第5話 「雨の日」

雨が酷く降っている。私は今、傘もささずにあるアパートの前にいる。誰も居ないアパート、此処なら。消えられる。親戚もクラスメイトも全部全部苦くて吐きそうで嫌になった。だから。

「┈┈君、どうかした?このアパートに用?」

誰、この人。だけど、なんだろう。この人甘い感じがする。

「良かったら話聞くよ?来る?」

甘い蜜の香り、私の空っぽの花瓶を埋めてくれるのかな?行こう。もうどうでもいい。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

部屋に入ると、タオルを貸してくれた。髪とお洋服を拭く。

「外が苦くて、もう苦しくて堪らなくて。このアパートで消えようと、したの」

「そっか、辛かったんだね」

その人は私の頭を撫でてくれた。甘くて優しくて、瓶が埋まっていく。涙が溢れる。そっか、やっと見つけた。ここが私の居場所なんだ。

「お名前教えてくれるかい?俺はカナタだよ。」

「私、は、桃果」

「よろしくね!桃果!」

私は一人暮らしをしている事、その家にも帰りたくない事、此処に住まわせて欲しい事をお話した。カナタは快く受け入れてくれた。明日、衣服類を一緒に取りに行くことになった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

私の部屋の中へ入り、キャリーケースの中に衣服類を詰め込んだ。パレットナイフ、お財布、パソコンも中に詰めた。フリル付きのポーチに飴を詰め込む。桃、葡萄、苺、檸檬。

「終わった?大丈夫そう?」

「うん大丈夫。終わったよ。さよなら、私の枯れ果てた部屋。」

そう私が言った後、私達は二度と帰らない部屋を後にし、私の新しい居場所へ向かった。

嬉しかった。これからはカナタと、甘い蜜に溺れながら暮らす事が出来るんだ!これ程嬉しい事は無い!外は苦くて堪らない、早く行きたいな。私の居場所へ。

┈これから始まる、甘くて苦い日々へ。進んで行った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る