第二十集:初めから
祝言から僅か三か月後。
中小
「二人は大丈夫だったの……?」
「
第一報を聞きすぐに兵を率いて駆け付けた
「すでに連合軍も立ち去ってはいたものの、その足跡が向かっている先はおそらく……」
「
「助けに行かなくちゃ!」
「今、
「それじゃ間に合わないよ。すぐに行ってあげないと、このままじゃ……、このままじゃ、
「そういうと思ったから、止めに来たよ」
門の横に、
「どうして? どうして止めるの」
「私にとってあの二人は親友を傷つける存在で、救いたと思わないからだよ」
「でも」と、
「その親友が助けたいと望むならば、手を貸してもいい」
悲しそうな笑み。
「ありがとう。
「あら、私達もいるのだけれど」
「みんな……」
「今、
「学友組の諸君、大人には相談してくれないのかな」
「
「だが、心配はいらないと兄さんは書いている。むしろ、傷つけないように気を付ける、と」
「
そして、全員を見つめながら言う。
「四大
「あなた達を信じています。だから、私達のことも信じてください」
学友組は二人の宗主に
六人は戦闘に適した服に着替え、すぐに空へと飛び立った。
青梅は頷き、突風を巻き起こしながら飛んで行った。
「みんな、限界ギリギリまで上昇して!」
「我が求めに応じて召されよ、
「全員を乗せ、
隼がみんなの身体の下に入る。
「目を瞑って掴まって!」
一斉に滑空が始まった。
まともに息が出来ない。
凍てつく鋭い空気が肺を刺す。
それでも、これなら追いつける。
救える。
何度か平行飛行と上昇、滑空を繰り返しながら四時間。
「
一斉に飛び降り、高度を調節して隊列の先頭へ。
「追いついたか。青梅には斥候に出てもらっている。まだ敵の総勢がまだわからなくてな」
「私達も一緒に……」
「おい!」
「
みんなが空を駆ける。
「式神を出すのに霊力を使っただけ。すぐに回復する。今は急ごう」
少しして青梅が戻ってきた。
「戦闘特化の者は多くありませんが、宗主や門下生も兵士に換算すると、その総勢は六十万です」
全員が息をのんだ。
「六十万だと……? そうまでして
ただ、全員どこかで感じていた。
いったい、敵は誰なのだろう、と。
「
「どんな結末になるかはわからない。でも、今出来ることをしなくちゃ、きっと後悔する」
「見えたぞ。あれが連合軍の
「大将は誰だ。話をさせろ」
すると、殿についている兵一万が一斉に振り返った。
「良家の御子息、御息女方。……お前たちは正義の味方のつもりか?」
矢が放たれた。
「紅梅」
紅梅の
「我らを阻む者は、それが例え四大
兵たちは各
「若様、ここは私達で食い止めます。皆様と共に前線へお向かい下さい!」
「私達が道を作る。みんな後ろをついて来て」
その横を
「お前達、無理はするな!」
「紅梅、
その後も連合軍の妨害は続いたが、白梅も含めた七人で強行突破していった。
「先頭が見え……」
全員でその横に並ぶ。
「ど、どういうこと」
「
視線を感じ、全員がそっちを見た。
「来てくれたんだ。で、どっちの味方なの?」
「
その目は以前の気弱で優しい
刹那、白い光が横切った。
「かはっ……」
それは
「
どこにも安全な場所が無い。
「ほら、義兄上。新しい力をお披露目しなくては」
いつ近付いてきたのか、
「みんな、見ていてね」
「いくよ」
光は蝶となり
「……う、あ」
「ろ、
「何をしたの」
「紅珊瑚の鏡を破壊した時に、その怨念と共に能力も吸い取ったんだ。ねぇ、すごい?
