第七集:冷
空気は冬の気配が濃くなり、水の豊富な
今日は特に昼を過ぎてからの冷え込みが強い。
「
「ああ、確かに私のこの見た目は寒そうだよね。上に着ている
「そうなんだ。
「心配してくれてありがとう。もし私に何かあればあの三人が騒ぐだろうから、そうじゃない時は安心して」
「ふふ。わかった」
笑う二人の目線の先にいるのは、
「何笑っているの?」
視線に気付いた
「私達の友達は可愛いなぁって思って」
「当たり前でしょう」
椿を彷彿とさせる華やかな笑顔に、
三人で笑っていると、残りの二人も寄ってきた。
「
「いつでも見られるんだからいいじゃない」
「
「今朝も熱が下がらなくて。後で診てくれる?」
「もちろん」
試験当日はいつもとは違い、席順が変えられていた。
そのため、
「あなたと話してみたかったの」と言われた時は、患者を目の前にしているのに
ただ、どうやら
「じゃぁ、私は先に戻るね」と、
「…ねぇ、どうしたの?
「なんていうか、その……」
自分の見間違いかもしれない。でも、そうでなかったら?
考え出したら止まらなくなってしまった
「私と
「え! 気付いていたの……?」
「殺気まで込められたら誰でも背筋が凍るよ」
「大丈夫だよ、
「私もいるし」
風を切る音が少し怖かったが、誰も口には出さなかった。
(この状況は幸運とも言える。
すでにどの
協力関係にある各
――「
――「無礼なことと承知の上で申し上げます。もし、現存する三つの神器が揃い、その強大な呪力を使って
だからこそ、あの時、
「私、
「気を付けてね」
男性区画の宿舎へ入るために、
「あ、
外の空気を吸いに出てきたようだ。
「来てくれてありがとう、
疲れた表情をしている
二人部屋の場合、寝台は部屋の左右端にある。
そばに置いてある椅子に腰掛け、診療道具が入った箱を床に置いた。
「あ……。わざわざ、ありがとう」
熱のせいか声は掠れ、目が潤んでいる。
「手首に触れてもいい?」
脈を診るよりも前に、その熱さに驚く。
「処方した薬、ちゃんと飲んでる?」
「それが、せっかく飲み込めても、少しすると
「じゃぁ……、吸引できるものに変えるね」
「それなら飲まなくてもいいし、吐くこともないから。すぐ良くなるよ」
「白梅、用意して」と、
「これを
(やっぱり、わざとか)
白龍の一件で仲良くなった日から、
(
一瞬だったが、
「
「わかった。すぐに戻ってくるね」
「
「肺炎まで偽装して、何を企んでいるの?」
体調は本当に悪いのだろう。
「もう手首離してくれる? 脈拍で嘘かどうか見分ける必要もないでしょ」
「確かに」
「
「健全な関係とは言えない」
「健全である必要がどこにある? それに、その善し悪しを決めるのは君じゃない」
ただでさえ冷たい空気が張り詰める。
「良いことを教えてあげよう。だからもう私達には構わないでくれ」
「それを決めるのはあなたじゃない」
「言い返されてしまった。どうしようもないな」
「
「何故それを?」
「君達に特別な情報網があるように、私にもそれがあるんだよ」
「ああ、そうか。
乱れそうになる息を整え、暴走しそうになる
「どっちの味方なの」
「
「
「君がそうはさせないだろう? 例えそうなったとしても、私は
わからない。徹底的に、演じている。
「あ、君と
もし、あと数秒でも
殺しはしない。でも、脅すくらいはしたかもしれない。それとも、どうしていただろうか。
「ただいま。毛布、二枚も貸してくれたよ」
無邪気な笑顔。
可愛らしい笑顔。
優しい笑顔。
その手足に、見えない鎖が巻き付いていたとしても。
「
「わあ! ありがとう
「うん。
微笑みあう義兄弟は、はたから見ればとても麗しい。
でも、その片方が酷く歪んでいたら?
「私、戻るね」
「わかった。送って行こうか?」
「大丈夫。書房に寄ろうと思っているから」
「本当にありがとう。
「うん。そうする」
侍従の人とは男性区画を出たところで別れ、
(何の証拠もない)
(
この状態では
(それをわかっているから、私に話したんだ。ただの雑談の内容では、私が手も足も出せないと知って)
誤情報だとは思わない。実際に、
(何を隠しているの……?)
裏山の山頂で
「
ゆっくりと地面に降り立ち、声の主と向き合った。
「飛んで行くの、見られてたか」
「
「そっか」
つい笑ってしまう。
「どこかおかしかっただろうか」
「ううん。嬉しくて」
「そうか」
「手が冷えている。帰ろう」
「うん。
二人で空へ飛び出すと、少し下の方から「そんなところにいたのー?」と、
「もう。
「わかったわかった」
地上では
「
「見て! 夕陽が綺麗だよ」
「もう、
四人で夕陽を見て、
この平穏な日常を、こんなちっぽけな自分が守れるのだろうか。
大切な人たちは両腕では抱えきれないほどいる。
「守りたい人を守れるように強くあれ」と、よく祖父が言っていた。
それが可能なほど、自分は強くなれているのだろうか。
健康に生きることすらままならないこの身体で。
「ふう、上空は寒いね。ほら、降りるよ
「ちゃんと抱きしめられていてね、姉さん」
「もちろん」
四人で地上へ降り立つ。
凍てつく風が通り抜ける。
望んでも、望まなくても。
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