第2話 ユウタ、アイディアを閃く
旧市街でも特に寂れた地区。その中に見つけた空き家の中で。
まったく仕事を見つけられなかった俺は途方に暮れていた。
「くそ……っ。どいつもこいつも旧市街の孤児ってだけで門前払いしやがって。話を聞くくらいしてくれたっていいじゃないか。そんなに余裕がないのか?」
若木園を卒業してから、俺はすぐに方々を訪ねて仕事を探し回った。
仕事の選り好みなんて一切しなかった。
そんな余裕がある訳もないからだ。
どれだけキツイ仕事だろうと頑張るつもりでいたし、実際そういう仕事をしている場所も何十件か訪ねたけれど、何処も取り付く島もなく追い返されてしまった。
まるでどうしようもないくらいに汚い物を見るような、ひどく蔑んだ目で。
そして――他のどんな場所を訪ねようとも、その扱いは変わらなかった。
――使えない人間を雇う余裕なんてウチにはないよ!
――孤児なんて怖くて雇えないよ。商品を盗むかもしれないじゃないか。
――そんな汚らしい身形じゃとても表に出す事が出来ない。帰ってくれ。
等々。何処に行っても手酷く追っ払われた。何処に行っても、だ。
「旧市街出身の孤児が嫌われてるのは知ってたけど、ここまでなんて」
想定が甘かったと言わざるを得ない。なにせこの現実に直面するまで、俺は“嫌われていてもなんとかなるだろ。信用を勝ち取るまで頑張るだけさ”なんて甘い事を考えていた。しかし実際はこの状況。そもそも雇ってくれないとは思わなかった。
だが泣き言を言う暇はない。自身の生活と弟妹達の未来が懸かっているのだ。とにかく低賃金でもいいから仕事を見つけないと、このままでは生活もままならない。
「兄さんや姉さん達もこんな扱いを受けていたのかな……」
思い起こされるのは、かつて若木園で一緒に暮らしていた兄や姉の事。
俺よりも年齢が上だった彼らは当然俺よりも先に若木園を卒業している。出発の日にいつか成功して迎えに来ると言って、結局一度も戻って来る事はなかった彼ら。
当時のあの人達も、今の俺と同じような扱いを受けたのだろうか。
……きっと受けたのだろうな。なにせ条件はまったく同じなのだ。
彼らが生きているかどうかすらも分からない。コネもスキルもない孤児が気楽に生きていけるほど、ミユキガワ市での生活は優しくないからだ。そして若木園に迎えに来なかったという事は、少なくとも成功する事は出来なかったという事だ。
兄姉を頼る事も出来そうにない。……そもそも居場所すら分からないけれど。
「……ははっ。なけなしのお金も尽きた。明日からは飯抜きか」
若木園で暮らしながら、落ちている物を拾ったり街の人から簡単な依頼を請け負ったりしてなんとか稼いだ5000エンだった。しかしそれももう尽きてしまった。
残りのお金はたったの7エン。これだけでは一食分にすらなりはしない。
所詮、孤児が貯められるお金じゃこの程度が限界、って事か。
ははっ。と、口から力のない笑いがこぼれ落ちた。
「なんだか疲れたな……。少し、休むか」
今は何もしたくないし、何も考えたくない。
外から見られないこの場所なら、少しは安心して身体を休められる。
俺は埃っぽい板張りの床に横になって、ゆっくりと目を閉じた。
「う、ん? あれは……なんだ? なにかが動いているような……」
それから少し時間が過ぎ。物音一つしない空間に嫌気が差してなんとなく薄目を開けた俺の視界に、何かが映った。古びた床の隙間からチラリと何かが覗いている。
「これは……紙? いや、広告チラシか。しかも随分と古い……」
床板を外して手に取ってみると――それは紙だった。
古い広告チラシだ。それも1997年というかなりの年代物。
どうやら隙間風か何かに吹かれて動いていたらしい。
屋内なのに風が吹くなんて、流石旧市街のボロ小屋。
結構古い建物の若木園だってここまで酷くはなかった。
やたらとギラついたこのチラシには、派手な字でこう書かれていた。
“ダンジョンに潜って一攫千金を目指そう! 凶悪なモンスターを倒して貴方も大富豪に! 力強く頼もしい姿を見せれば女性からモテる事間違いなし! 我々ヒラガサキ財団と共に、貴方も楽しく、面白く、愉快な人生を歩んでみませんか!?”
「ダンジョン……。――そうかっ、ダンジョンっていう手があったのか!」
まるで曇り切った視界が開けたような気分。それほどの衝撃があった。
――そうだ、ダンジョンなら俺でも稼ぐ事が出来るかもしれない! どうして今まで気付かなかったのだろうか。解決策はちゃんと手の届く場所にあったのに!
ダンジョンは簡単に言えば鉱山だ。様々な資源を無限に産出する金鉱山。
大きさは様々。産出する資源も様々で、唯一無二の特徴を持ってある日突然何もない場所に現れる。そんな謎だらけの不思議な宝の山がダンジョンという存在だ。
鉱山との違いは内部に危険なモンスターが存在している事。モンスターがいる所為でどんな大企業も安定した資源採掘が行えないのは有名な話で、だからこそダンジョンを所有している企業は資源を得る為、一般の採掘者を受け入れている事が多い。
そして――ダンジョンに入るのに身分が考慮される事は一切ない!
労働力を減らさない為なんだろうな。例え俺みたいな孤児でも、ダンジョンに入るのを拒まれる事はない。……もちろん、見下されない訳ではないらしいけど。
危険はある。ダンジョンに潜ったきり出て来ないなんてのはザラだ。
知識も経験もない孤児がモンスターに殺される確率はとても高い。
けれどダンジョンなら旧市街出身でも問題なく入る事が出来て、稼ぎだって自分の努力次第で幾らでも上を目指せる。なんなら一攫千金も狙えるかもしれない。
「ダンジョンで貴重なお宝を発見したって話も、結構聞くしな」
なんでもこの世の常識を覆すような性能を持っているんだとか。
例えば無限にお酒を出し続ける瓢箪とか、テーブルに敷いて注文するとその通りの食べ物を出してくれるテーブルクロスだとか。他にも色々な噂がある。
中には世界地図を書き換えてしまった槍、というのも存在しているらしい。
まあ……そこまでいくと流石に眉唾物だとは思うけどな。
でも、そんな天恵具の一つでも見つけられれば状況は一気に変わる。
売れば大金が手に入るだろうし、物によっては自分で使ってお金を稼ぐのもありかもしれない。弟妹達の誰かに使わせる、という選択肢もあるだろう。
可能性は無限大だ。少なくとも貧乏から脱せられるのは間違いない。
「よし、こうしちゃいられない……! すぐにでもダンジョンに行こう!」
あんまりモタモタしていると折角の稼ぎを逃してしまうかもしれない!
それに――食料がなくなればダンジョンで活動する事も出来なくなる!
当座の資金を稼ぐ為に、俺はすぐに建物を出てダンジョンへと向かった。
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