「君の夫と違って、私なら
「
すると、
「才能豊かで品行方正。見目麗しく、家柄もいい。そんな素晴らしい
「
「
「何百年前かな? 蓬莱から来た陰陽師に教えてもらったんだよね。これは私が応用して作った術。戦場でしか使えないんだ。血を吸った土が原料だから」
土人形たちは弓を持ち、学友組に向かって放ってきた。
「気を付けろ!」
「飛んでいては的になる。仕方がない、下で戦うぞ!」
全員で戦場へと身を投じた。
「紅梅、みんなを守りなさい。白梅と青梅は土人形を破壊してきて。一体でも多く」
黒い稲妻が混じる。
「何がしたいの? 今狙われているのはあなたの大事な義兄上でしょう。わざと煽るようなことして、目的は何」
「すぐにわかるよ」
次の瞬間、
「ふー、ぐ、あん?」
身体が地面へ落ちていく。
「
「うあ……、うああ!」
それはまるで、太陽を撃ち抜く
「
戦場は苛烈さを増し、人間の欲望や妬み、嫉み、恨みなどが怨念となって
「全員、死ねばいい」
それは旋風のように舞い、連合軍の兵達にまとわりついた。
悲鳴が押し寄せる。
白炎は
「
声が届かないほどの悪意が音となって戦場を覆い尽くす。
土人形たちは主を失っても尚動き続けている。
入り乱れる戦場において、
「
「
「
「
声が聞こえた。
名を呼ぶ、愛する人達の声。
「兄上達だ!」
四大
「
「
名前を呼ぶ。
連合軍と土人形達が行く手を阻み、声も手も届かない。
「戻っておいで! みんなで一緒に
雪が降り積もるように、灰が舞う。
あたり一面を埋め尽くさんばかりの血を吸い、灰は重く、熱を失っていく。
「誰からも傷つけられないように、私が盾にでも、繭にでもなるから! だから……、お願い、
その腕には愛おしい義弟の遺体を抱きしめながら。
浅はかで愚かな人間たちが、その手に栄光と権力を得るために殺し合っている、凄惨で滑稽な絵巻物でも眺めるように。
「私の声、聞こえてる……? う、あ」
「
流れ出す血液は衣に染み込み、重さを増しながら
声が出ない。
「
助けたい、護ってあげたい、ひどい悲しみから救い出してあげたい、と、心から願う友人の名前すら血の混じる僅かな呼吸音に変わってしまう。
それでも
「る、お」
身体が思うように動かなくとも。
「しん、ふぁ……?」
しかし、倒れゆく大切な人の元へ行くことはできなかった。
ここは戦場。
間にはいくつもの屍と憎悪、そして狂気が立ちはだかっている。
白い火炎が渦高く伸び、空を覆い尽くしていく。
「私を信じてくれた人が……、みんな死んでしまった……」
「もうやめろ! こんなことをして、何になる!」
「君はずっと私を疑っていた。いくら
「それなら何故、
「もう、遅いんだよ」
振り下ろされたその腕はまるで、命を刈り取る大鎌のようだった。
波のように地面の上を白炎が滑っていく。
しかし、それは翡翠色の風によって霧散した。
「え……?」
「もう、誰も殺させない」
何かが弾けるような音がした。
「困るんだよ。それじゃぁ」
「なんで生きているの……」
「死んだふり、上手かった?」
「まあでも、充分かな」
義兄の身体を抱きかかえながら宙に浮く
「これは何でしょう」
赤く輝く金属に、黄色の宝石がはめこまれた指輪が光った。
「
「正解。じゃぁ、予想はつくよね」
「はあ、やっとこの時が来た。
土人形が砕け、梅園が
「式神封じまで出来るのね」
「まあね」
「おっと、これは失敬。治療しないと」
そう言うと、
「安心して? まだ君達には手を出さないから」
連合軍の兵達が次々と倒れていく。
意識を失っているのかと、
「死んでいる」
「こっちもです」
「霊力を吸っていると思ったんでしょう。違うよ。
「君が一番いい」
「
弟の元へ駆けだそうとする
「全員武器を置いて。早くしないと、可愛い
全員が武装を解除した。
「次は私がやってあげよう」
白い蝶が舞い、
「息苦しいかな? でも、死にはしない。
「死にたいの?」
「あなたが死ねば、
「さぁ、邪魔者はいなくなった」
「最初から決めていたんだ。この三人を人質にしようってね」
強い風が吹き、雨が降り始めた。
絶望が、音を立てて近づいてくる。
楽しそうに、嗤いながら。
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