第十八集:拒む
「その物語は事実かもしれないのだな」
昼前、
「不老不死の力というのが本当なら、穢された今はどんな力になっているのかしら」
「そもそも不老不死という力が強すぎるよね」
「厄介だな。たしか歌劇では
「それに、
「私達を正解へ導きたいのかしら。それがどんな得になるというの? 指輪を持つ者にとって」
「……これは」
それは
「何でもないよ。万が一のために、練習しているだけだから」
愛おしい人の目に、憂色が浮かぶ。
「これは私の為でもあるし、
「……わかった」
(私の勘が叫んでいる。これじゃ足りない、と)
「二人とも、どうしたの?」
「あら、可愛い子がいる」
「誤魔化さないでよ。親友の表情なんて観察しなくても読める」
「私の秘密の実験を
「秘密の実験? 私も心配した方がいいこと?」
大きく美しい瞳が
「大丈夫。どちらかと言えば、私が健康でいるための実験だから」
「ふうん。怪しいから心配することにする」
「困った子だなぁ」
「それは
その笑顔が切なくて、
「おやおや、可愛い弟妹達。密談か? お兄ちゃんにも教えなさい」
そして
全員がその場からいなくなったことを確認した
「
あの時と同じ表情。
「その場所がどこであれ、二時間以内に呼べる自信がないから」
妹の決意は固い。
「『守りたい人を守れるように強くあれ』。この言葉は、俺達家族には適用されないのか? お前だって守られる側なんだぞ」
「わかってる。お兄ちゃんが何をどうやったかは知らないけれど、私の命を救ってくれたでしょう? もう充分に守られているよ」
「気付いていたのか」
「
「私は私を守る。約束する」
「うん。必ずそうする」
「一応、信じておこう。ほら、行くぞ」
兄に背中を押され、二人並んでみんなの元へと歩いて行く。
「白龍は力持ちだねぇ」
「白龍はみなさんを乗せることが大好きです。荷物を持つことも楽しいです」
白龍も嬉しそうだ。
風の中を進む音が心地いい。
雲の中を抜け、髪が濡れる。
後ろでは
並走しようと頑張る鳥たちの間を通り抜け、徐々に高度を落としていく。
「そろそろ着くぞー!」
急降下が始まる。
眼下では
その数は想像していたよりも多く、中小
「はい、到着。みんなは先に降りて待ってて。俺は門下生達と荷物を降ろすから」
「わあ! 来てくれてありがとう」
「
まるで山そのものが街のようだ。
「我ら
元々は美しいのだろう。
しかし、
「まだ山寺に居ても良かったのだけれど……。義兄上が生まれ育った場所だから、なるべく早く修復したくて声をかけたんだ」
「これは声をかけてくれてよかったよ」
若者たちが「どこから手を付けようか」と話していると、
「支援物資が降ろし終わったから俺は帰っちゃうけど、みんな寂しくない?」
「うん。また呼ぶね」
「え……」
妹の心がこもっていない言葉に、
「ちょっと
「とりあえず、焼けてしまった柱を……」
「多くないか」
四人は続々と集まってくる
「多い。多すぎるよ」
「対
「ここにいる
「
「今信じられるのはお互いだけだ。私は
「わかった」
三人はまず砕けた瓦の撤去を手伝うことにした。
屋根の上に積み重なり、一斉に雪崩れてきたら怪我どころでは済まない。
三人は手際よく瓦を集め、それを布に
その時、どこかの
「怪我はないですか!」
「だ、大丈夫です! ありがとうございます!」
何故か
「どうもありがとう。焼けた屋根を腕力だけで剝がしている
「でしょう?」
砕けて駄目になってしまった瓦をはがしたところ、その下にある基礎部分まで破壊されているのを発見した
「
「……無理だ」
「私も。一生無理。来世でも無理」
「皆さん! 陽が落ちて来ましたので、本日はここまでにしましょう!
雅学学友組が合流すると、
「みんなもご苦労様。五人は同じ宿にしてあるからね」
「短い時間だったけれど、結構疲れるね」
「建物を支えている柱の修復が大変そうよね。
「そうしよう。
「みんなが柱を取り換えている間、建物を持ち上げとけばいいんでしょう? 楽勝だよ」
何が楽勝なのかわからなかったが、疲れて頭の回転が鈍くなっている四人はとりあえず頷いておいた。
今日は移動と作業で相当体力を消耗した。
五人は食事もとらず部屋へ入ると、布団へ倒れ込み、そのまま寝入った。
翌早朝、湯浴みを終えた五人は、食堂へ集まり朝食をとりながら周囲の様子を
「気付いた?」
「あそこらへんの
昨日、視線を感じ、屋根から観察していた
「小さいのが十と、中規模なのが五つ。私達を見張っていたのが中規模の面々ね」
「
「彼らからすれば、一番邪魔なのは私達だ」
朝食を終えた五人はさっそく
「私達は向かって東にある建物の柱を担当します」
「
正直、手伝いを頼まれると思っていた四人は、
彼を手伝えると思うなど
「じゃあ、柱外すからね」
そこへ、素早く
順調に作業を進め、五棟目が終わった。
「ちょっと休憩しよう。さすがに腕が痺れちゃった」
建物を五つ持ち上げて腕が痺れる程度なのか、と、四人は思ったが口にはしなかった。
「甘いものもらってくる」
「あの人達……」
食堂で見た
暗がりを進む。
男達の前方に、人影が見えた。
「ちょっと、何をしているんですか」
男達に対して発せられた声に、その前方にいた者も一緒に振り返った。
「
「
「で? あなた達は
「な、べ、別に……」
「お前こそ、何者だ」
男の言葉に、もう一人が答えた。
「ほら、
「ああ、あの怪しげな術を使うとかいう……」
男達が身構えた。
「ふん。
「蓬莱人に用はないんだよ」
男達の左腕に、
「それはないんじゃないの?」
「あの戦で私達を救ってくれたのは誰?
「恩に報いるのではなく、仇で返そうとするなんて。本当、良い度胸だね」
男達は
「二人とも、どうしてここに?」
「それは……」
「この子、『
「でも、正直私も心配だった。だって、
「私達で
「いいけど……」
「どうしたの?」
「帰ってこないから心配したぞ」
「三人とも大丈夫?」
そして、
「ううん……」
二人も
「
「それはそうだが……」
五人は
「
「あ、
「気を付けた方が良いと思う」
「大丈夫だよ。いざとなれば簪の力で霊力を……」
「使わない方が良い」
「相手が誰であれ。状況がどうであれ、もう使わない方が良い。それはもう神器ではなく、呪物だ」
「でも、霊力を少し吸い取るだけなら、ただの自己防衛だし……」
「呪物を使い続ければ、いずれ代償を払うことになる」
「高名な
「これは
「さぁ、行こう義兄上」と、
「……あの二人も
「うん。でも、もう来てくれるかわからないや」
得体のしれない者の手によって、友人が零れ落ちていく。
それとも
どちらにせよ、今と結末は変わらない。
四人は
かける言葉も、見つからないほどに。
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