でも、それじゃあ面白くない。負けるはずがない相手に締め技をかけられ無様におもらししてしまう。俺はそんな片羽さんが見たいのだ。なので……


「いきますよ! 片羽さん! 」


 そういって俺は片羽さんのお腹を思い切り押した。おしっこがたまって膨らんでいるお腹を押せばきっとスキができると考えての行動だ。片羽さんは予想通り「キャア! 」と悲鳴を上げて前かがみになった。もちろん俺はそのスキを見逃さない。


 前かがみになった片羽さんの首に俺はラリアットのように左腕を叩きつけ、その勢いのまま片羽さんの右側から後ろに回り込んだ。そして、自分の左腕に右腕を絡め、自分の方へギュッと引き寄せた。


 いわゆる『裸絞め』の形だ。他の締め技に比べ、相手の道着を使わないので服を緩めて脱出ということが出来ない。俺のお気に入りの技だ。


 片羽さんはあわてて絞め手を取るが、男女の力の差は覆せないようで、あまり効果はない。このまま締め上げれば片羽さんは意識を失い、おもらしをしてしまうだろう。俺は少しずつ力を加えながら片羽さんに話しかける。


「片羽さん、どんな気持ちですか? 絶対に勝てると思ってた相手になす術なく締められちゃって。しかもおしっこ出ちゃいそうで。このまま俺が力をいれたら、片羽さんおもらししちゃいますよ? 」


 片羽さんは必死に絞め手を取り、なんとか逃げ出そうとしている。俺の問いかけに答える余裕はないみたいだ。というか、首を絞めているから喋れなくて当然か。


「さ、片羽さん。これから締め上げちゃいますね。覚悟はいいですか? 」


 片羽さんは一生懸命、息をしようと手足をばたばたさせている。ヤッバ、なんか別の扉が開きそう。でも、今日のところは当初の目的を達成しようと思い、片羽さんの細い首をキュッと締め上げる。


「あっ…… あ」


 うめき声のあと、ばたばた動いていた片羽さんの全身からフッと力が抜けた。どうやら気絶したようだ。ということは……



ショワワワワワワワワ


 やった! おもらしだ! 片羽さんが、オリンピックにも出た有名な柔道家が、俺の締め技で気を失っておもらしした! ウォォ、こいつはすごいぞぉ!


ショロロロロロロロ


 片羽さんのおしっこは道着を貫通し、畳に水たまりを形成する。片羽さんの後ろで絞めている俺の道着も片羽さんのおしっこで濡れていくが全然気持ち悪くない。むしろ、段々道着が浄化されていく感じすらある。


ショロロロ……


 三十秒くらい経っただろうか? 片羽さんからしていた水音が止まった。全部、出し切ったのだろう。俺は片羽さんの頬をパンパンと叩く。片羽さんは「…… ンッ」といって目を覚ました。


「片羽さん、どうでしたか? 」


「あ、え? 」


 片羽さん、まだ意識がもうろうとしているようだ。俺はとりあえず片羽さんの首から手を離して、距離をとる。片羽さんはまだボーッとしておしっこの水たまりにたたずんでいる。


「片羽さん? 大丈夫ですか? 」


「え、あ、はい、大丈夫です。すみません、気持ちが良すぎて、ボーッとしてしまって」


 ホッと一息ついてから。片羽さんはこちらをまっすぐ見つめた。


「交一さん、あの、ありがとうございます。おかげでとっても気持ちよくなれました。ただ…… 」


「ただ? 」


「あれは! お腹を押すのは卑怯です! スポーツマンとしてあるまじき行為です! 」


 片羽さんは顔を真っ赤にして怒っている。負けたのが相当悔しいみたいだ。


「いいじゃないですか、寝技の勝敗なんてプレイに関係ないんだから…… 」


「ダメです! あそこは私がリードして、わざとスキを見せて『あ〜、負けちゃう〜。でも、おしっこ我慢してるから仕方ない〜』って気持ちで負けたかったんです! これじゃあ私が交一さんに全く歯が立たず負けちゃったみたいじゃないですか! 」


「まあ、結果だけ見ると片羽さんは何も出来なかったわけで…… 」


「もう! 今度やるときはお腹を押すのは禁止します! 正々堂々、私に負けてください! 」


 この人、意外と負けず嫌いだな。あとちょっと面倒くさい。…… ん、そういえば。


「あの、片羽さん今『今度やるとき』って言いました? 」


「? 当然じゃないですか。これから互いの予定があったときまた同じことをしましょう」


「そ、それは、俺が、片羽さんと、その、付き合うという…… 」


「はい。何か問題が? 」


 おいおいマジかよ。オリンピック選手と付き合うことになっちゃったよ。どうしよ、俺も週刊誌とか気にしたほうがいいのかな?


「あ、そうだ。頻繁にあっても怪しまれないように、交一さんはうちの道場に入ってください。家もこの近くなんですよね? 」


「えぇ、たしかに家は近いですけど、俺もう柔道は…… 」


「じゃあ、付き合う話はなしです。私もオリンピックに出場して以来、マスコミの方がついてくるので、交一さんと会っているところを見られては…… 」


「あ〜、わかりましたよ! 入ればいいんでしょ? ! その代わり、真面目に稽古はしませんよ! 」


「フフッ、最初はそれでいいですよ。じゃあ、後片付けしましょうか。手伝ってください」


 そういって片羽さんはビショビショの道着で立ち上がり、倉庫の方へ向かった。多分、そっちに掃除用具があるのだろう。俺もその後に続いて立ち上がる。俺の道着から、片羽さんのおしっこがボタタと滴り落ちた。…… この道着、しばらく洗濯しないでいいかな。くだらないことを考えながら、俺は掃除を手伝うため走った。 


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