第十九集:撫子
初夏の香りが漂う良く晴れた日。
母屋へ通じる一番大きな門が開く。
白無垢に綿帽子を身に着けた
そこには
「
「……綺麗だ」
瞳が煌めく。
その後ろを
花嫁行列を見に来た大勢の
「おめでとう!」
「綺麗だよ、
笑顔が咲き誇る。
領主屋敷へ着くと、
「
歴戦の猛者たちが跪き、一斉に
正装をした侍従が屋敷の扉を開け、
中へ入ると、そこには
親族友人はそれぞれ両翼に座った。
「婚姻の儀式を執り行い、二人を夫婦として登記いたします」
証人は
困ったのは、
「皆さま、まことにおめでとうございます」
微笑む
「じゃあ、
「
先頭に座る
「今日だけで済めばいいけどね」
そのすぐ後ろに座る
白龍はみんなの服が濡れないよう雲間を縫うように進み、そして、ゆっくりと降下した。
「到着!」
全員で白龍から飛び降りる。
父だけは飛べないため、母が慣れた手つきで抱きかかえる。
その姿があまりに素敵に映り、
「え、あ」
「ちぇ、
「お黙り、未来の旦那様」
先ほどまで溶けるほど泣いていた
「私の友人達はなんて可愛いんだ!」
「妻が強い方が家は安泰するからね」
「ええ。その通りです
全員が着地すると、
その間、
賑やかな会場に、またもや皇帝が送り込んできた教坊の楽士達による演奏が始まった。
みんなが注目する中、
髪には金盞花が咲き、幸せそうな笑顔に良く似合っている。
感嘆の声が上がる。
「うう、可愛い、二人とも可愛いよぉ。幸せになってねぇ」
そして、
白梅が
「
「本日は、私達の婚礼に参列いただき、ありがとうございます」
会場がゆっくりと静かになる。
「生涯で初めて、そして唯一愛おしいと想う
会場に朗らかな笑いが起こる。
「その笑顔は初めて出会った時と変わらず、私を幸せにしてくれます。
拍手の波が心地よく響く。
前を向き、次は
「私の幸運は産まれる前に始まりました。まず、父と母が出会い、尊敬する兄が産まれ、私が続き、そして可愛い弟が産まれたこと。
「私も才色兼備なのに」という
「
「まっすぐで、純粋で、目を見つめながら私の名を呼んでくれる
あたたかな拍手が巻き起こる。
「私達は幸せですね」
「そう思う。
「
「うん。もちろん」
二人は笑いながら部屋へ入ると、行列の最後尾が見えないほどの贈りものが届いていた。
「……え?」
「まずは
「今日中に終わる気がしません。
「頑張るんだ。それしかないんだ。我々には……」
その時、
「
「い、いいんですか?」
「そのために陛下から命を受け、参上いたしました」
「うわあ……」
「
二人は逃げるようにその場を後にした。
宴は陽が落ちてからも続き、まだまだ盛り上がっている。
初夏の風が頬を撫ぜ、気持ちがいい。
「ん?」
背後で音がした。
建物の陰に人がいる。
「……
頬を赤らめながら、花束を持った
「
「今日は黙って来たんだ。その、お祝いしたくて」
「
「呼ばないで」
「新郎には会いたくない」
「そう……」
「これ、
そう言って渡されたのは、橙色の
「とっても綺麗。ありがとう」
「あの、それには意味があって……」
「
「……その花束は」
「
「二人とも、どうしたの?」
それにつられたのか、雅学学友組が近付いてきた。
「それ、誰から?」
「
「
「橙色の
「どういうつもりなんだろう。私達への宣戦布告のつもりなのかな」
信じたかったものが、崩れ去っていく音がした。
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