第十三集:祝い
祝うどころではなかった新年。
しかし、それ以上の喜ばしい出来事が二つ待っていた。
一つは三日前に
聖旨にはこう書かれていた。
「
称号を与えるに至った理由なども様々記されていたが、恥ずかしいほどに褒め讃えている内容だったので、
そして、本日。
正装に身を包んだ
挨拶を済ませ、いよいよ本題に入る。
「生涯を歩む中で、険しく足元の見えない道も、凍てつく風が吹き荒れる時も、
「
「
涙を浮かべる両親の姿に、
「はい。どんなことがあっても、私の帰る場所は
「大袈裟だなぁ」
泣きながら笑っているのか、笑いながら泣いているのか、
「さあ、お祝いの食事に
「え、うちで食べるんじゃないの?」
「それが、この間の飲み会で今日のことを話したら、『我が屋敷の
「え、でも」
「まあ、身内だけの食事だから大丈夫」
と、
「
建物を揺るがすほどの低く大きな声が重なって響き渡った。
もちろん、その軍師や将軍達も。
総勢、三十人はいるだろうか。
もっと驚いたのは、
「二人ともおめでとう! さぁ、こっちに座って! 若者はこっちの席だよ」
「兄上達は
「あなたが
「姉上、私は今でも可愛いですよ。ねえ?
「あ、ああ。そうだな」
「祝言はいつ挙げるんだ?」
「
「で、お兄ちゃんと
「ほら、あの」
「わ、私の父は
「うん。それ、詳しく聞いてみたかったんだよね」
「実は、私も気になっていた」
「私も」
「何度も何度も聞かされてきたから覚えてる。たしか三十年前。まだ皇帝陛下が親王殿下で、天皇陛下が東宮だったとき……」
未来の天皇である東宮、
社交的な二人とは違い、
可愛い弟として、とても大事にされて育った。
そんなある日、
乗船し部屋が与えられると、行ってみたい場所や、やってみたいことなどを毎日夜遅くまで話し合った。
一週間後、無事に首都へ到着した三人は、太傅や護衛の将軍達に連れられて、まずは
皇宮へ着くとすぐに謁見を許可され、
会話の終わりに、皇帝は一人の男児を紹介した。
「朕の息子の中で、君たちと一番歳の近い皇子だ。仲良くしてやってくれ」と。
それが後の
自己紹介の時、「はるひさ? きんれん? はくれん?
四人はすぐに打ち解け、大人の見よう見まねで義兄弟の契りを交わした。
楽しい日々を過ごしていたある日、四人は「皇宮から一番近い山だから」と、わずかな護衛だけ連れて出掛けて行った。
川遊びや木登り、枝を使っての剣術など、その場で出来る遊びに夢中になっていると、気付けば陽が落ちかけ、空が橙から紫へ変わっていくところだった。
「帰らないと太傅達に怒られる」と、四人は護衛を連れて帰路につくも、運が悪いことにその日は新月。
本来は弱いはずの小鬼たちが力を得て鬼となり、跋扈していた。
四人の前に五体の鬼が立ちはだかった。
護衛の数は三人。
しかし、着いてきたのはただの人間の護衛。
何の術も使えず、あっさりと倒されてしまった。
「
鬼が武器で殴りつけてきてもびくともしない結界。
風のように飛びながら鬼を引きちぎっていく大きな梟。
煌めく刀で鬼を斬り伏せていく二人の武人。
数分と経たず、すべてが片付いた。
「飛んで帰ろう。
星々が瞬く輝きも霞むほど、
「と、こんな感じ。だから伯父と父は皇族でもないのに
三人の青年男性はこの話が羨ましかったのか、「義兄弟の契り……」と呟いた。
「とっても素敵な話だったぁ。あとで兄上にも話してあげようっと」
「素晴らしい話だった。だが、この話がなぜ、兄君と
「義兄弟の契りを結んだって言ったでしょう? ということは、私には父方に伯父が三人もいるってこと。贈り物の量はどうなると思う? 可愛い弟分の娘が結婚するんだよ? うちの両親だけじゃさばききれないよ」
「あ、姉上の婚姻はとても大変だった……。祝言で来賓が居る間、両親は目が回るほど忙しくて、全てが済んだ後、二人は丸一日寝込んだんだぞ」
「兄上も寝込むだろうか……」
「わからない。でも、ごめんね」
次第に夜も深まり、招かれた若者たちは領主屋敷に用意された部屋へとそれぞれ案内され、宿泊することになった。
「兄上達はまだ話すの?」
「
あの
四大
「
あの時、
何故そうしなかったのだろう。
そして、どうしてあの
神器かもしれないものを持っていると露見させるような行為を、
「あの
考えが声に出ていたようだ。
前を歩いていた二人が振り向いた。
「蝶の……、
「あ、いや……。ちゃんと見たわけじゃないからわからないんだ」
憶測で
ただ、
神器は何者かによって盗まれたと言われているが、開け方も、入口がどこにあるかもわからない密室に侵入出来るとすれば、皇族かその関係者になる。
それに、神器を呪物にするために使われた生体組織が誰のものなのかもわかっていない。
「
「ああ。兄上から」
「私も。実際は何歳なんだろうね。見た目からすれば、青年期であることは間違いなさそうだけれど」
「何のために
「たしかに。年齢を隠し、名家の宗主を騙して潜り込める才能があるなら、もっと選べたのに。
「ただ、貴い血筋っていうのがひっかかる。何代前の、誰の皇統なの?」
「皇統……」
初めて
「それを調べれば、何か、もっと重要なことに繋がる気がする。
「私もそんな気がする。でも、今は
「報復に備える必要がある」
「たしかに。失った兵力を補充するために身を隠している可能性もあるものね」
考えることはたくさんある。
考えなければならないことも。
考えたくないことも。
「あ、雪だよ」
「私も好きだ」
「
「ふふ。私も同じ理由だから、すぐわかるよ」
「二人とも、ありがとう」
この穏やかな時間がずっと続けばいいと願う。
神でも、星でもなく、大切な人達に。
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