第十七集:妃求鬼
待ち合わせ当日、もうすぐ昼時。
「
「
空から降りて来る二人の腕を掴んで勢いよく三回転する。
「私も白龍に乗りたくて!」
「おお、にぎやかだな」
三人の声を聞きつけた
「あ、
跳ねるのを止めた
「やめてないよ。でも、お前たちに営業用の顔をしても無意味でしょう?」
「それはそう」
少し遅れて
「あれ?
「私達はこの身体が支援物資だよ」
「馬鹿力ね。純粋な労働力ってことか」
「もっと可愛い表現してくれる?」
「そんな顔したって可愛いだけで怖くないよ」
「はあ……。美しく生まれてしまったことの弊害だね」
「はいはい。お前たちはみんな可愛いよ。
「お兄ちゃん、お母さんみたい」
「あ、似てた?」
楽しそうな兄に見送られ、三人は街へ。
「
「
霊木にはそれを材料に作られた物の強度を上げる力がある。
とても貴重なものだが、
生えている木の九割は霊木だ。
「
「
「うん。鎮痛剤とか風邪薬とか。常備薬になりそうなものを用意したよ。清潔な木綿の布とかも。約一ヶ月間毎日製薬した甲斐があるってものだよ……」
おかげで手からはずっと生薬の香りがする。
「お腹空いてる?」
「いつも空いているよ」
「じゃあ、この間
三人で向かい、列に並んで空いた席に座った。
予想通り、
周囲の人々が驚く中、三人は合計十五人前を食べきった。
というよりも、
「ごちそうさまでした」
「お、お腹空いているの?」
食堂を出ながら、
「そうだなぁ、八割ってとこ?」
「お菓子なら家にいっぱい用意しておいたから、まずは散歩しよう。十五時になったら芍薬楼にお芝居を見に行くからね」
「前に言っていた、歌劇を見に行けるの?」
「うん。席を用意してもらったの。座敷席だから、三人座れるよ」
「嬉しい!」
今の三人は、
「ねえ、中小
「私は聞いてない。
「あのね、あの戦で
「すり寄るだけならまだわからなくもないけれど、
「本当、その通りだと思う。まだあの戦いで傷ついた兵も門弟も完治していない人がいるのに」
「でも、残念なことに今あの簪を壊すわけにはいかないんだよ」
「どうして?」
「
四大
世論とは声の大きい方につくもの。
今まで静観していた
「もしあの
もうすっかり春の陽気。
太陽に暖められた空気も、視界に入る花々も、隣を歩く友人も、何もかもが幸せなのに。
三人の背に、冷たく鋭い風が吹き抜けた。
「今の言葉、取り消してもいい……?」
「記憶に刻まれちゃったから無理」
「無理だ」
「
「今回の修復作業に兄上達が参加しないのもそれが理由だろう」
そして全
「
紅珊瑚の鏡の能力を知ることが出来たのは、
「息絶えた小鳥に、懐から落ちた鏡の光が当たった。すると、小鳥は息を吹き返し、再び空へと飛び立ったのだ」と。
「それがわかれば、対策も立てられるのに」
「……あ! もうすぐ十五時だ。芍薬楼に急ごう」
三人は浮かび上がり、飛んでいくことにした。
「今日の演目は『
「どういう話なの?」
「それは観てのお楽しみ」
三人は開演間近に到着。
席へと着いた。
幕が開き、一人の
ごく平凡な容姿で、何の取柄もなく、家柄は良いとは言い難い。
ただ、とても寛容で、心の優しい
ある日、村を荒らす鬼の集団がやってきた。
首領の
しかし、
「飢饉が続き、村にはあなた達に渡すものなど無いのです。どうか、引き下がってはいただけませんか」と、鬼達に立ちはだかった。
首領は「それならば、お前が嫁に来るのなら村をこのまま見逃し、守ってやってもいい」と言う。
女たちは自ら「私がお嫁に参ります」と迫ったが、首領は「お前が来い」と譲らなかった。
首領は
「何故拒む」と首領が問うと、
首領はますます
「あなた、ではなく、
「
その日から、
ある日、
法力は
「あなたも結局は見目の良い者を愛するのですね」と、涙を流す
「俺はお前の度胸と心根の清らかさに惚れたのだ。容姿など、どうだっていい」と。
二人はひっそりと祝言を上げ、穏やかに暮らしていた。
しかし、幸せな生活は突然終わりを告げる。
皇太子率いる軍が、
しかし、視界にはすでに皇太子が放った斥候の姿が。
もう自分は永くないと悟った
「これは俺の一族に代々伝わるもの。身につければ、不老不死と成れる。ただ、不老不死は万能ではない。不治の病や致命傷を負えば、普通の人間のように命を落としてしまう」と説明し、
「俺がいなくても、幸せになってくれ。そして、永遠に近い命の中で俺のことを想ってくれたら、嬉しい」と言い、自ら囮となって
皇太子は嘆く
後宮での軟禁に近い生活を耐える唯一のものは、
皇太子は皇帝となり、老けない
そしていつしか長い時は過ぎ、皇帝は崩御。
貴太妃になり、警備が弱まったことを感じ取った
馬に乗り、駆け続ける。
そして、
追いかけてきた禁軍大統領は、血を流し息絶えた貴太妃の亡骸を見つけると、部下に命じ、棺とそれを乗せる馬車を用意させた。
葬儀が進む中、
喪が明け、皇長子は即位し、新たな皇帝となった。
その治世は百年続き、自身の寿命に疑問を持った皇帝はそれが指輪の力だと気づき、そっと外して宝物殿へとしまう。
それだけでは危険だと判断した皇帝は、宝物殿に密室を作らせ、指輪を神器としてしまうことに。
そのあと、皇位を孫へと譲位し、十年後、急激に老いた
「これって……」
劇場内は拍手で満たされ、感動し涙を流す者もいたが、三人はそれどころではなかった。
「ただの御伽噺とは思えない」
「お姉様達に聞いてくる」
「白薔薇お姉様」
「
「そんなとこ。ねぇ、この『
「これは一年前に送られてきたのよ」
「送られてきた?」
「そう。差出人は不明だったけれど、内容がとても良いから歌劇として上演することになったの。結構練習期間が長かったから、上演は今回で二回目ね」
差出人不明の、御伽噺。
背筋が凍るには充分だった。
「ありがとう。また会いに来るね!」
「あ、ちょっとぉ」
白薔薇の残念そうな顔を残し、
「どうだった?」
劇場の外、白薔薇から聞いたことを二人に話した。
「まさか、事実なのかな」
「わからない。でも、そうだとしたら、怖いよ。わざと知られるようにしたってことでしょう?」
「すぐに帰ろう。ここでは話せない」
春の月が夕闇に現れる。
三日月の鋭さが、槍の穂先に見えた。
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