目指せ大富豪生活! ~ダンジョンに潜って一発逆転を目指す!~

雨丸 令

1部~

1部 初めてのダンジョン

第1話 ユウタ、仕事を探す

 どんよりとした曇天のある日、俺は孤児院を出る事になった。


「ごめんね、ユウタ。こんな追い出すような事になって」

「謝らなくていいよ母さん。孤児院もあんまり裕福じゃないのは分かってるし、それに弟妹達の食べ物を奪う訳にはいかないから。これは仕方がない事なんだよ」


 そう言って女性――孤児院『若木園』を運営している、俺達孤児の母さん。名前はヤヨイ――は、悲しそうな表情で何度も何度も俺に頭を下げてきた。


 ただ俺からすれば、いずれこうなるのは分かり切っていた事だ。


 若木園の運営状況は決して余裕があるとは言えず、ヤヨイ母さんが必死に頭を悩ませながら、どうにか少しでも状況を良くしようと努力する姿をいつも見てきた。時には自分の食費さえ限界まで切り詰め、ふらふらと倒れそうになっているところも。


 その後ろ姿を見てきたから、仕方ないなと割り切る事も出来た。

 それに……母さんにこれ以上負担を掛けるのは心苦しかったし、丁度いい。


「兄さんや姉さん達だって通った道だ。俺も、精一杯頑張ってみせるさ」

「ごめんね、ユウタ。本当にごめんね……っ!」


 俺が精一杯の強がりを言えば、ヤヨイ母さんは泣き崩れてしまった。


 ……うーん、困ったな。母さんを泣かせるつもりはなかったんだけどな。これじゃあすぐに出発出来そうにない。色々行動するのに時間が必要なんだけど。


「ユウタにいちゃん……」「ゆうた、おにいちゃん……っ」


 そんな事を考えていると、二人の弟妹がすぐ近くまで来ていた。


 しっかり者のショウと、お兄ちゃんっ子のノノカだ。


 ふたりとも俺を見て泣きそうになっている。特にノノカなんて、今にも涙腺が崩壊してしまいそうだ。こうして見ていると、泣き虫だった幼い頃の事を思い出す。


 あの頃は可愛いだけだったけど、ふたりともすっかり大きくなったな。

 ……いや本当に大きくなった。ふたりとも俺より大きくないか?


「ショウ、ノノカ。しばらくお別れだな。待ってろよ? 俺は必ず稼げる仕事を見つけ出して、すぐにお前達を迎えに来てやるからな。それまでの辛抱だ。……これからはお前達がここの年長だ。しっかり弟妹達の面倒を見るんだぞ?」


 本当はずっとみんなと一緒に暮らしていたい。離れたくなんてない。

 そんな気持ちに蓋をして、俺は笑いながら二人にそう言った。


「うん……っ、約束する!」「ちゃんと面倒見るから、だから……っ」


 ショウは歯を食いしばって頷いてくれたが。ノノカはダメそうだった。

 ……おいおい。こっちだって必死に堪えてるのに、泣かないでくれよ。


「それ以上言わないでくれ、ノノカ。……まったく。大きくなっても全然兄離れができないな、お前は。見掛けは随分大きく育ったのに、中身は子供のままなのか? 大丈夫さ。離れるのは少しの間だけ。すぐにまた一緒に暮らせる。保証するよ」


 そう言いながらグリグリ頭を撫でてやれば、ノノカは泣きながら頷いた。


 ……うん。これ以上はダメだな。これ以上こいつらと一緒にいれば、ここから出て行く決心が鈍っちまう。ずっとこいつら家族と一緒にいたくなってしまう。


 それはダメだ。そんな事をすれば若木園はすぐに破綻してしまう。


 15歳になった子供は必ず若木園を出て行くという伝統があるから、若木園の経営はギリギリのところで持ち堪えているんだ。兄姉の犠牲によって守られてきたこの伝統を、これからも弟妹を守り続けるこの伝統を、俺が台無しにする事は出来ない。


 俺は今日ここを卒業し、独り立ちをする。これは決まっている事だ。


「……じゃあ、俺はそろそろ行くよ」


 名残惜しい気持ちを押し隠し、俺はショウとノノカから離れた。


「ヤヨイ母さん。ショウ。ノノカ。それに他のみんなも。今までありがとう。俺は必ず大きな人間になってここへ帰って来る。それまでのお別れだ」


 若木園とヤヨイ母さん、それと弟妹達に背中を向ける。

 俺はそのまま、荒れ果てた街の中へと一歩を踏み出した。


「――行ってきます!」

「「「いってらっしゃい! ユウタ(お(にいちゃん)っ!」」」





 ミユキガワ市の旧市街を歩きながら、俺はこれからの事に思いを馳せた。


「さて。まずはとにかく生活の基盤を作らないと、何も始められないな」


 安定した収入と住居。まずはこれをどうにか手に入れなければ。


 弟妹達と一緒に幸せに暮らすのが俺の望みではあるけれど、一緒に暮らす為に貧しい暮らしを強いるようじゃ本末転倒。現実と理想。順番を間違えてはいけない。


 まずは土台――つまり俺の生活を安定させる必要がある。


「雇ってくれる所があるかどうか……いや、なくても見つける。そうだろ、俺?」


 ミユキガワ市において旧市街出身、それも孤児の評価はとても低い。

 ただでさえ荒廃した旧市街の生まれで常識知らずの野蛮人というレッテルを張られてしまうのに、孤児は道徳のない犯罪者というイメージが広がっているからだ。


 雇ってくれる所など万に一つあれば奇跡。そう覚悟して行動する必要がある。


「絶対に成功する! 俺は成功してみせるぞ……っ! 応援しててくれ、みんな!」


 仕事を手に入れる為には――ひたすら自分を売り込んでいくしかない!

 例えそれで、どれだけ沢山の非難と嘲笑を浴びる事になっても!


 贅沢な暮らしをする為、なにより弟妹達に幸せな生活を送らせてあげる為! 例えどんなに大変な仕事であろうと就職して、安定した給料を手に入れてみせるぞ!


「俺は絶対にやってやる! やってやるぞ!! うぉおおおおおおっ!!!」


 今日から頼れる人はおらず、帰る家すら最早ない。一人きりだ。

 次々と湧き上がる不安と恐怖に打ち勝つ為、俺は雄叫びを上げた。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 読んでいただき、ありがとうございます!

 よければ、☆☆☆、フォロー、レビュー等をお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る