第十集:陽の光
「なんて素敵なの……」
目の前に広がる
連なる山々に巨石が織りなす壮大な景色。
そして、大きな滝の前、広大な湖に浮かぶ、街を乗せた巨大な船の数々。
「あれは船ではなくて、似た形をしている霊木なんだってさ」
白龍の上から眺めているだけでも、目が忙しい。
すべてが視界に収まらない。
「じゃ、降りるぞ。あの広場……、あ、
「
腕を伸ばす。
「
腕の中へ。
その身体を抱きしめ、一回転してから着地した。
「お前たちは大袈裟だねぇ」
あとから降りてきた
「
「お久しぶりです、
「久しぶり、
「ふふふ。
「今のは内緒ね」
「
真昼の太陽が冷たい冬の空気を温めていく。
それよりも先に、
鼓動がうるさくて、自分の身体なのに、自由にならない。
「その……、すまない」
「何のこと?」
「緊張している」
「ここに
「私も、やっと来ることが出来て、今とても嬉しいよ」
「そうだよ。いつも通り……、わあ!」
身体が宙に浮いた。
違う。
「え、ど、どうしたの?」
「先に、私が一番好きな場所へ連れて行く」
「私も飛べるんだよ」
「いつも……」
「いつも?」
「いつも、
「そ、そっか」
頬の熱がひかないうちに、また顔が火照ってきてしまった
ただ、
「着いた」
上から見たその場所は、街はずれにある霊木の切り株だった。
ゆっくりと降りていく。
すると、切り株から二本の木が生えていることに気付いた。
「これは……、桜の木?」
「両親が霊木に接ぎ木したものだ。左が兄上が産まれた時。右が私」
霊木に接ぎ木されていることで、ずっと花を咲かせているという。
雪の白と、桜の淡い色がとても可憐で。
そして、少し悲しくて、あたたかくて、愛おしい。
「ここに来ると、父上と母上のことを思い出すことが出来る。それも、とても鮮明に。兄上もよく来ている」
泣くつもりなどなかったのに、
「私には、この桜以上に素晴らしいものは贈れない。だからせめて」
風は桜に降り積もった雪をそっと運んでいく。
「お二人の大事なご子息を、生涯をかけて護ります」
目の前が煌めいた。
涙のせいではない。
「父上……、母上、なのか」
光は
「私が
「ん?」
「え? 物じゃないのはわかっているよ」
「そうではなく」
二人は顔を見合わせ、どちらからともなく笑い始めた。
「
泣き止んだ
「離れに案内する」
「うん。よろしく」
今度は二人で飛び、
離れは部屋と呼ぶには立派過ぎるほどしっかりとした家屋だった。
門があり、庭があり、池に橋も渡してある。
「こ、ここを借りていいの?」
「もちろんだ」
二人で庭に面した入口へ向かう。
「一応、
「え、ありがとう。嬉しい」
さっそく靴を脱ぎ、部屋へと上がる。
「好い香り。いつも
「どうしてそんなに照れているの」
「わ、わからない」
本当に自分でもわからないようで、戸惑いながら庭に立っている。
「中に入らないの?」
「あ、ああ」
「お、良い家だ」
「お兄ちゃん!
「はい。義兄上ですよ」
「なんで二人ともそんなに照れてるの?」
「わからない。
「変な妹と義弟。
「え、良いけど」
あとの二人には荷物の整理をお願いした。
「行くぞ、白梅」
「はい、
三人が
「白龍、霧を」
白龍が口から純白の霧を吐くと、それが二人を包み、外から見えなくなった。
「これを渡しておく。
白梅が受け取ったのは、中の物が視えないほど黒い小瓶。
「中には何が入っているのですか」
「それは『神丹』だ。白龍が神力を使って作ったもので、五年に一つしか作れない。今あるのは俺が持っている分と、そして白梅に渡した二つだけ。使う前に、まず俺を呼ぶこと。間に合いそうもないときは、白梅、お前が……」
白梅は
それだけで、神丹が意味する危機を察することが出来た。
「かしこまりました」
白梅は跪き、
「戻ろう。
渡されたのは、鈍くなった五感を取り戻す丸薬。
「痛みも鋭くなるが、まぁ、悪鬼羅刹の中にはこっちの五感を奪う術を使ってくるやつもいる。後遺症が残ると命取りだからね」
「大切に使います」
「白梅のことは信じている」
「お任せください。
「もっと自分を救うことを優先してくれれば、こんなに心配しなくて済むんだけどね」
二人は霧から出ると、三人がいる方へと戻って行った。
「あ、戻ってきた」
「じゃ、俺帰るわ。このままいたら、間違えて
「はいはい」
「また来る!
