77.大地はゆっくりと潤す

 先代王となった伯父様は、意外な人に譲位した。もちろんお父様ではない。末の王女殿下よ。従姉に当たる彼女は、王族特有の能力を受け継いでいた。


 先祖返りなのよ。伯父様は水脈を追うことができる。末王女リリアーヌ様は、人の嘘を見抜く能力があった。嘘を聞いたら、くしゃみが出るんですって。珍しい能力よね。


 伯父様の水脈探しの能力は、役に立たなかったの。王でございと玉座にふんぞり返っていたら、水脈を探せないでしょう? でも王だからと王宮から出なかった。まあ、出たとしても水脈は見つからなかったでしょうね。能力が発覚したのは、溜池を作る場所を探していた庭師に、アドバイスしたから……らしいわ。


 リリアーヌ様の能力の方が役に立つわね。女王になるわけだし、少なくない数の部下ができる。その人達が報告する内容が、嘘か本当か。迷う必要がないんだもの。ただ、貴族って嘘が上手じゃない? 毎日くしゃみが止まらなくて大変そう。


 実際、王宮内で小耳に挟む話でくしゃみが止まらなくなり、自分から塔に閉じこもった人だもの。誰かがサポートしないと、仕事にならない。私のレオみたいに、先祖返りで献身的な人がいればいいけれど。


「ねえ、ユーグ叔父様って……」


 突然気づいたんだけれど、侯爵家以下の出身よね。護衛騎士だったのなら、伯爵以下の家柄の可能性が高い。その騎士様が、どうしてレオと同じ特性を持っているの? レオは公爵家だから、先祖返りも当然と思っていた。


「あれは……先祖返りではないと思うぞ。何しろ、執着がひどい」


 レオにだけは言われなくないでしょうね。顔を引き攣らせながら、視線を逸らす。執着激しい変態に、俺と違うと言われた挙句、執着がひどいと罵られるなんて。


「お父様、本国の大地は潤っていますか」


 話を逸らす作戦に出た。お母様が微笑んで答えてくれる。


「大量に降らせず、上手に調整するよう伝えてきたわ」


 説明された内容に聞き入った。一気に降らせると、乾いた大地は保水できない。吸水できずに表面を流れてしまうのだ。大地の上に生えている草や木といった植物を押し流すだろう。肥料を混ぜた畑の土も流れる。


 一度目は表面を濡らす程度、数日空けて今度はやや多めに。徐々に量を増やして、大地に雨を染み渡らせる方法を選んだ。正解だと思うわ。砂の上へ大量の水を流すと、染み込まず表面を流れちゃうのよね。


「ではまた戻るのですか?」


「いや、任せてきた。リリアーヌがしっかりしていたからな」


 はっはっはと笑うお父様は、自然とお母様の腰に手を回す。お母様も寄り添った。もしかして、弟か妹ができたりするのかしら。予言にならないことを祈るわ。いえ、生まれてるのはいいことだけれど……。


「そろそろ、こちらの大陸に本腰入れて国を興そう。初代は女王だな。頑張れよ、シャルリーヌ」


「……はい?」


「そうか、やる気だな。任せたぞ」


 嫌よと叫んだ時には遅く、お父様の発言に周囲は湧き立っていた。やられたわ、逃げ損ねてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る