78.逃走した父母を探せ
あれから三年が過ぎた。ようやく国が形になり、動き出したばかり。不備が見つかるたびに対処して、気づいたら結婚式どころかキスもお預けの状態が続いている。さすがに危険だと忠告に来たのは、セレーヌ叔母様だった。
「暴発する前に、対応した方がいいわ」
レオがイライラしているらしい。時々、虚に空をみているとか……嫌な予感がする報告ばかりだわ。
「すぐに呼び出しましょう」
女王を押し付けられ、挙句にレオに襲われるのでは割に合わない。彼の場合、監禁したりしそうなのよ。手足を切り落とすくらいのことはするわ。その手足も大事に防腐処理して保管されそうで、私が嫌なの。
「レオを呼んで」
ユーグ叔父様がさっと動いてくれた。セレーヌ叔母様の指示だけれど、本国の先祖返りじゃないのが不思議なくらい。叔母様に絶対服従の忠犬っぷりが、ずっと続いていた。領地で待てをしていたし、探したら他にも先祖返りがいそうね。
「シャルっ、呼んだか?」
喜色満面って、こういう時に使うんでしょうね。ぱっと明るい笑顔で、後ろに尻尾の幻影が見えるわ。ご機嫌な時のリュシーにそっくり。全力で駆け寄り、叔母様に気づいて急停止した。以前、人前で抱きつかないよう叱ったのを覚えているみたい。
「レオ、結婚式をしようと思うのよ。そろそろ国も一段落したし……逃げたお父様達を呼び寄せて、国を任せて逃走しましょう」
「居場所なら掴んでいる」
にやりと悪い顔になったわ。そう、お父様達の居場所を突き止めたのね。
女王の座を私に押しつけて、お父様は逃走した。お母様を連れて、置き手紙が一枚だけ。ちょっと旅をしてくるから、国は任せた……ですって。そのツケを払っていただきましょうか。
「呼び寄せて頂戴、断るようなら強制連行よ」
「任せてくれ、シャルの命令だからな。絶対に捕獲する!」
そこに義父母への敬愛はない。だって私だけを愛する変態だもの。ある意味、浮気の心配がないのは助かるわ。どんなに距離や時間があろうと、彼は私以外を愛せない。この執着は一種の呪いに近かった。
参列者のリストを作って、連絡をする。それは叔母様が請け負ってくれた。面倒だし、とても助かるわ。お父様達が逃げた後、ずっと私の相談役を務めている。叔母様も頷いた。
「お兄様にも困ったものです。娘に押し付けて旅行だなんて…………羨ましい」
最後の部分にぼそっと本音が……聞かなかったことにして、指示を出すレオの背中を見つめる。王族として生まれた義務は果たすけれど、できれば王位は継ぎたくない。これって先祖返りの一種かしら? 伯父様以外、全員が嫌がっているのよね。
伯父様がまともなら、やりたい人が王位に就くのが一番いいんだけれど。
「結婚式をしたら、私達は旅行に出ますわ。叔母様も……ねぇ」
「ええ、そうね。あの二人に代行をお願いしましょう」
二人でにやりと顔を見合わせて笑った。嫌なことだからと逃げ続けられると思わないでくださいね、お父様、お母様。
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