「兄もここだと商売人の顔をしなくていいから楽しそうで良かったです」
「
先代
弟や親族、門下生を不安にさせないために、流すことが許されなかった涙も多かっただろう。
「
「ああ、それはじゃんけんで負けたからだよ」
「……え?」
「初めて会った時、
「うちの兄がすみません……!」
「いやいや、嬉しかったよ。私には兄がいないからね。それに、
「ずっと私の兄さんでい続けてくれている。それが何より嬉しい」
穏やかな日常を過ごした
途中、
さらに、到着まであと一日というところで
「
あの日、泣き顔を見てからずっと心配だった。
何度手紙を送っても、返事はない。
「心配ね。それに、
「ああ。前からあまり性格が良いとは言い難かったが、あそこまであからさまではなかった。兄妹の仲も良かった記憶がある」
「うちは大変だったんだよ? 兄上がそれはもう怒っちゃって。
「
「みんなのお家はどうだったの?」
「うちは兄が怒っていたけれど、私がもう参加を決めていたから。ただ、弟が……。泣かせたくなかったなぁ」
「うちは祖父が『隙があれば
「父上もそんな感じだから、母上が説得していたよ」
さすがは
「私のところは珍しく父が声を荒げて、『
「兄は冷静だったが、修練場の
これには全員が驚いた。
「
風圧で少し先にある木の枝が折れた。
「それ心臓に悪いから……」
そして、集合日当日。
「みんな、また無事で会おうね」
「大丈夫だよ、
「うん。私、頑張るよ」
八人で歩いていると、
「ご案内いたします」
有無を言わせないといった様子。
街中で乱戦するわけにもいかないので、八人と門下生たちは大人しくついて行くことにした。
ただ、武器を携帯している人が多い、という印象はある。
「あれが
「そうだよ。とても素晴らしい霊山なのに、このあとすぐに穢される」
その中には、
それを今回あえて解き、殺し合いをさせようというのだから、
「こちらより先が開会式の会場でございます。それぞれの家紋が入った旗が立っておりますので、その場でお待ちください。
「またあとで」と、本当に叶えられるかわからない約束をし、それぞれ門下生を伴って旗の下へ向かった。
すでに中規模、小規模
「
「あ、来た」
「
俯き、顔色も悪い。
突如、銅鑼の音が響き渡った。
筋骨隆々とした身体が灰色の
「静粛に。ここに集まりし若き
どうやら、あの男性が
その隣に、水色の
「それでは、各部門の目標討伐数を発表いたします」
顔が
「
会場がどよめいた。
「
「
(実力で倒せる数よりも多く設定しているんだ)
いったい、何のためにここまで追い詰めるようなことをするのだろうか。
「
感覚だが、どちらも少し少ないのではないかと、
「
このままでは、みんなあまりに危険だ。
「そして最後……。
会場が静まった。
「息子たちからの報告や、雅楽での成績を基に熟慮した結果、
激しい轟音と共に、二人の宗主が立っている壇の三分の一が風圧で弾け飛んだ。
「おや、
このままでは
今回の
「友人が危険だと悟れば、誰でも怒りは沸くというもの。この程度のことで過敏になる
「さすがは
その笑顔が嘘くさくて
一連の出来事を、
「これより先は深き闇。皆、心して挑め。生きて帰ってくることを願っている」
再び銅鑼の音が鳴り響き、紅梅が「……結界は正しい手順で解かれたのではなく、破られたようです」と囁いた。
「出陣せよ!」
続いて
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