Track6 エピローグ
(■トラック6)
※通常マイクで収録予定※
これは誰にも語るつもりもないお話。
先輩が私を救ってくれて、先輩をストーキング、
もとい見守ってから数か月がたった。
先輩は第一印象と変わらず、とても優しい人だった。
誰に対しても、男女問わず。
残酷までに優しい人間だった。誰かを選ぶことをせず。
誰かを傷つけず、誰も傷つけない。
そして誰をも苦しめていた。
そんな先輩を見て「生きづらそう」そんなことを想っていた。
とある日の放課後。
いつものように先輩を見守る日々。
そして先輩は、もはや日課のような告白を女子から受けていた。
いつものように優しく傷つけないように断る。
けれどその女子は、この学校でいわいるボス的な存在だった。
学校を牛耳ってるって言い方は語弊があるかもだけど、
いわゆるクラスカースト最上位の人だった。
彼女はまさか自分がフラれるなんて微塵も思っていなかったようで、
その場で先輩を怒鳴りつける。
支離滅裂で自分勝手な言い分を、先輩は困ったように笑って流していた。
先輩は誰も傷つけてこなかった。
だから傷ついた人の対処法がわかっていない。
怒って帰ってしまった彼女を追いかけることもせずに、
ただ呆然としてるだけだった。
きっと怒った彼女にちゃんと向き合えば未来は変わっていたのだと思う。
そして次の日。先輩の地獄が幕を開ける。
彼女をフった次の日、先輩はいつものように教室に入ると、
向けられてる視線が変わっていた。
嫌悪する目が先輩に向けられている。
困惑する最中、クラスメイトに挨拶をするも無視されてしまう。
その日一日、先輩はクラスメイトはおろか、全校生徒から無視をされた。
まるで誰の瞳にも先輩が映らないように。
その現象に心当たりがある。身に覚えがある。
虐めだ――虐めが始まった。
昨日先輩をフった彼女が、あることないことを言いふらした。
急に先輩に襲われた、暴力を受けたなど。
ありえないと一蹴できる人はこの学校にはいない。
誰にでも一定の距離を保ってきた先輩のことを深く知る人はいない。
私のように先輩を瞳に焼き付けてる人じゃないと。
先輩がどのように虐められてきたなんて思い出したくもないし、
語るつもりもない。けれど壮絶だった。
今まで良くしてくれた人が、良くしてたはずの人たちが掌を返したように、
先輩を傷つけた。
誰にでも優しかった先輩に、優しくする人はいなかった。
そして優しい先輩は嘘を嘘だと告発もせずに、ただあるがままを受け入れていた。
誰も選ばないことを選択した先輩は、なにも選べない。
先輩の周りから誰もいなくなり、振った彼女の取り巻きが先輩をいじめてる。
そんな姿を何度も見た。
心が痛かった。助けてあげたかった。
けれど私は動けない。私じゃ助けてあげられない。
……。
先輩の地獄は数か月にもおよんだ。
そして、ついにその日が来てしまった。
とある日。奇しくもあのホームで先輩は自分の命を絶とうとしていた。
はたから見ればわからなかったかもしれない、けれど私にはわかる。
この半年ずっと先輩を見続けた私だからわかる。
先輩の身体が前に倒れる。
ダメ。それだけはダメ。そう思って私は先輩に手を伸ばした。
驚いたように私の方を振り返る先輩の瞳は、涙で滲んでいた。
その瞳には私が映っていた。前に見た光景とは逆の立場に私がいた。
先輩は私の手を取ってくれた。
私は今までにないくらい大きな力で先輩を引き上げた。
なんとか先輩を助けることができた。
あの時に自分がしてもらったように。
肩で息をしていると、ぞろぞろ人が集まって来た。
先輩は足を滑らしたと言い訳をしながら、笑顔を振りまいていた。
いつも見る嘘の顔。
だって、先輩はまだ私の手を握っている。
そして、その手がこんなにも震えているのだから。
少しして先輩がごめんね。と言って私のもとから離れていく。
その日を境に先輩は学校に来ることはなくなった。
先輩のいない日常で私は考えた。
先輩を救う方法はないのかと。
虐めを止めることは出来ない。私がしゃしゃり出たところで、
標的が一人から二人になるだけ。
もし私だけに標的が向くならそれにこしたことはない、
けれど優しい先輩は、私が標的になれば傷ついてしまうこともわかっている。
クラス全員が先輩を敵視してる。加害者だらけの教室。
そこでひとつ思いつく。
被害者になれないなら、加害者になればいいのでは、と。
私が誰よりも加害者になれば、
このくだらない人間関係に終止符を打つことができるのでは?
イジメなんて生ぬるいことはしない。
罪を犯そう。先輩を拉致監禁して閉じ込めるのだ。
先輩が行方不明なれば彼の両親が動くはず。
きっと警察が先輩を探す。
警察沙汰になれば先輩は誰よりも被害者になれる。
イジメではなく、犯罪の被害として。
犯罪に巻き込まれた先輩を誰が批難できる。
一番の理想は先輩がこの高校から転校すること。
こんな事件があった学校にはいれない。そう先輩に言って貰おう。
そうすれば誰かを傷つくることをせずに、先輩はこの学校を去ることができる。
もしそれが叶わなくても虐めはなくなるはず。
気の狂った女に拉致監禁された人を虐めるほど、
心が強い人間はこの学校にはいない。
そう考えて私は準備を始める。先輩を救う準備を――。
そして時は戻り、監禁生活の幕が下りる。
倉庫の向こう側でパトカーのランプの音がけたたましくなっている。
目論見通り、日本の警察は優秀だ。
私は重い扉をあけて、待機していた警察官に取り押さえられる。
光のない瞳は彼を見続け、光が灯る瞳では彼を心配する家族や、
私の知らない学校の人々の姿が見えた。
ああ、よかった。先輩を心配する人は私だけじゃない。
これからは先輩を優しくしてくる人だけに優しさを与えてあげてください。
そうすればきっと先輩は幸せになります。
そして私は取り押さえられた衝撃で意識を失う。
「どうか、先輩の窮屈な人生に癒しが待ち受けますように」と夢うつつで願った。
End
【囁き特化ASMR】俺のことが好きすぎる後輩に監禁されて癒される非日常【耳かき・抱き付き・耳さわり・吐息】 式結祈/Spica(スピカ) @Spica_oh
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