第四集:蓬莱の刀
ついに迎えた
総勢七十一人が揃う雅学室は、昨日の武闘場での話題でもちきりだった。
「
「薬舗の娘って本当なのかしら」
「名門でも、
「なんでいるの?」
「噂では、外国の方らしいよ」
「
「
「ああ、あの街は数百年前に皇帝がどこかの国に友好の印として贈った土地だったはず」
「この後の挨拶が楽しみね」
このままでは斜め前に座っている
すると、先ほどまで前方を睨みつけていた
「ありがとう」
若く聡明で、その雅な風貌から、女性門下生にとても人気がある。
純白の
「皆さん、初めまして。本日から四ヶ月間、教鞭をとらせていただきます、
女性門下生たちの甘美なため息が聞こえる。
「それでは……、今日は顔合わせの日でしたよね。皆さんから見て左の
雅学室の中央通路に最初に出てきたのは、
「
その間、ずっと浮かない顔をしていたのは、周囲から微かに聞こえる嘲笑のせいだろう。
次に中央へ出てきたのは
「
中央通路に出てくる時から他の
同じく尊大な態度の
次は
五番目は
「
(なんて美しい人なの……。百花王のお姉様達もきっと驚くだろうな)
「我が一族の伝統武術は剣術。六代目宗主が鍛治を得意としていたため、時を経て才を継いだ父が打ちました宝剣を献上いたします」
男性門下生達の目が輝いているのがわかる。
まるで歩く真冬の三日月のようだ。
余韻が残る中、
「
武人然とした立ち居振る舞いに、声の端々には傲慢さを感じる。
献上された刀も、本当に人間が振り回せる大きさなのか? と、その場にいる皆が思うほどのものが運ばれていった。
そして、「
「青梅、献上品を持ちなさい」
雅学室にさざなみのように声が沸く。
それもそのはず。
今まで室内に存在しなかった緑色の
その手には長い桐の箱を携えて。
「
青梅が桐の箱を開け、中の蓬莱刀を
「素晴らしい宝刀です」
大勢の視線を背に感じ、手が震える。
ちらりと後ろを振り返り、
声には出さずに、「大丈夫」と二人は微笑んでくれた。
「私は
雅学室は静まり返り、それが何を意味するのか、
雅学が始まって十日目、
「ねえ!
「とても可愛らしいのに、強くて美しくて優しくて……。まさに貴公子の中の貴公子よ!」
「きゃあ! こちらを向いてくださったわ!」
「
どうやら紳士的振る舞いをやりすぎてしまったらしい。
女性門下生達からの視線を奪ってしまったようだ。
「いったい何をしたらこうなるの?」
「いや、その……」
「た、ただ助けたり診察したり手当てしたり……。それだけなのだけれど……」
「
「そんなことしたの⁉︎」
どうやら
「
夕刻、足元が少し見づらい時間。
女性門下生の一人が下山途中で足を踏み外し、山肌を落下していこうとしたその時、
そのままゆっくりと登山口へと降り立ち、「お怪我はございませんか? どこか座れる場所までお連れします」と宿舎の女性専用区画まで飛んで行ったものだからその場が大騒ぎに。
椅子に座った女性の足元に跪き、「足に触れても?」と聞いてから診察を始め、「軽い捻挫ですね。よかった。すぐに治りますよ」と手当てをしたものだからもう大変。
「女性間での噂話はすぐ広まるものね」
「当然の対応をしただけなのに……」
「格好いい」
「あ、ありがとう、
それ以来、
「男性の、特に一部の人達からはすごく嫌われてしまったけれどね」
「ああ……、
毎回、武道専門教師の
「でも、よく
「あの人が好きなのは天性の美女だから。私にはその要素がないもの」
「
「うん、ありがとう
「女性はみんな好きだけれど、私と同じくらい美しい女性はもっと好き」と公言しているほどだ。
「幸運なことに、
「なるほどね。あんまり嬉しくはないけれど、同類だと思われているわけだ、
「嬉しくないけれど、そう」
三人は雅学室へ入ると、それぞれの席に着く。
全員が集まったころ、
「みなさん、ごきげんよう。今日は『鬼』について学んでいきましょう」
「では、どなたか『鬼』、『鬼人族』、『鬼神』、『
始めから静かだった雅学室が余計に静まり返る。
「おお、その勇気に感謝します。では、
「『鬼』は個人の怨念が生み出す変化によって成るもの。土地の怨念を集めて遺体に吸収させ、人工的に作ることも可能。『鬼人族』は赤肌大型鬼人族、青肌大型鬼人族、灰肌小型鬼人族などの総称。近年では肌の色ではなく、土地の名前で呼ばれることの方が多い。『鬼神』は神や仏が持つ武の化身であることが多く、鬼という字が示すのは邪ではなく強さの指標」
「『
「素晴らしい。完璧です」
「『鬼』の中には
あちこちから書き留める音が聞こえる。
「『鬼神』は
「『
次の話は、青梅に関わることだからだ。
「そして、『
鼓動が一層強くなる。
「その中でも、東方の『
「そんな最強の『
青梅の真名を知っているのは
信頼の証に捧げられたそれには、
裏切られ、陥れられ、血族皆殺しの目にあい、全てを奪われた皇子。
青梅はそれでも人間を恨むことも、憎むこともせず、
「それでは、次は『鬼』という文字を含む彼らの歴史について話していきましょう」
本日も座学は順調に進み、楽しい小休憩の時間がやってきた。
「次は武術演習だね」
「今日挑まれたら応じようかな」
「え、いいの?」
「二人を巻き込みたくないから」
昨日のこと。
「ご不満か?
