第三集:法霊武門
その間も、
何を患っているのか全て話した方がいいのか、と、
「気になる?」
「でも、まだ
「私では背負う資格がないのか」
「資格とか、そういう話ではなくて……」
「それなら……」
「
「私は
「
胸が苦しくなった。
それは
突然のことでどうすることも出来ず、
それでも、
「声が出ないなら、紙に書いて。お話しよう」と。
その日あった楽しいこと、少し悲しかったこと、一緒に見たかった景色のこと。
二十通程送ったあと、
手紙には「
すぐに
難しい文字には事前に母が振り仮名を振ってくれている。
朝から夕方まで、ずっと読み続けた。
でも、本は二日目で尽きてしまった。
最終日、
母が寝る時に歌ってくれる歌。父が食器を洗っている時に口ずさむ歌。
その全てが蓬莱語だから、
でも、
覚えている歌の最後の曲を歌ったあと、
それを聞き、
「
「あの時、兄上の声すら流れる川の音のようにうまく聞き取れなかったのに、
「私が成人したら、
心が、後押しする。
頬へ零れ落ちた涙を拭い、
「全部話す。私も、自分のことを、
「私の身体は、生成される霊力の半分を使ってその機能を保っている。もしその調和が崩れると、私は息をすることすら困難になる。それに、霊力の暴走によって意識が朦朧とするほどの熱が出て、手足の感覚が鈍くなる。淀んだ血液を排出するために吐血することも。意識を保っている間に、
それは左手を守るように巡り、まるで翡翠色の繭のようにも見える。
「私は
「私は
「そんな状況に心は疲労していき、一昨年、心が二つに割れてしまった。心は身体とは違い、二度と元に戻ることはない。私は身体も精神も病に罹患しているんだ」
「私が
「重くないの?」
「少しも。病ごと、大切にする」
「大袈裟だ」
「そうか?」
「うん。でも、嬉しい」
自分の力以上に、信じられるものに出会えたのかもしれない。
「じゃあ、そのうち私の両親に挨拶に来ないと」
「もちろんだ」
「この関係に名前はあるのかな」
「愛」
「ふふ。それは想いだよ」
「蓬莱にはね、想い合う二人のことを少し古い言葉で『
「では、私達は
「そうだね」
自分の病を恨んだこともあった。
嘆いて、粉々に壊れてしまいそうになったこともある。
でもそれも全部、未来を信じる力になるのなら悪くない、と、
「明後日から雅学だ」
「毎日送り迎えをする」
「それは駄目だよ。私の宿舎は女性専用の区画にあるんだから」
「あ……、そうか」
「休憩の時間にお話ししよう」
「明日は七大
「名前はわかるが、話したことはない」
「そうかぁ。いっぱい友達できるといいね」
長命種の人間にとって、十七歳から十八歳は青年期への過渡期。
その期間に
「私は特別に参加させてもらうから、みんなよりも一つか二つ年齢が下だけど、兄と弟とは五歳離れているし、会話するぶんには問題なさそう。
「私は特別だろう?」
「それはそう」
「問題は
「心配ない。私が」
「そこまで守ろうとしなくていいよ。自分のことは自分で守れる」
「応援する」
「うん。それが一番嬉しい」
二人は立ち上がり東屋を出ると、武闘場へ手合わせをしに向かった。
雅学は座学だけではなく、各
七大
門弟たちにその気はなくとも。
翌日、昼を過ぎた頃から続々と集まってきた。
その様子はまさに圧巻。
雅学の正装である黒い校服の波。
校服の背と左胸に入っている各
各
身の回りの世話をする侍従や侍女を連れてくることはもちろん不可。
「
「ああ、私のは
上に羽織っている白い杏花紋の衣を脱ぎ、背中を見せた。
「
「なんか、両親の仲の良さを宣伝しているみたいで少し恥ずかしい。
雨は火炎を弱め、金盞花には火傷を治す効果がある。
そして、花言葉は『慈愛』。
「すぐに
「確かに。あの家紋はどこの家?」
数珠のような円の中に、鬼灯に似た植物が描かれている。
「あれは…」
「見ろよ。
「うわ。あそこって嫡子よりも養子の方が優秀って有名な……」
「ほら、来たぞ。
「霊力の強さも全然違うんだろ?」
「そうそう。霊力の量こそ
彼らの嘲笑と不快な物言いに顔を顰めながら、
(可愛らしい顔立ちで小柄なのが
「
「さっきの人達の言葉が許せなくて」
色は個人によって違うが、発光する理由は主に怒り。あまりいいものではない。
「もういいや。
「それ、格好いいよね」
「
「うん。くるぶしのところで高速回転しているそれ」
「私は
「お母さんもお兄ちゃんも
その色は遺伝によって受け継がれる。
二人は武闘場へ着くと、それぞれ左手に剣と蓬莱刀を出現させ、鞘から抜いた。
「よろしくお願いします」
互いに一礼し、間合いを図ることもせず床を蹴って刃を重ねた。
火花が散る。
十合、二十合と、次々に斬り結んでいく。
「おい、なんか始まってるぞ!」
「こっち来てみろよ!」
二人の激しくも流麗な手合わせを見ようと、各
「
「お、
「
「あの家紋、初めて見る紋だ……」
どよめきが津波のように広がっていく。
百合目を斬り結んだところで、二人は最初の位置へ戻り、鞘に納めてまた互いに一礼した。
「さすがは
拍手をしながら近付いてきたのは
「もっとすごいのは、そんな
間に入ろうとする
ここで間違えれば、変な注目を浴びてしまう。それは避けたい。
「初めて見る刀に、刀術。そして家紋……。使っていたのも霊力とは違う力。お嬢さんはどちらの
「お初にお目にかかります、
「えっと……、それはどういう……」
「
「どうもどうもぉ! 皆さん、長旅でお疲れでしょうから、宿舎でゆっくりしてください」
まるで少女のような可憐さを持った
「お言葉に甘えて」と、次々にその場から立ち去っていった。
「ありがとう、
「人望だけはあるからね、私」
「
「わかった」
「
「二人はどうする? 私は兄上の手伝いで書房に行くけれど」
「私達も手伝う。ね?」
「女性門下生の皆さんの視線が少し鋭利だったのは、
「だと思うよぉ。
二人を見習い修練を続ければ必ず花開くと言われているほど優秀な兄弟だと有名で、
「でも、心配することないんじゃない?
「落とすって言い方は語弊があると思うのだけれど」
「だって、
「で、でもさ、ほら、あの、
「明日にはわかるんじゃない?」
「そうかなぁ……」
異性から恋愛感情をもたれず、同性から支持を得やすくなる紳士的振る舞い。
そんなことが息をするようにできれば、こんなに悩むことはない。
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