第十四集:決裂
連なる山々の一つに、古い
その名は
信徒は少ないがその信仰心はとても厚く、手入れの行き届いた廟は建てられた当時の姿を思い起こさせる。
「掘り続けるんだ」
深夜、誰もいないはずの廟の中で、採掘音が響き渡る。
「
「
「彼女にとって
「あ、ありました!」と声が上がる。
柱の側で眠っていた
「やはり。
「では、身体は腐っていない、と?」
「生前のままだろう」
両家の門下生達は身体から湯気が出るほどの勢いで掘り進めた。
「いいぞ。引き揚げろ」
黒い棺に縄が通され、穴から出された。
「開けるぞ」
すると、棺の蓋が外側へと溶けていくように消失。
中には顔の左側が焼けただれた
焼失したと思われる眼球の部分には、樹木が炭化して創られる黒玉がはめこまれている。
身体は生前のままで、服も全く傷んでいない。
「初めまして、
「父上、どうなさるのですか」
「通常、霊力を宿す鏡の光には破魔の力がある。しかし、この神器、紅珊瑚の鏡は呪者の血によって穢されたために、その力は反転する」
「で、では……」
それは
「……誰だ」
「私の身体には
「そんなつもりはない」
棺から出て、周囲を見渡す。
「ここは……。私が修行をしていた道観か」
「今ではあなたを讃えて祀り、黒百合廟という名で知られております」
「何故眠りを妨げるような真似を? 答え次第では一族郎党皆殺しにするぞ」
「述べる時間を与えよう」
歪んだ甲高い音が響き渡る。
土が弾ける音が聞こえてきた。
湿った足音。
骨がぶつかる乾いた音が近付いてくる。
「
「同じ、とは?」
「
「ああ……、たしか、
「その
「皇帝、だと?」
「我々はその四大
「そのためには、あなたの力が必要なのです。もし、あなたと組めなくとも、一月後、我々は四大
「良いだろう。だが、それでは私の果たす役割の方が多い。見返りは?」
「成功したら、この紅珊瑚の鏡を渡そう」
「神器か。他の四つは?」
「古琴と香炉はすでに破壊されております。行方はわかりませんが、現存しているのはあと二つ。
外では雨が降り始めた。
「想像していたよりも、
「ほう、少年。良いところに気が付いたな。
「なかなか見目麗しい。おい、もう一つ条件を加えてもいいなら、そなた達と組もう」
「どんな条件だ」
「こいつを私にくれ」
「な、何を……」
「そう焦るな。皇宮を攻める間、助手にするだけだ。
「父上。それで悲願が叶うならば、私は構いません」
「良い子だ。異論はないな? 父上殿」
紅珊瑚の鏡にまた血が吸われていく。
「……わかった」
「目的のために息子を差し出すとは、見上げた根性よ」
再び鏡を懐へ戻し、「では、作戦を考えたい」と、
「いいだろう。私の力があれば、何も宣戦布告する必要はないぞ。皇宮の手前にあるいくつかの城を落としながら進めば、奴らも気付くだろうからな」
「それは面白そうですね」
「大将はそなただ。たしか名前は……、
「ああ、そうだ。いいのか?
「もちろんだ。私は生きている人間を指揮するのは苦手なのでな」
三人は互いの腕に傷をつけ、浮かび上がった血を混ぜて『破れぬ誓い』をたてた。
☆★☆★☆
「なんだと?」
「
羅城は西における
机をどかし、
「外敵ではない。国の内側から攻められているのか」
「お前は
侍従の一人が音も無く姿を消し、
その頃、
「俺たちにも花嫁姿を見せてくれよぉ」
「寂しくなるなぁ」
「やだもうあんた。まだまだ先よ。日取り決めは大切なんだから」
店先は客だけでなく町内の人々でにぎわっている。
そこへ、領主屋敷から「
「すぐに参ります」
案内されるままついて行くと、すでに居室には地図や駒、
「
「殿下、大変なことになりました。西の要所である羅城が落とされ、敵は今、
「な、そんな……」
「恐れていた事態が現実になりつつあります。各
「敵の総勢は?」
「人間は
「まさか……」
背筋が凍り、瞳が光る。
「ええ。殿下が今頭に思い浮かべている通り、偵察隊からの情報では、一番大きな軍を動かしているのは女性
「
もし残りの二つも手に入れていたら?
「
黄金の光が瞬いた。
「
白銀の閃光が奔る。
一分もしないうちに、
欄干を乗り越え、窓から入ってくる。
「父さん」
父に駆け寄る三人。
「
「でも!」
「白龍の力と
二人は心に使命と勇気の光を灯し、頷いた。
「
「お前は友と行くのだ。『守りたい人を守れるように強くあれ』。それの誓いを今、果たしてきなさい」
「これを持って行くと良い」
そういって父から渡されたのは、美しい紅玉で作られた数珠。
「これって……、これ、お祖母ちゃんの……」
「使うことが無ければ一番良い。でも、そうも言っていられない。使い方はわかるな」
「
「最速で行く。しっかりつかまれ」
「うん」
凍てつく風が氷となり、肌にぶつかる。
白龍の
目を瞑り、友の顔を思い浮かべる。
誰一人、失うわけにはいかない。
生きていて欲しいから。
笑っていて欲しいから。
「着いたぞ。必ず全員生きて戻れ。お前の祝言が待っているんだからな」
「わかった。お兄ちゃんも、
白龍はもう見えなくなっていた。
「
「
「兄と弟が皇宮へ向かい、守備の陣を。父と母は
「かしこまりました。我々は
「よろしくお願いします」
配下が音も無く姿を消した。
「皇宮から一番遠い
「ではみんな……」
「ああ。共に出陣することになるだろう」
頼もしい友人たちの笑顔が思い浮かぶ。
「わかりました。
「それが、まだわからないんだ。無事を祈ろう。さぁ、まずは部屋で休むといい。
「え、あ……」
「では、またあとで」
「白龍の飛行速度が速くて速くて。氷の粒で切っちゃったんだと思う。すぐ治るよ」
「そうか」
「
「わあ、嬉しい! 早く行こう」
突然振り下ろされた悪意などに、幸せな日常を壊されたくない。
二人の時はいつも隣を歩くけれど、今日はその背を見てみたかった。
何度目だっただろう。
そして
「いつもいるよ。これからもずっと」
その手をとり、引き寄せた。
驚いて体勢を崩した
「し、
そのまま有無を言わさず浮かび、空を行く。
「やっぱり
「あ、え」
「その分、安心してくれていることがわかるから、嬉しい」
自分が
「たまには
「では、旦那様。どちらが私達の
「あの、桜の木があるところだ」
「桜の木? 植えたの?」
「……
「そうかぁ。可愛い奴め」
「それは褒めてもらっているということでいいのだろうか」
「もちろん」
「着きましたよ、
「おかえり、
優しい笑みが、身体をひきよせる。
「ただいま、
あたたかな腕の中へ、飛び込んでいった。
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