「手合わせは技術の確認。それに、手加減してもらっているのは私の方だ」
「
「別に私も戦ってあげてもいいのだけれどね」
「
その時、武闘場からこちらに向かって走ってくる者がいた。
「
「
性格は全く違い、善良で柔軟。亜麻色のふわふわな髪が似合う美少女だ。
眩暈で滝から落ちかけていたところを救った一件から、
医術の心得があるところも共通点で、よく二人で深夜まで話し込むことがある。
何故かはわからないが、
「兄上と
目に涙を浮かべる
「大丈夫、大丈夫だよ。こんなにも優しい
武闘場の中にはすでに多くの門下生が半ば人質のように集められており、
「
「いえ。あの人たちの求めに応じます」
「でも……」
その衝撃で突風が吹き荒れる。
「はっ。それくらい出来て当然だよなあ?
「なぜ他の
「こうでもしなきゃ、お前は受けないだろ?」
「もう逃げられませんよ、
「私は
「馬鹿にしてんのか」
「違う。もしそうでもしなければ……」
「あなたの手を斬り落としてしまうから」
苛つきが頂点に達した
剣光が疾る。
純粋な腕力だけで言えば、圧倒的に
しかし、蓬莱刀の戦い方は、腕力だけではない。
三十合目を斬り結んだ瞬間、突如
「惜しかったなあ」
ただ風が吹いただけだと、その場にいた誰もが思った。
刹那、甲高い音の後、
「……は?」
「もう二度と構うな。次は容赦しない」
「勝ったつもりか? お前、霊力も使えるんだろ。俺たちと同じ条件で戦ってみろよ」
恥をかかされたと感じた
「次は私ですね。
「私の霊力花は花の貴公子、蘭です。あなたのは……。その見たことのない花……、この世の花ではないでしょう」
「私の霊力が形作るのは
「ふふふ。まさか、
「形がそうなだけで、毒はありませんよ」
「そんなこと、私が知らないとでも?」
お互いに十分な距離を取り、一礼し、鞘から抜き構える。
「では、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
一撃一撃が澱みなく繰り出され、正直なところ、戦い甲斐のある相手だと
さすがは
(でも、
二十合目まで様子見をしていた
そして五十合目、
「おお、まさかこういう終わり方になるとは。蓬莱人は戦意を奪うのがお得意なのですね」
「疲れたので早く終わらせたかっただけです」
先ほどまでとは違い、
呼吸も幾分荒い。
「さあさあ、もうお開きにしましょう。いいですよね? 先生方」
「そ、そうですね。このあとは自由時間としましょうか、
「そ、そうしましょう」
背を丸めて去っていった。
「では、何かあったらすぐに私に知らせてください」
「
「わ、わかった」
心配そうに
「かはっ」
倒れ込む
間に合った。
二人以外に目撃者はいない。
「本当、あいつら横暴だなぁ!」
普段は滅多に怒ることのない
「
「そんなに悲しそうな顔をしないで」
身体の調和を保つため、ゆっくりと
「あの人の剣、他人の霊力を吸い取れるんだね。油断した」
「だから
「そっか」
誰だったか忘れたが、なぜ校服の上に衣を着ているのか尋ねられた時に、話したのだ。
「この衣は私の弱い身体を補うのに必要なのです」と。
ただ、わざわざ教える必要もないと思っているだけ。
憐れみの目で見られるのは辛い。
(私は決して可哀想ではない)
「今度は私が戦う。全員の武器、へし折ってやるんだから」
「本当にやりそうだね」
現在達人榜一位の
瞬きの間に武器を掴み、破壊する。
それは相手の腕でも足でも
たおやかな見た目の
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