第五集:恩
「
「あの方は富豪特有の余裕がありますからね。それに、善人です」
失われた神器と、それが呪物となり現代まで行方がわかっていないという危機的状況。
それを話すには絶対的な信頼関係が必要である。
そこで、二人はまず
ただ、先先代宗主の時代に邪術の研究をしていたという噂があり、当時まだ幼かった
それが故に、同じ轍は踏まぬと誓い、身を正して生きてきたのだ。
二人は
飛び抜けた財力のある
異心ある
「
「
二人は顔を見合わせ、ため息をついた。
「それにしても、いつ見ても立派な城郭都市ですね」
「
「では、行きましょう。軍師の血が流れる
「そうですね。まあ、
「
先ほどまでの重い雰囲気はどこへ行ったのかと思うほどの朗らかな笑顔を向ける
二人は
門番に名乗ろうとしたその瞬間、重々しい音を立てて門が開き、
その姿は最盛期を窺わせる壮健さで、一部の隙もない。
ただ、漂う雰囲気は壮麗な霊山のように霧深く、腹の底が見えない。
「
「お久しぶりです、
「お元気そうで何よりです」
「
手入れの行き届いた城内は、飾り気はなくとも骨格が堅牢で美しい。
静謐な空気は、二人の緊張を煽った。
「
「神器か」
「ご存じなのですか」
「
「しかし……」
「
二人は
「だが、戦に勝利し帰還した我が祖先を待ち構えていた選択は二つ。『死』か、朝廷の力が及ばぬ場所への『逃亡』。見ての通り、逃亡を選んだ祖先は、ついてこようとする忠実な部下達を振り切り、陽の光も届かぬほど深い森で数百年を過ごした」
「我ら
予想通り、話し合いは困難に思えた。
「
「私はそなた達が産まれる前より宗主として
鋭い眼光。
しかし、
「
「妻の名は
ゆっくりと息を吐き、茶器に手を伸ばしながら、
「確か、夫の兄弟分に会うため、
「その頃、
「何故それを……」
「すでに陽は落ち、辺りを照らすのは月の光だけ。あなたは忘れていました。その日、山を百鬼夜行が通ることを」
妖邪の行軍は各地を守る
「あなたは妻と幼い子供達にかかりきりで、警告を出すことすら頭から抜け落ちていた」
「百鬼夜行は目前に迫りくるものの、山には若い蓬莱の夫婦と自分だけ。彼らを逃すだけで精一杯。自分は死ぬしかない。そう思ったその時、その夫婦が叫びました。『その場から動かないでください』と」
手が震え出す。
「
「若き夫婦はたった二人で三百体もの妖邪を葬り、あなたとその家族、そして周辺の村々や街に住む人々を救ったのです」
「戦闘が終わりほっとしたのも束の間、城の方から三人の侍従が走ってきました。息も切れ切れで、泣いている者もいた」
「奥様が破水したのです。それも、大量の血とともに」
「それを隣で聞いていた夫婦は『私たちを信じてくださるならば、救ってみせます』と、申し出ました。あなたは藁にもすがる思いで懇願したはずです」
「
「その話が神器と何の関係がある」
「そのご夫婦の娘が今、我々
持ち上げかけていた杯を落とし、
「あなたを救った夫婦の苗字は
「
様々な思いや葛藤、祖先への申し開きや、未来ある孫達への愛情が、頭と心を埋め尽くしていく。
そして、
「私は何をすればいい。協力は惜しまぬ」
「ありがとうございます」
若き宗主二人は大きく息を吐いた。
「そんなに緊張していたのか」
「もちろんです、
「あなたは顔が怖いですから」
「
三人はやっとのことで茶にありつくと、一気に飲み干した。
「
「
「
緊張が解けた
「ふっ。よう知りおるな」
「そのお力を貸していただきたいのです」
「容易ではないだろうが、持てる全ての力を使い、調べてみせよう」
「感謝いたします」
その後、三人はお互いが知っている情報を交換し合い、
「そういえば、弟達は大丈夫でしょうか」
「
「
「弟達には頑張ってもらいましょう」
「それもそうですね」
二人は自身の弟達が
「あ、そうそう。近々、
「是非。来るのはきっと、
「では、帰る方向は同じですね」
二人は微笑みあうと、
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